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令和7年(2025年)11月6日(木) / 「日医君」だより / プレスリリース

財務省財政制度等審議会財政制度分科会における「社会保障」等の議論について

 松本吉郎会長は11月6日の記者会見において、前日5日の財務省財政制度等審議会財政制度分科会(以下、財政審)での令和8年度予算編成に向けた議論の内容を受けて、「このままでは人材流出と経営悪化により医療・介護提供体制が維持できなくなるという危機感が全く感じられないことは、極めて遺憾であり、強く抗議する」と反論。その上で、「公定価格で運営されている医療機関等で働く938万人の賃上げが、可能となる環境を整えることが不可欠である」と訴えた。

 松本会長は診療報酬について、本来は社会保障審議会で議論された、あるべき医療の姿を念頭に、中医協において診療側・支払側・公益委員の三者で検討すべきものであるとした上で、「財政的観点のみから財政審が個別の診療報酬まであげつらうことは越権行為と言わざるを得ず、看過できない」と強く批判した。

 更に、「財政審の資料は、社会保障の給付と負担を一体的に捉えない、著しく偏った内容になっている」と指摘。「保険料は全て国民の健康と生活を支える医療・介護サービスとして還元されている」と述べた上で、現役世代にとっての社会保障のメリットというと子育て支援の充実にまず言及しがちだが、離れて暮らす親への仕送りや医療・介護を心配することなく、能力と適性に応じた場所で活躍できることこそが、子どもの有無に限らず現役世代のメリットであると提唱した。

 また、「健康保険料は給与全体の数%であり、可処分所得の向上はその数%分を削減して行うのではなく、あくまで賃上げで目指すべき」と主張。実際に「骨太の方針2025」で示された2025年春季労使交渉の平均賃上げ率5.26%は、協会けんぽの労使折半保険料率5%を上回っていると述べた。

 その上で、松本会長は財政審の議論には、看過できない事実誤認が多数含まれると指摘し、「総論」及び各論の「医療」に関する部分でそれぞれ5点の誤りを挙げた。

 「総論」では、(1)現役世代が負担する社会保険料負担、(2)医療・介護に係る保険給付費等の伸びと現役世代の保険料負担、(3)経済・物価動向等への対応と現役世代の保険料負担、(4)マクロの家計可処分所得の変動要因、(5)勤労者世帯の税・社会保険料負担の推移―の5点について指摘した。

 (1)では、協会けんぽの保険料率が2012年度以降、過去の推計値よりも低い10.0%のまま推移しているとして国民に過度な不安をあおるべきではないと批判。(2)では、「2022年から2024年の直近3年間で見れば、雇用者報酬の伸び3.0%は保険給付費等の伸び2.1%を上回っている」と直近の具体的な数値を挙げて反論し、適切なデータを基にした議論を求めた。

 (3)では、現役世代の可処分所得を増やすために社会保障給付を削減すべきとする主張は、医療・介護分野で働く現役世代は可処分所得増どころか額面の報酬も上がらず、取り残されても構わないと主張しているようなものであると強く批判。「社会保障給付費の増加を財政制度改革等により無理やり抑えることは、国民への社会保障給付を大幅にカットすることと同義であり、医療保険制度の根幹を揺るがし、受けられる医療が制限される事態を招く」と抗議した。

 (4)では、「年金などの現金給付のみが考慮されており、医療や介護のサービス給付が考慮されていない点でミスリードと言わざるを得ない」と指摘。医療や介護の現物給付を含めれば可処分所得が増加していることを、財務省は無視しているとした。

 (5)では、社会保険料負担率の伸びが強調されているが、社会保障給付費はそれを上回るペースで増加しており、直近10年間の保険料負担の伸びは極めて緩やかである点を強調した。

 その上で松本会長は、医療機関の半数が赤字という危機的状況において、医療・介護従事者が離職せず働き続けられる、かつ医療・介護サービスを提供する基盤を将来にわたって維持できるような十分な経済対策とともに、令和8年度診療報酬改定では、改定2年目以降も予想される賃金・物価上昇に確実かつ機動的に対応できるよう、医療の高度化や高齢化等に対応した通常の改定である政策的改定とは別に、賃金・物価の毎年の上昇を視野に入れた改定を求めた。

 各論の「医療」の部分に関しては、(1)2026年度診療報酬改定の全体像①、(2)2026年度診療報酬改定の全体像③、(3)全人的なケアの実現に向けた「かかりつけ医機能の評価」の再構築(総論①)、(4)受診時定額自己負担の導入、(5)薬剤自己負担の在り方の見直し―の5点について反論した。

 (1)では、「今改定はインフレ下での『今後の道しるべ』となる極めて重要な改定であり、財務省によるデフレ下における10数年間の"適正化"名目による誤った医療費抑制策を踏襲してはならない」として、高齢化による増加分に、経済・物価動向等に対応する増加分を確実に加算することを求めた。

 (2)では、診療所の経営状況に関して、現在の無床診療所の経常利益率の中央値は2.5%、最頻値は0.0~1.0%であり、同様の形態である専門サービス業の14%弱と比較して著しく低いことを説明し、「地域医療を守る診療所については、頻繁な入退場は望ましいことではなく、一定の利益率がないと、安定的に存在していくことは不可能」と強調。無床診療所の利益率は、決算月が直近になるほど利益率が低くなっており、2025年度は更に悪化していることが予想されるとし、診療所の適正化を行うための恣意的な資料であると強く非難した。

 (3)では、かかりつけ医機能等について、現在が「過渡期」と表現されているが、法改正も施行され、現在の制度に基づき地域を面で支えるものであることから、この方向性に沿って完成形として近づけていくべきと主張。「1人の医師だけを登録するという、いわゆる『登録制』は、患者さんの医療へのアクセス権、医師を選ぶ権利を阻害する提案だ。国民・患者さん側からすれば、財務省が主張する『登録制』で自分の行ける医療機関が限定され、かかりつけ医を固定されるような提案は、決して望んでいない」と述べ、地域で面としてのかかりつけ医機能をしっかりと果たしていくべきとした。

 (4)では、「医療が必要な患者に、これ以上必要な受診をためらわせるようなことがあってはならない」と述べ、国民皆保険制度の下で培われた早期発見・早期治療の体制が必要であることを強く警告した。

 (5)では、OTC類似薬の議論を含め、これまで記者会見等で述べてきたとおりであるとして、「国民の安全性や公平性を損なわないよう、慎重な議論が必要」という従来の見解を改めて強調した。

 最後に、松本会長は11月4日の国会で高市早苗内閣総理大臣が、経営難が深刻化する医療機関への支援は急を要するとして、「診療報酬改定の時期を待たず、経営の改善や職員の方々の処遇改善につながる補助金を措置し、効果を前倒しする」と答弁したことにも触れ、「これ以上、適正化等の名目で医療費を削減すれば、国民の医療へのアクセスが保障できないため、前例のない大規模で抜本的な対応、財源を純粋に増やす、いわゆる『真水』による思い切った改定が必要である」と訴えた。

◆会見動画はこちらから(公益社団法人 日本医師会公式YouTubeチャンネル)

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