先輩インタビュー【外科】寺田 百合子先生(前編)
外科専門医を取るまでは休まずに続けようと思っていました
呼吸器外科の魅力
――先生は、6年目になった今年度、外科専門医の資格を取得され、現在は呼吸器外科で働いているそうですね。いつごろから呼吸器外科を志していたのですか?
寺田(以下、寺):医学生の頃からですね。子どもの頃から医師になりたくて、漠然と外科をイメージしていたのですが、医学部にいる間に、呼吸器外科を志すようになりました。左右の臓器が解剖学的に異なっていたり、様々な種類のがんの症例が見受けられたり、移植医療が盛んだったりと、多様な経験ができるところが、呼吸器外科の魅力だと感じています。
――外科の中では、比較的女性が働きやすい科だとも聞きます。
寺:そうですね。呼吸器外科の手術は、胸腔鏡手術がメインです。また、緊急性の高い手術はあまり多くありませんし、手術時間もそれほど長くないので、体力的に、女性にも働きやすい診療科なのかな、と思います。
外科専門医になるまで
――外科専門医の資格を取るまで、どのようなキャリアを経たのか教えてください。
寺:私は、卒業時点で外科という進路を意識していたので、外科系プログラムがあり、外科に強い当院を臨床研修病院に選びました。研修医時代は、専門医取得のための症例数を少しでも稼ごうと、2か月おきに全ての外科をローテーションしました。上級医の先生も非常に理解があり、私が外科志望だと知ると積極的に手術に入らせてくださいました。
――2年目くらいだと、どのような症例を経験できるものなのですか?
寺:結腸切除術や肺葉切除術については、2年目の最後にはメインの術者を担当させていただきました。ずっと助手でいると、モチベーションの維持が難しい部分もあると思うので、術者をさせてもらえたことは非常にありがたかったですね。
――3年目からは医局に入られたんですね。
寺:はい。研修先に残ることも考えましたが、医局に入って様々な環境を経験した方が、自分の視野が広がるかなと考えました。実際、大学病院にいる期間は、珍しい症例を診られたり、様々な先輩医師の手術を見せていただけて、非常にためになったと感じています。一方、3年目の秋から2年間赴任した病院では、ほとんどずっと消化器外科の症例を診ていました。
――将来的に呼吸器外科を目指す場合でも、消化器外科の経験は役に立つものですか?
寺:そうですね、消化器であっても手術の基本技術は共通しているので、経験を積み重ねることは後々のためになると思います。また当直の際など、外科当直の担当として虫垂炎や腸穿孔などの緊急手術に入らなければならないこともありますから、幅広く知識や技術を持っておくことは良いことだと思います。もちろん専門医試験を受ける際にも、消化器外科で得た知識はとても役立ちました。
先輩インタビュー【外科】寺田 百合子先生(後編)
高まる要求水準
――外科専門医の資格を取ってみて、何か変化はありましたか?
寺:専門医資格を持っていること自体は、何でもないと思うんです。当直の時に緊急かどうかを判断するぐらいのことはできますが、それ以上何ができるというわけでもないですし。一人前の外科医としては、まだまだだと感じています。この後、呼吸器外科専門医の資格を取るレベルまで行けば、かなり多くのことができるようになって、一人でも科を回せたり、後輩を指導したりすることもできるようになるのかなと考えています。
――つまり、外科専門医は、さらに専門である呼吸器外科や他の外科の専門医資格、いわゆるサブスペシャルティを取るまでに、その前提として通っておくべきところというような認識なのでしょうか。
寺:そうですね。むしろここからが大変で、要求される水準もかなり高くなります。呼吸器外科専門の手術の症例を、開胸・胸腔鏡・全摘出・部分切除…などの細分化された分類ごとに、決められた件数ずつ経験しなければならないですし、論文も3本以上は書かなければなりません。大変ですが、最短なら8年目で取れるので、今はそこを目標に日々修練しています。何も目指すものがないと気が緩んでしまうこともあると思うので、呼吸器外科医としての自覚をしっかり持って診療にあたるためにも、サブスペシャルティを身に付けたいと考えています。
通過点のひとつとして
――特に女性の先生だと、専門医資格をとる時期とライフイベントが重なる場合が多いのではないかと思います。いつ結婚や出産をしたらいいのか…と悩む女子医学生も少なくないのですが、先生はどのようにお考えですか?
寺:私は、外科専門医を取得するまでは、できるだけキャリアのブランクは作りたくないと考えていました。というのも、外科専門医の資格を取るためには、消化器外科、心臓血管外科、乳腺外科など、本当に幅広い知識や技術が求められるからです。ブランクができてしまうと、どうしても知識が頭から抜けてしまいます。そのため、外科専門医を取るまでは何とか頑張りたいと思い、留学のお話も断って診療にあたってきました。私はまだ結婚はしていませんが、もしそうした機会があるとしたら、これから呼吸器外科専門医を目指すまでの期間なら、ブランクがあっても取り返しがつくのかな、と感じています。
――最短で専門医資格を取りたいと考える場合には、先生のように、臨床研修の時点で目指す診療科が決まっている方が有利なのでしょうか?
寺:そうかもしれません。臨床研修の時点から外科のコースを選ぶことで、関連の学会に行ったり、発表したりすることができたのは、3年目からの診療にとても役立ったと思います。ただ、3年目からのスタートであっても、もちろん遅くはないと思いますよ。今から私が他の診療科に転向することだって可能だと思うぐらいです。医師人生、長いですからね。
――医学生にメッセージをお願いします。
寺:学生の時は、私も数年後のことを考えて、気にしたり焦ったりしていましたが、いざ医師になってみると、何とでもなると思えてきますよ。医師国家試験を受けることも、専門医試験を受けることも、医師のキャリアの中の通過点ですから。私はこれから医局の人事で様々な病院で勤務しながら、呼吸器外科専門医を目指し、大学院で研究もし、さらにはその上も目指していくことになると思いますが、そういう大まかなビジョンさえあれば、マイペースに働いていけると思いますよ。
寺田 百合子
日本赤十字社医療センター 呼吸器外科
2011年 金沢大学医学部卒業
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