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令和8年(2026年)9月20日(日) / 南から北から / 日医ニュース

「帰りにシャーシン買ってきて」

 仕事が終わるとLINEにタイトルのようなメッセージが子どもから届いていることが時々ある。シャーシンとはシャープペンシルの芯のことで、今時はそのように呼ぶらしい。リクエストはボールペンの替え芯だったり消しゴムだったりもする。何であれ、文房具の買い物リクエストはあまり面倒に感じない。文房具店に行くのはちょっと楽しみでもあるからだ。
 学生の頃の私は文房具好きだった。恐らくそういう人は多いはずだ。文房具は勉強の相棒なので実用性が最優先だが、同時に自分のこだわりや嗜好(しこう)を反映する自己表現の手段でもあったと思う。普段使いのものなら小遣いでも手が届くので、昔も今も学生と文房具の付き合い方はそう変わらないのではないだろうか。
 うちの子どもたちも文房具にはそれなりのこだわりがあり、自分で気に入ったものを見つけて大事に使っているようだ。お父さんへの買い物リクエストは消耗品に限られるが、それにもいろいろ指定項目がある。「シャーシン」は昔なら0・5ミリのHBで決まりだったと思うが、今はメーカーも太さも硬さも様々だ。ボールペンの芯も同様だし、ノートものりも選択肢が多い。昔との違いを一番感ずるのは付箋(ふせん)の種類の多さだ。自分が高校生の頃は近所の文房具店に付箋なんてあったっけ? こんなにいろいろな付箋があれば目的に応じていろいろな使い分けができるはずだ。昔もこんなのがあったら良かったのに、と思う。
 話が変わるが、皆さんは「keep」消しゴムを覚えておられるだろうか? MONOと並ぶ往年の定番商品の一つだったと思うが、メーカーが昨夏倒産して消滅してしまった。ニュースで知った時は少し残念な気分になった。
 さて、子どものリクエストの文房具を手にしたら後は文具売り場をぶらぶら眺めて楽しむのだが、自分の買い物は無い。残念ながらお父さんは今や文房具とは全く無縁の生活だからだ。朝から晩まで手にするのはシャーペンではなく、電子カルテのタブレットのペン、そしてキーボードとマウス。医師になってからしばらくは紙カルテの時代でボールペンが手放せなかったが、電子カルテが登場すると筆記用具は無用になってしまった。
 診療業務だけではなく、医局に居ても文房具を手にすることはほとんどない。ほぼPCの画面を見てキーボードを操作しているだけだ。手書きの書類が来たりするとむしろ面倒に感じてしまい、ますます文房具と疎遠になっていく。
 病院内に限った話ではなく、職場でも日常生活でも、文房具を始めとした「モノ」を扱う場面は随分と減ったように思う。大抵のことはPCやスマホ上、オンラインで済んでしまう。ゴミは出ないし便利なのも間違いないが、情報やコンテンツばかり相手にして「モノ」に接することがないのは時々味気なくも感じられる。
 子どもたちの学校生活にも今ではタブレットが入り込んでいるが、タッチペンで手書きしたファイルをオンラインで提出するなど、主な使い方は旧来の文房具の進化型のようだ。これはこれで面白いし、素晴らしい。そしてシャーシンも消しゴムも紙のノートもまだまだ健在だ。目の前に教科書や問題集を広げて、昔の自分と同じようにお気に入りの文房具で書いたり消したりしながら勉強している。その姿を眺めていると、ちょっとうらやましい気がしてくる。

新潟県 新潟市医師会報 NO.658より

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