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令和7年(2025年)5月5日(月) / 南から北から / 日医ニュース

週末スローライフ

 子どもの頃のゴールデンウィークの行事は、お茶摘みだった。実家の畑には、土地の境界の目印を兼ねて、点々とお茶の木が植えてあり、毎年家族総出の仕事であった。収穫したお茶は加工場に運び、でき上がったお茶は、6人家族のほぼ1年分を賄っていた。
 今年の春も、濃い緑の古い葉の先に、鮮やかな黄緑色の新しい葉が伸びていた。長い間見向きもしなかったのに、なぜかその時、これを放っておくのはもったいないと、新芽を摘み始めた。額に汗をかきながら、2時間程で笊(ざる)一杯になった。
 お茶は全てツバキ科の常緑樹「チャ」の葉から作られるが、加工方法の違いによって、緑茶、烏龍茶、紅茶などになる。すなわち、お茶の葉を摘み取ってすぐに加熱し、発酵しないようにして作ったのが緑茶、完全に発酵させるのが紅茶、その中間に位置するのが烏龍茶などの半発酵茶だ。
 ありがたいことに、YouTubeには、お茶の作り方を分かりやすく解説した動画が多数ある。熊本の住まいに茶葉を運び、戸惑う妻を巻き込んでお茶作りを始めた。
 まずは、緑茶から。ホットプレートに茶葉を広げ、菜箸で混ぜながら炒めるように弱火で加熱し、発酵を停止させる。全体の水分が飛び、葉のまわりが少ししんなりとしてきたら竹笊に上げ、転がすように手でもみ、葉の内側から水分が押し出され、表面にツヤが出て手にペタペタと吸い付くような感触になったら、また加熱する。この工程を数回繰り返し、爪で茎を強く押して簡単に折れるくらいまで水分が飛んだら完成だ。
 紅茶は、炒る前に手もみから行う。粘土で団子を作るイメージで、葉全体の水分が均一になり、手にペタペタと吸い付くようになったら、湿度が高く温かい場所に放置し発酵を進める。この日は、天気が良かったので、ビニール袋に入れ、暑くなった車のシートの上に2時間程放置したところ、見事に赤褐色の紅茶色になった。その後は、緑茶と同じように、発酵の停止と乾燥のための加熱と手もみを繰り返す。烏龍茶の場合は、摘んだ後放置して発酵が進み茶褐色になった茶葉を、緑茶と同じように加熱と手もみを繰り返して作る。
 気まぐれで始めたお茶摘みと、初めてのお茶作りだったが、紅茶と烏龍茶は思いの外うまくできた。ただ、緑茶は、摘んだ葉の発酵がすぐに進むのと、手もみの要領が悪く茶葉がうまく縮れず、草の香りがする薄味の烏龍茶になってしまった。
 翌週、このままでは終われないと、摘み残した新芽を摘み、緑茶作りに再度挑戦した。今度は、摘んだ茶葉の発酵が進む前に実家で行った。怪訝(けげん)な目でのぞき込む母の手を借りて、最初の炒りと手もみを丁寧に行った。1回目の緑茶とは全く別物の、小さく撚(よ)れた濃緑のお茶ができ上がった。縁側に座り、庭を飛び回るメジロを眺めながら、早速お茶を淹れた。釜炒り茶独特の香ばしさに加えて、今まで味わったことのない、ほのかな甘みが口に広がった。
 父が亡くなってから、母の話し相手と雑用を兼ねて、実家に帰ることが増えた。熊本と天草のプチ二拠点生活だ。来年はもう少し上手に緑茶を作ろうなどと妄想しながら、週末だけのスローライフを楽しんでいる。

熊本県 森都医報 NO.887より

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