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令和7年(2025年)5月20日(火) / 日医ニュース

令和8年度診療報酬改定に向け、医療機関を取り巻く状況を確認

令和8年度診療報酬改定に向け、医療機関を取り巻く状況を確認

令和8年度診療報酬改定に向け、医療機関を取り巻く状況を確認

 中医協総会が4月23日、都内で開催され、令和8年度診療報酬改定に向けた議論が開始された。
 当日はまず、厚生労働省事務局より、(1)医療需要と医療費に関する概況、(2)医療機関の経営状況、(3)現状と課題―に分けて医療機関を取り巻く状況についての報告が行われたが、今回の報告は令和8年度改定に向けた主な検討スケジュールの審議の際、厚労省事務局側から、通常審議に先立ち、「医療機関を取り巻く状況や、医療提供体制・地域医療構想について議論すべき」との提案があり、了承されたことで実施されたものである。
 (1)では、①インフレに伴い人件費も上昇しており、医療関係職種の人件費も例外ではないものの、産業全体の平均には及んでいない②国民医療費は全体として増加傾向にあり、入院・外来の1日当たり医療費も同様となっている③患者数は2020年度に大きく減少したものの、その後、2023年度にかけて回復が見られる―こと等が報告された。
 (2)では、2022~2023年度に掛けた医療法人の経常利益率について、①平均値及び中央値はどの類型(病院・無床診・有床診)も低下傾向②最頻値は0・0~1・0%―とされた他、事業利益率はどの病院類型においても低下傾向にあり、病院の100床当たり事業収益は増加しているものの、それ以上に事業費用が増加していることが、事業収支悪化の要因であるとされた。
 (3)では、支出が増加している現状分析の結果として、①病院100床当たり常勤換算従業者数②医療関係職種の給与額③従事者の年齢上昇に伴う人件費―が上昇しているとされ、その要因として、薬剤費、病院・診療所の建築単価の増加があるとの説明がなされた。
 また、今後の課題として、①近年の医療機関の経営状況やその要因②特に病院における、収益の増加を超える費用(人件費・材料費・委託費等)増加の要因③医療機関の収支の状況を踏まえた診療報酬の評価の検討を行うに当たり、更にどのような分析が必要か―の3点が挙げられ、議論が行われた。

純粋な形での診療報酬の引き上げを―長島常任理事

 議論の中で、長島公之常任理事は、①昨今の物価上昇等により医療機関の経営は非常に厳しい状況になっており、日進月歩する医療の技術革新への対応もできていない②次回改定の最大の課題は「他産業に負けない賃上げができるよう、医療機関収支を改善させること」であり、そのためには当然、診療報酬の引き上げが必要③これまでの改定では、引き上げにさまざまな条件が付されることで、医療機関にはより多くのコストを費やすことを求められてきたため、経営に余裕が生まれることはなく、むしろ体力が削がれてきた④昨今の物価・賃金の上昇で、もはやこれまでのようなやり方では、医療機関経営は安定しない⑤純粋な形での診療報酬引き上げが必須という認識を議論のスタートラインとすべき―などと主張。
 加えて、物価・賃金の上昇に適時・適切に対応できる診療報酬の仕組み、並びに社会保障予算の財政フレームの見直しとともに、医療DXの導入・推進のための委託料や導入費用も上昇しているとして、令和6年度補正予算の速やかな執行を求めた。
 更に、同常任理事は医療機関の収支を踏まえた診療報酬の評価の検討を行うに当たり、どのような分析を行うのか厚労省事務局に確認するとともに、多くの医療機関が足元の資金繰りに苦心していることから、税金の支払い及び借入金の返済を含めた資金繰りの実態の分析を行うよう要望した。
 その他、今後の議論に当たっては、「インフレの進行状況を鑑みると、2023年度の概況を示す資料では不十分」と指摘。医療機関の窮状が明らかとなるよう実態に近い資料を基に議論を行うべきとした。
 茂松茂人副会長は、長いデフレ下にあっても国民医療費が増加しているとの指摘に対して、「高齢者の増加に伴う自然増であり、その伸びを自然増の範囲に収めなければならないため、医療技術の進歩への対応はできていない」と反論。その結果、日本の医療水準が低下し、世界と比べて大きく後れを取っているとして危機感を示した。
 今後、中医協では今回の長島常任理事らの要望を踏まえ、より実態に近いデータを基に、診療報酬改定に向けた議論が行われることになっている。

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