日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会は昨年12月20日、同日の大臣折衝で令和6年度診療報酬改定の改定率等が決定したことを受け、合同で記者会見を行った。
松本吉郎会長は冒頭、今回の決定に対する政府・与党の尽力に感謝の意を示した上で、改定率について、「三師会を始め、四病院団体協議会、医療関係を中心に42団体が参画する国民医療推進協議会など、医療界が一体、一丸となって対応した結果だ」と述べ、各地域において、都道府県医師会・郡市区等医師会が、地元選出の国会議員に対して、医療が置かれている現在の厳しい状況や医療施策への更なる理解を求める活動を実施したことも大きな力となったとした。
日本医師会としての受け止めについては、「物価・賃金の動向、保険財政や国の財政など、さまざまな主張や議論を踏まえた結果であり、必ずしも満足するものではないが、率直に評価をさせて頂きたい」と述べた。
次に、個別項目について触れ、まず、これまで日本医師会は、令和6年度診療報酬改定に向けて、30年ぶりの賃金上昇・物価高騰への対応が必要だと主張してきたことを説明。賃上げ対応分プラス0・61%については、基本診療料を中心とする診療報酬の引き上げで対応することが望ましいとの考えを改めて示した。
また、賃上げ促進税制について、与党「令和6年度税制改正大綱」において、恩恵を受ける医療機関がほぼないことなどの問題が解消されたとした上で、診療報酬の「看護職員処遇改善評価料」等について、これまでは「給与等に充てるために他の者から支払いを受ける金額」として、減税対象となる給与支給額から除かれる取り扱いだったものが、これらの加算等を財源とする賃上げ額についても減税措置の対象となったことや、赤字法人は賃上げ促進税制による減税効果を得られなかったところ、最大5年間は繰り越して控除できる措置が導入されることになったことを説明した。
更に、財務省財政制度等審議会(以下、財政審)が当初、診療所の経営状況は極めて良好だとして、診療所の報酬単価を5・5%程度引き下げ、初診料・再診料を中心に報酬単価を大幅に引き下げるよう求めていたことにも言及し、改定率から考えると、コロナ禍において診療所が果たした役割に対して一定の評価がなされたとの見方を示した。
加えて、財政審が求めてきた、医療界の分断を図るような病院と診療所での診療報酬を分ける対応やリフィル処方箋(せん)の促進、地域別診療報酬の導入等も大臣折衝に含まれておらず、「日本医師会の主張を踏まえた結果と受け止めている」と強調した。
2040年も見据え更なる改革を進める
社会保障審議会医療保険部会及び医療部会での議論を経て決定された「改定の基本的視点と具体的方向性」を踏まえ、今後、中医協での具体的な配分の議論に移ることに対しては、「令和6年度からの医療提供体制に向けて、これまで三位一体の改革と言われていた『地域医療構想』『医師の働き方改革』『医師偏在対策』を始め、総力を挙げて取り組んでいくことが必要」とした上で、令和6年度中には、これまでターゲット年であった団塊の世代が全員75歳以上となる2025年を迎えることから、次のターゲット年となる2040年も見据えて、更なる改革を進めていくことになるとした。併せて、診療報酬だけではなく、税制、補助金、支援金、更には文部科学省からの大学病院への運営費交付金・私学助成金など、あらゆる手段を全て活用する必要があるとの考えを示した。
続いて、見解を述べた高橋英登日本歯科医師会長は、まず、「我々は国民を幸せにするために仕事をしている」とした上で、医療が最も大切な社会インフラであることを強調。「診療報酬改定は、国民の命と健康、そして世界に冠たるわが国の国民皆保険制度を維持、そして持続可能なものにする作業だ」と述べた。また、今回の改定率に対しては、「医療、介護に関わる全ての組織が一丸となって国民のために頑張った結果だ」と述べ、厳しい経済状況の中、十分とは言えないまでも一定の評価はできるとして、今後も三師会を中心に医療界が力を合わせて諸課題に取り組んでいく姿勢を示した。
山本信夫日本薬剤師会長も、松本会長と高橋日歯会長と同様に、厳しい経済状況の中、賃上げの必要性への理解に一定の評価をするとともに、医科、歯科、調剤の配分比率が堅持されたことに謝意を示した。また、医療DX等、種々の課題に対応していく必要性を指摘した上で、「今回の貴重な改定財源を基に、国民・患者への安心・安全な医療提供体制を確保し、全ての薬剤師・薬局が、かかりつけ機能を発揮して、地域医療の一翼を担う気概をもって、国民の健康な生活を確保できるよう、質の向上に取り組んでいきたい」との考えを示した。
長期収載品の選定療養化で国民への周知と薬不足への配慮を要請
その後の記者との質疑において、松本会長は、2024年10月からの導入が決まった長期収載品の選定療養化についての質問に対し、「制度導入時の混乱が、かなり生じることは予想される」と述べ、まずは国が患者や国民に周知すること、また薬が不足している状況への配慮もされるべきだと指摘した。その上で、患者負担が差額の「4分の1」になったことについては、厚生労働省が示した選択肢のうち、日本医師会が主張した「最も少ない患者負担」となったと述べた。
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