医師への軌跡
医師の大先輩である先生に、医学生がインタビューします。
人に寄り添う医師として患者さんとご家族と共に歩く
岡﨑 三枝子
秋田大学大学院医学系研究科 小児科学講座
秋田大学医学部附属病院 総合臨床教育研修センター 特任講師
看護学から始まった医療の道
永井(以下、永):先生は、秋田大学医学部に入学される前、4年制大学の看護学部に2年間在籍されていたそうですね。
岡﨑(以下、岡):はい。看護とは、患者さんの訴えを聞き、その医療的・社会的・心理的要因を見極めて介入することだと教わりました。そして、看護でできることは看護で解決していき、最後に残ったことを治療するのが医師の仕事だと学んだのです。看護学を学んだのは2年だけなので、専門性をすべて理解できているわけではありませんが、医師となった今もその教えは生きているように感じます。
永:その後、医学部に入学し、小児循環器領域を専門に選ばれました。
岡:昔から、道ですれ違った子どもに手を振られたりと、子どもに好かれやすい雰囲気があるようで、それなら子どもと関係する分野を専門にしようと思ったのです。「命を助ける」ところに一番近い救急の仕事がしたかったのですが、私が専門を決めた当時、秋田大学には小児救急の部門がありませんでした。だからといって、救急医療を必要とする子どもがいないわけではありませんので、そういう子どもたちを助けるのに一番近く、全身管理ができるということで、選んだのが小児循環器領域でした。
患者さんの訴えに寄り添う
永:先生が小児科医として心がけていることは何ですか?
岡:患者さんとご家族と共に歩くということです。私たちとご家族の出会いは、重大な病気の告知など、強い精神的ショックを与えてしまうところから始まります。頭が真っ白になってしまったご家族から少しでも話を引き出していき、話してくれたことはすべて受け止めるように努めています。
子どもに手術を受けさせるべきか迷っているご家族の背中を押した時、自分を含めその場にいる全員が泣いていたということがあります。普段の外来を見た他の先生から「先生は診察のとき、いつもご家族と楽しくおしゃべりしている」と言われたこともありますが、患者さんの話は最後まで聴くという泥臭い診療をしています。
永:なぜ、そのようなスタイルを貫かれているのでしょうか?
岡:患者さんの話を適当に切り上げて他の業務を進めたほうが職業人としては評価されるかもしれませんが、医師の仕事を全うするために一番大切なことを突き詰めて考えた結果、自分にとってそれは患者さんに寄り添うことだと思ったのです。
永:先生は私たち学生に対しても寄り添ってくださっているように感じます。
岡:後輩が学びを深める過程に寄り添える指導医でもありたいと思っています。医療の世界では導き出された結論が何よりも重要とされますが、そこに至るまでのプロセスをサポートしたいのです。人を指導する技術を得たいと考え、卒後10年目くらいにAHA-PALS *のインストラクターの資格を取りました。小児科医と並行して、今後は指導医としてのキャリアも積みたいと考えています。
永:人に寄り添える医師になるためには、どのようなことを心がければ良いのでしょうか。
岡:自分の長所はもちろん、短所も大事にしてほしいですね。医学生は勉強ができる人が多いせいか、自分のダメなところに対して「ちゃんと克服しなければ」と思い詰めてしまう人が多いように感じます。でも、自分の生活習慣を振り返って何か欠点が見つかると、患者さんが失敗してしまったとき、その気持ちに寄り添った工夫もしやすくなるのではないでしょうか。
とはいえ、あえて患者さんと距離をとることで良好な関係を築いている医師もいますし、正解があるわけではないので、自分がどうなりたいかを大事にしていくことが一番だと思います。
*AHA-PALS…アメリカ心臓協会(AHA)の提唱する小児二次救命処置法(Pediatric Advanced Life Support)
岡﨑 三枝子
秋田大学大学院医学系研究科 小児科学講座
秋田大学医学部附属病院 総合臨床教育研修センター 特任講師
1991年、千葉大学看護学部入学。1993年、同学部を中退し、秋田大学医学部に入学。1999年に卒業し、同大学附属病院小児科の研修医となる。2005年、同大学医学系研究科博士課程修了。2019年より同大学医学部附属病院総合臨床教育研修センター特任講師。
小児循環器専門医。AHA-PALS インストラクター資格取得。
永井 久子
秋田大学医学部 5年
岡﨑先生は学生に優しく、話しやすい先生です。以前から、患者さんを安心させるような柔らかい雰囲気の中に、どこか力強さのようなものがあるように感じていました。今回お話を伺ってみて、その柔らかさの中にしっかりとした芯があるのだと改めてわかり、そこが先生のかっこよさなのだと思いました。
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