「食べる」×「健康」を考える③(前編)
「食べる」「噛む」を支えるために学生のうちから連携したい
食べる機能や噛む機能は、人のQOLに大きく関わります。今回は北海道の大学に通う医科・歯科・栄養科の学生が集まり、医療職として臨床に出てから「食べること」と「健康」を支えるために、学生のうちにどのようなことができるかを考えました。
「食べること」への関心
編集部:皆さんは、どういう経緯で「食べること」に興味を持ったのでしょうか?
佐々木(栄):両親が共働きだったので、よく弟に食事を作っていたのですが、自分の作ったものを「美味しい」と食べてもらえると嬉しいんですよね。食事で人をサポートしたいと思い、栄養士を目指しています。
鈴木(栄):両親ともに医療職なので、私も医療職になろうと思っていました。母が料理好きだったことと、祖父の嚥下訓練を見ていたことが、栄養士を目指したきっかけです。
杉村(歯):私は父が歯科医です。何度入れ歯を直しても痛みが出て、本当は食べたいのに食べられない患者さんを、小さい頃から間近に見てきました。歯がなくならないように保つこと、歯がなくなっても美味しく食べられる方法に関心があります。
重堂(医):口から食事を食べられることが全身の健康状態の改善につながるとは聞いたことがありますし、歯周病によって発症リスクが高まる疾患が多いことも学びました。けれど、医学部では食べることについて学ぶ機会があまりないため、考えるきっかけになればと思い参加しました。
編集部:医学部以外の皆さんは、授業で「食べること」に関連する内容を学んだことはありましたか?
佐々木(栄):私は、「自分で自分の栄養状態を評価することにはリスクもある」という話を授業で聞きました。食事やカロリーを意識して健康を維持しようとするのは良いことですが、過度なダイエットは、ときには摂食障害などにもつながります。数値ばかりにとらわれないよう、専門家が正しい知識を伝えたり、介入することが必要なのだと学びました。
杉村(歯):私は授業を通じて、自分の歯を残すことの重要性を改めて感じました。歯科では、歯を失った場合の様々な治療法について学ぶのですが、例えば、歯を失ったときに用いるブリッジという装具には、隙間に食べ物のカスが溜まりやすいという欠点があります。また、入れ歯も実はすごく口に負担がかかると言われています。口の中って敏感で、髪の毛が1本入っただけでも気が付きますよね。その中に人工物を入れ、食べ物を挟んで動かすわけですから、異物感はかなり強いんです。ではインプラントにすればいいかというと、確かに身体的負担は抑えられますが、お金もかかるし、治療にはかなりの時間をとられてしまいます。自分の歯を残しておくことは、思っていたよりずっと大事なことなんだな、と思いましたね。
「食べる」×「健康」を考える③(後編)
臨床に出て連携するために
編集部:皆さんは卒業して臨床に出てから、様々な医療職と関わると思いますが、特に「食べること」に関して他職種と連携するイメージはありますか?
草場(医):看護師や栄養士との連携はある程度イメージできますが、歯科のことはあまりわからないです。臨床実習で歯科口腔外科を回る機会はあるのですが、歯科領域について十分理解できているかというと、正直自信はないです。
杉村(歯):歯科衛生士や歯科技工士と連携することはイメージできても、その他の職種については想像がつかないですね。
鈴木(栄):私は実習先の急性期病院で、栄養サポートチーム(NST)の活動を見学しました。栄養士を中心に多職種がカンファレンスしているのを見てとても勉強になったのですが、栄養士の数が少ない医療機関ではどうしたらいいんだろう、という疑問も残りました。
和田(医):そうですよね。私の父は北見市で勤務医をしていて、月に数回過疎地に診療に出ていますが、医療資源が乏しいため、まずは治療が最優先だと言います。医療職が手を取り合って介入し、食事や栄養を適切に管理したり、歯を健康に保てるように関わるなど、予防的なアプローチをとれたらもっといいと思うのですが。
重堂(医):私は地域医療実習で留萌市に行ったのですが、留萌市では昔から、住民に高血圧の方が多かったそうです。そこで、保健師さんが中心となって食習慣に対する注意喚起や啓発を行ったところ、一定の効果をあげることができたと言います。例えばそういう活動に歯科領域の専門家も巻き込むことができれば、地域全体の食べる・噛む機能を、多職種で保つことができるのではないかと思います。
編集部:では、学生のうちにどんなことを学んでおけば、将来「食べること・噛むこと」を支えるために連携することができるでしょうか。
市村(医):まずは他の学部がどんな勉強をしているのかを知るだけでも、価値があると思います。今日参加して、自分がどれだけ他の学部のことを知らないのか、よくわかりました。
草場(医):僕は、地域の健康教室のような場に学生が関わることができれば、良い学びの場になるかもしれないと思いました。医療系学生がチームで参加し、地域の健康のために何ができるかをディスカッションして発表し、実際にやってみるといった機会を作れないでしょうか。
和田(医):面白そうですね。地域の方々にも長期的に関わっていただいて、実際に意識や行動が変わったかどうか検証することができたら、さらにやりがいがありそうです。
佐々木(栄):それぞれの職種が役割を発揮できる具体的な設定を用意すると、参加しやすいかもしれませんね。
鈴木(栄):確かに、例えば嚥下なら作業療法士、がん患者の味覚障害なら薬剤師といったように、疾患や症状が定まっていると、どの職種に声をかければいいか考えやすいですね。
重堂(医):疾患ごとにグループ分けをして、分科会のような形式にするのが良いかもしれませんね。ディスカッションの過程でお互いの専門性を知ることができるし、チームで一つのことを成し遂げる達成感も味わうこともできる。とても良い学びになると思います。
※学生の学年は取材当時のものです。
*括弧内は、参加した学生が現在教育を受けている分野を表すものです。
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