厳しい診療科だからこそ
周囲の人に笑顔で接することを忘れない
【小児心臓血管外科】原田 雄章医師
(福岡市立こども病院 心臓血管外科)-(前編)
厳しい道をあえて選んだ
――先生は初めから小児心臓血管外科志望だったのですか?
原田(以下、原):大学の頃から小児の外科系に行こうと思っていました。特に小児の循環器疾患や先天性の疾患に興味があったので、小児心臓血管外科を選びました。父が小児循環器の医師ですので、小児の循環器疾患を意識してきた部分はあると思います。けれど父は、大変な仕事だからと、私が医師になることには反対していました。私はあえて厳しい道を選びたいと思ってしまうタイプなので、父が医師になることを強く勧めていたら、この道には進んでいないかもしれません(笑)。
――小児心臓血管外科を専門にできる大学は限られますよね。
原:はい。当時、九州では九州大学しかありませんでした。地元が博多だったこともあり、学生時代から、臨床研修を終えたら九大の心臓血管外科に入局すると決めていました。そこから成人と小児の両方を経験しつつ、小児心臓血管外科をサブスペシャリティとして身につけてきました。
この福岡市立こども病院は、心臓血管外科分野では西日本の中核を担っているので、各地から重症の子どもたちが集まります。市中病院では心房・心室中隔欠損症などを診ることも多いのですが、ここは単心室や複雑心奇形といった重症例を診ることの方が多いですね。
厳しい診療科だからこそ
周囲の人に笑顔で接することを忘れない
【小児心臓血管外科】原田 雄章医師
(福岡市立こども病院 心臓血管外科)-(後編)
小児ならではの難しさ
――小児ならではの難しさはどういったところにありますか?
原:一つは、患者さんとのコミュニケーションですね。子どもは自分の言葉で物事を伝えられないことも多いので、状態を把握するのが大変です。また、保護者の方とのコミュニケーションもとても重要です。今している治療の内容や、今後の方針を常に説明するようにしています。避けられない急変もありうるので、いざという場合でも納得していただけるだけの信頼関係を築けるよう心がけています。
手術に関しても、小児と成人では違いがあります。子どもの場合、成人よりも術後管理の重要性が高いと思います。手術が終わっても、むしろそこからが本番といった感じですね。術後のバイタルが最も乱れやすい時期を、いかに落ち着かせるかが私たちの腕の見せどころです。基本的に、ICUに術後管理を任せきりにするわけにはいかないので、重症の子だと、術後1週間ぐらいは泊まりこみで診なければいけない場合もあります。急変も多く、肝臓・腎臓・皮膚など様々な臓器で感染症や機能不全などを併発することもあるので、他科の先生にも助けていただきつつ治療を進めます。
――循環器分野で、内科との連携もあるのでしょうか。
原:もちろん、小児循環器内科とは定期的に合同カンファレンスを行って治療方針を決め、手術の日程を組んでいます。術後のエコー検査も循環器内科の先生にお願いしています。それから、胎児診断で産前に先天性の心疾患がわかっている場合には、産科や新生児科と相談して、産後数日で手術をするケースもあります。何か相談するにもされるにも、他科の先生との日頃からのコミュニケーションが大事ですね。
今後のキャリア
――今後、どのようなキャリアを考えていますか?
原:医局では、7~8年目で大学院に行き、学位を取得して臨床に戻るというのが一般的です。私も今後研究に取り組み、一度臨床に戻った後、どこかで海外に臨床留学できればと考えています。海外では術後管理は他に任せて手術のみを行うため、1日に4~5件手術をするのが当たり前のハイボリュームセンターもあります。そういう所で多くの重症例を経験し、学んでいければと思っています。医局提携の留学先はなく、自分で探さなければならないので大変ですが、強い志を持って探すつもりです。
――小児心臓血管外科に対する思いや、この科を目指す医学生へのメッセージをお願いします。
原:小児心臓血管外科は、勤務時間も他科に比べて長く、厳しい診療科であることは否めません。元気になった子が急変して亡くなることも多いですし、悲しい思いやつらい思いをすることもたくさんあります。それでも助けたいという思いが強くなければ、続けていくのは難しいかもしれません。けれど、そういう厳しい環境だからこそ、私は常に患者さんやその家族、周りのスタッフに笑顔で接するようにしています。上司も良い先生ばかりで、日々学べることを幸せに思いながら働いています。
学生の皆さんには、今のうちに勉強以外にも様々な経験をしてほしいですね。この科では、自分一人では何もできません。手術は上の先生や看護師さん、臨床工学技士さん、他科の先生などがいて初めて成り立つんです。ですから、いろんな人とコミュニケーションがとれるようになるためにも、学生のうちに多くのことに挑戦して、しっかりした人間性を身につけてください。何でも一生懸命やって多くの刺激を受け、強くなってほしいと思います。
2007年 長崎大学医学部卒業
2016年7月現在
福岡市立こども病院
心臓血管外科
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