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令和8年(2026年)1月20日(火) / 日医ニュース

風邪を引くのはいつも週末―風邪の効用―

 風邪は、なぜか週末を狙ってやってくる。平日は交感神経がフル稼働し、免疫反応のメーターが振り切れそうになる。ところが週末になると、副交感神経が働き、「休め」と号令を掛ける。その瞬間、抑え込んでいたストレスや疲労が、風邪という形で姿を現す。風邪とは、身体からの「無理をするな」という真っ当な警告信号である。
 野口晴哉は『風邪の効用』の中で、風邪は経過するものだと語っている。薬で押さえ込むのではなく、自然に任せて経過させることで、体は蛇が脱皮するように新たな生命力を取り戻すと。確かに、風邪を引いた後に不思議なほど食欲が湧き、生気が満ちてくる経験は誰にでもあるだろう。
 風邪は単なるウイルスとの闘いではない。体と心が互いに声を掛け合う場でもある。寒気やだるさは「休め」という体からのメッセージであり、気力の低下は「立ち止まれ」という心の合図だ。風邪を経過させることは、その声に耳を傾けることに他ならない。
 診察室で「先生はいつも元気ですね」と言われても、実は週末にベッドで寝ていたのは秘密だ。週明けにはすっかり風邪が治り、身体は何事もなかったかのように仕事と向き合う。風邪で来院した患者さんの前で「風邪を引くのも悪くはないですよ」とは、誤解されそうでなかなか言えない。
 医者は、患者の前ではいつも元気でなければならないと思い込む。それもまた一種の職業病だ。風邪を引くというのは、心身をそっとリセットするために、自然が用意したちょっとした儀式なのかもしれない。

(文)

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