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令和7年(2025年)2月13日(木) / 「日医君」だより / プレスリリース

OTC医薬品に係る最近の状況について

 宮川政昭常任理事は2月13日の記者会見で、社会保険料の削減を目的に、OTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化を進めることに対し、重大な危険性が伴うとして強い懸念を示すとともに、日本医師会の考えを説明した。

 宮川常任理事はまず、具体的な懸念点として、1.医療機関の受診控えによる健康被害2.経済的負担の増加3.薬の適正使用が難しくなること―を挙げ、1.について、「はたから見て軽微な症状でも、医師の診断を受けることで重篤な病気の早期発見につながる場合がある」と述べ、そのような診察では、重大な病気ではないことの確認こそが大きな役割になるとの見方を示した。

 その上で、OTC類似薬の保険適用が除外されると、患者が自己判断で市販薬を使用し、適切な治療を受けられずに重篤化する可能性が高まるとともに、結果として治療が遅れて合併症などを引き起こし、かえって高額な医療費が発生するリスクがあることを指摘。「こうしたリスクは、"個々人の危険性が少し増す程度"との過小評価をする方もいるかもしれないが、わが国全体で見ると、確実に多くの方が不幸を背負ってしまうことになる」と述べ、政策として容認できるものではないとした。

 2.では、「市販薬は処方薬に比べて価格が高く設定されており、特に経済的に困窮している人々の負担が増えてしまう。また、医療アクセスが制限されることで健康格差が広がり、結果として社会全体の健康水準が低下する恐れがある」と説明。現在、国民の手取額の増加に向けてさまざまな議論が行われている中、病気で働けない場合、自身で高額なOTC医薬品を購入することになり、結果として自己負担が増えることにしかならないとした。

 また、乳幼児医療費助成制度などがある地域では、医療費や処方薬費の自己負担は無料または少額のところ、解熱薬や咳止め薬等の治療のための高額なOTC医薬品を購入しなければならなくなり、結果として子育て世代の自己負担が増えてしまうとの見方を示した。

 更に、「本来求められる政策は、そのような方が有給を取って適切に受診して回復し、"早期に"職場復帰して"活躍する"ことではないか」と投げ掛け、病気になった方が過度の自己負担を強いられることは、弱者に更なる追い打ちをかける行為であるとして、社会保障というセーフティネットの毀損にしかならないという観点からも賛同はし難いとした。

 3.では、健康や医療に関する情報を入手・理解し、活用する能力である「ヘルスリテラシー」について、日本は国際的に比較して低い位置にいるという調査結果があることを紹介した上で、そのような状況下で医師の診断無しに市販薬を選ぶことは、誤った薬の使用や相互作用による健康被害が広まると指摘。「特に高齢者や基礎疾患を持つ方は複数の薬を服用していることが多く、副作用のリスクが増大するとともに、薬剤師の負担が増し医療現場への影響も懸念される」とした。

 1.~3.を踏まえ、宮川常任理事は、「保険料を支払っているにもかかわらず保険を使えなくなり、結果として自己負担が増えたり薬の適正使用が難しくなるような仕組みは、国民にとって望ましくない」との見方を示し、国民皆保険制度では、すでに小さなリスクは「定率負担」、大きなリスクは「高額療養費」で対応するという基本的な考え方が組み込まれていることを解説した。

 また、財政健全化の立場から一部で「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」という主張があることに言及。国民の生活を支える基盤として、「必要かつ適切な医療は保険診療により確保する」という国民皆保険制度の理念を今後とも堅持すべきあり、国民皆保険制度において、給付範囲を縮小すべきではないという日本医師会の考えを説明した。

 併せて、財政上の理由から保険給付範囲を縮小していった場合、たとえ全ての国民が公的医療保険に加入しているとしても、国民が必要とする医療を給付できなくなると指摘し、「低所得者層の貧困化も社会問題となる中、所得などによって必要な医療を利用できる患者と利用できない患者の間での分断を生み出してはならない」と述べた。

 宮川常任理事は最後に、日本医師会がこれまで、「税金による公助」「保険料による共助」「患者の自己負担による自助」の3つのバランスを考えながら進めること、今般の高額療養費制度の議論についても同様に、自己負担のみを上げないこと及び低所得者に配慮することが重要であると主張してきたことを改めて説明。「高齢化の伸び等により財政が厳しいことも承知しているが、安全性や公平性を損なわないよう、慎重な議論とバランスの取れた政策が求められる」とした。

 その他、当日は松本吉郎会長、釜萢敏副会長、笹本洋一・黒瀨巌両常任理事もOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化について、自身の診療経験を基に見解を表明した。

 松本会長は皮膚科医の立場から、たとえば広い皮膚炎を患っている患者に外用薬を処方している場合、これをOTC医薬品で購入すると、比較的安価な薬剤ですら非常に大きな自己負担の増加が起きると説明。自身が診ている患者からも心配する声が届いていることを紹介するとともに、「保険料の負担を少し下げたとしても、実際に薬局で薬を購入する時の金額はとても高くなることをマスコミや国民の方々に知って頂きたい」と強調した。

 釜萢副会長は小児科医の立場から、改めて小児等の医療費助成制度が果たしている役割の大きさを説明した上で、OTC類似薬の保険適用除外によって薬剤費の自己負担が発生することになった際は大きな影響が出てくると指摘。小児は症状の変化が急激なことが特徴で受診のハードルを下げておく必要があるとの考えを示し、「小児科医として、(OTC類似薬の保険適用除外などは)あってはならないと強く思っている」と述べた。

 笹本常任理事は眼科医の立場から、OTC類似薬の保険適用除外が起きると、ドライアイやアレルギー性結膜炎の点眼薬等が対象になりうると説明した他、釜萢副会長と同様に小児の診療に関して大きな負担増となることを指摘。本来であれば医師の正確な診断による治療が求められるところ、自己判断による病状の悪化など重大な危険性を伴う可能性にも懸念を示した。

 黒瀨常任理事は消化器内科医の立場から、逆流性食道炎を例として、患者が胃酸を抑える薬剤を市販薬で購入することになった場合、本来ならかかりつけ医を定期的に受診することによって見つかる大きな病気等がフォローされなくなる可能性を危惧。「見つけられるものが見つけられない、助けられるものが助けられないといったことに結び付く」と述べ、臨床医の立場としてOTC類似薬の保険適用除外等は看過できないとの考えを強調した。

◆会見動画はこちらから(公益社団法人 日本医師会公式YouTubeチャンネル)

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