

第11回ワークショップ「会員の倫理・資質向上をめざして―ケーススタディから学ぶ医の倫理―」が1月29日、日本医師会館小講堂で開催された。
角田徹副会長の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長(代読:茂松茂人副会長)は、まず、本ワークショップが開始された経緯に言及。昨年末に逝去された森岡恭彦元日本医師会副会長/元日本医師会会員の倫理・資質向上委員会委員長がその開始に尽力され、医学の進歩に伴い新たな倫理的課題が生じ得ることを見据え、常に倫理を学び、医師一人一人が高い問題意識をもって行動することの重要性を強調していたことに触れ、「日本医師会としても森岡先生のご遺志を受け継ぎ、今後も医師の倫理・資質向上に一層努める」と述べた。また、今回のテーマである「いわゆる"善きサマリア人法"」については、法制化を求める声があることも承知しているとした上で、ドクターコールを始めとした緊急時の医療行為が安心・安全に実施できるよう、本ワークショップを通して、その現状を理解し、知見を深める機会となることに期待を寄せた。
続いて、「善きサマリア人法について―医事法関係検討委員会の取り組み」と題して講演を行った森本紀彦島根県医師会長/日本医師会医事法関係検討委員会委員長は、(1)「お医者様はいらっしゃいませんか」のドクターコール、(2)重過失ってなに、(3)災害(救急)現場におけるトリアージ、(4)民法698条ってなに、(5)「善きサマリア人法」を制定する場合はどうすればよいか―について解説。
(1)では、航空機内等でのドクターコールに関して、「医師が名乗り出るのをためらう最大の要因は『結果が思わしくない場合に訴えられるのではないか』という不安にあるが、最初に訴訟の対象となるのは航空会社であり、医師個人ではない」として、理解を求めた。
(2)では、例えば、禁忌選択肢を選んだような場合が重過失に該当すると考えられ、「害をなさない」「不慣れな処置をしない」ことの重要性を指摘した。
(3)、(5)については、震災や通り魔事件等においてトリアージに関わった医師等が非難された事例を受けて、免責を求める声や「善きサマリア人法」のような法整備を求める動きがあることを紹介。法制化には民事上の免責範囲や対象者の設定など、さまざまな問題がある他、シンポジウムの開催や医学生への講義等を通じて、国民的な合意形成をすることが不可欠になると強調した。
また(4)については、現状の民法698条(緊急事務管理)において「悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない」と規定されていることから、新たな法は不要との意見がある一方、トリアージ問題等を含め、医師等を守ってくれる法律の必要性も提言されているとして更なる検討が必要であるとした。
次に、「善きサマリア人法について―弁護士の立場から」と題して講演を行った、医師でもある児玉安司弁護士(新星総合法律事務所)は、(1)スジとスワリ~民事手続と刑事手続、(2)いわゆる「善きサマリア人法」―について説明した。
(1)では、「スジ」と「スワリ」の意味について、①「スジ」とは大きな価値判断(正義・善悪)や社会の常識②「スワリ」とは過去の判決の積み重ね―であるとした上で、裁判官、検察官、弁護士はそれぞれ異なる立場ではあるが、この「スジ」と「スワリ」の整合性を考慮しながら実務に当たっていると解説。一方、「スジ」と「スワリ」は、時代の流れによって大きな変化が生じるとして、その事例を紹介した。
また、昨今の医療訴訟についても言及し、医療事故による刑事事件の起訴人数は大きく減少しているとした。
(2)では、いわゆる″善きサマリア人法"について、その制定に当たっては①対象者②救助が義務付けられているか、義務付けられている場合の範囲③緊急時の注意義務の軽減を行うか否か④救助行為によって救助者が損害を被った場合の補償の有無―などを検討する必要があると説明した。
引き続き、座長役を務めた樋口範雄東京大学名誉教授から、「討論の課題と進め方」についての説明が行われた後、以下の二つの事例、
| ●事例①:心肺蘇生を試みたが死亡した際の法的責任(外出先で高齢男性が倒れ、呼吸停止状態であったため、救急車を要請するとともに心肺蘇生を試みたが、救急車の到着が遅れ、男性は心肺停止となり、死亡してしまった際の法的な問題) |
| ●事例②:航空機内での対応時には体調に問題がなかったものの、後日に病状が悪化し、死亡してしまった場合の法的責任(航空機内でのドクターコールに対して可能な限り処置を行い、目的地に到着したものの、後日に容体が悪化して死亡した場合の法的な問題) |
について、参加者が六つのグループに分かれて議論を交わし、各グループからの発表並びに全体討議が行われた。
討議の中では、事例①に関して、「救急車の要請や心肺蘇生といった適切な処置が講じられている」「一般市民による救命行為と同様で、今回はたまたま医師が救命に当たったと解釈できる」などから、「法的な問題はない」とする意見が多数を占めた。一方、訴訟リスク軽減の観点から、AEDの使用や周囲の人への協力要請などを行ったかということの重要性も指摘された。
事例②に関しては、「航空法上の機長権限内で適切な処置が講じられている」「機内での処置に重過失が認められなければ、降機後の死亡について責任は問われない」などとして、「法的な問題はない」とする意見が大半を占めた他、航空会社だけでなく、鉄道会社等との議論も深める必要があるとの指摘がなされた。
また、航空会社側による「全ての責任を負う」との明言に対する信頼性については、「書面等による合意がないため、確実に信頼できるとは言い切れない」といった慎重な意見が出され、「適切な対応が講じられるよう、BLS(一次救命処置)能力の向上等に努めるべきである」との意見が述べられた。
最後に総括した樋口名誉教授は、現行法について「医師の安心感につながっておらず、新法の制定によるメリット・デメリットを鑑みながら、より明確で分かりやすく、医師が守られる法律の制定が求められる」とする一方、「その検討に当たっては、新法の制定が逆効果とならないよう、慎重に進めなければならない」と強調し、ワークショップは終了となった。
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いわゆる"善きサマリア人法"とは偶然居合わせた人が急病人などを救うために善意で行動し、たとえ不幸な結果を招いたとしても責任を問われないという趣旨の法律を総称した呼び方(欧米諸国を中心に例がある) |

いわゆる"善きサマリア人法"とは

