松本吉郎会長は3月5日の定例記者会見で、前日に令和7年度予算案が29年振りに一部修正のうえ衆議院で可決されたことを受けて、日本医師会の見解を述べた。
松本会長は、これまで必要な財政支援措置を求めてきたが、令和7年度予算案には、地域医療の崩壊を防ぎ、医療提供体制の整備・強化に必要な予算として、「入院時食事療養費の1食あたり20円引上げ」の他、「周産期・救急医療体制等の充実」や「地域医療構想・医師偏在対策・かかりつけ医機能等の推進のための支援」などが盛り込まれていると説明。また、かかりつけ医機能の推進については、先週パブコメが締め切られたことを受け、これまで議論した方向に進んでいるとの認識を示した。その上で、「参議院での予算審議も控えているが、危機的な病院経営への迅速な支援を実施するためにも、速やかな議論を期待している」と述べた。
診療報酬改定等の非改定年であるが、(1)令和6年診療報酬改定でベースアップ評価料が新設されたが、令和6年春闘の結果における全産業での賃上げ合計額との差は2.6%あり、全く追い付いていない、(2)2012年を100とした場合、2024年の全産業と医療業の賃金の伸びには5%以上の開きがあり、時間を追うごとにその差は開いている―と説明。「著しく逼迫した医療機関の経営状況を鑑みると、まずは補助金での迅速な対応が必要だが、令和8年度診療報酬改定の前に、期中改定も視野に入れて対応していく必要がある」と主張した。
高額療養費制度の10年ぶりの見直しに関しては、「制度を見直さずに済むのであれば、それに越したことはない。今回、高額療養費制度の自己負担上限額を見直すことになった要因は、財務省が主張しているシーリングの考え方にある」と指摘。「高額療養費の見直し等で、患者さん達に過度な負担を強いることがないようにするため等にも、社会保障予算に関する財政フレームの見直しを行い、『社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制する』という取り扱いを改めるよう強く求めていきたい」とした。
また、これまでの経緯について松本会長は、高額療養費制度は、高額な治療を要する際に経済的な不安に対処するために非常に重要な制度であり、維持するためにも見直しが必要なことに理解を示しつつも、患者さんに過度な負担を強いることがないよう、一貫して丁寧な制度設計を求めてきたと主張。医療保険部会において引き上げ賛成の声も多い中、日本医師会は患者自己負担の軽減を主張し続けてきたこと、更に限度額の引き上げで受診控え等による病状の悪化を招かないよう丁寧な議論を重ねて求めてきたことを改めて強調。「今回、政府において、患者さんたちの声も聞いて一部修正したことについて、一定の理解を示したい」と述べた。
その上で、松本会長は「患者さんは自己負担を増やしたくない、国民は保険料や税をなるべく負担したくないと考えるが、社会保障は個人単位で考えるのではなく、病気になった人を社会全体で支えるための制度であり、医療費財源をどのように確保するのか、国民全員での十分な議論が必要」と述べた。その上で医療提供体制は整然と一律に形作られたものではなく、医療資源や高齢化など地域の実情を踏まえて形成されており、先人たちの努力の歴史により、絶妙なバランスの上に成り立っていることから、全体のバランスを取りながら慎重に対応しなければ、国民の生命・健康の危機に直結すると指摘。日本医師会としても、医療にアクセスできない人が出ないよう丁寧な議論が必要だと考えていると述べ、医療現場や患者さん達の声をしっかりと政府に届けていくと強調した。
社会保障改革は、令和5年に閣議決定された改革工程に基づき、時代に即して進められ、今国会にも、医師偏在対策や新たな地域医療構想などに関する法案が提出されているとした。そのうえで、薬剤保険給付のあり方は、令和5年に「OTC類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し」も含めて議論が行われた結果、昨年10月より長期収載品に選定療養の仕組みが導入され、患者さんの自己負担が増えたばかりである中で、再度更にOTC類似薬における薬剤の自己負担を見直すことについては、今回の高額療養費のように、患者さんの負担増につながることから、慎重に議論を行うことが大切だと主張した。
その他、松本会長は「骨太の方針2025」についても言及し、その取りまとめに向けては、(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」社会保障予算の目安対応の廃止、(2)診療報酬等について、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入、(3)小児医療・周産期体制の強力な方策の検討―という3つの対応が必要になると主張。(1)では、財政フレームを見直すなど別次元の対応、(2)では、医療・介護業界でも他産業並みの賃上げができるような賃金・物価の上昇を踏まえた仕組みの導入、(3)では、小児医療・周産期体制は著しい人口減少により対象者が激減する中で、全国津々浦々で対応するための強力な方策の構築の必要性をそれぞれ指摘した。
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