宮川政昭常任理事
宮川政昭常任理事
今号では、令和5年10月に導入が予定される消費税のインボイス制度に関して、会員の先生方から寄せられた質問に対する宮川政昭常任理事の回答を掲載する。 |
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Q1令和5年10月からインボイス制度が導入されるとのことですが、インボイスとは何ですか。
A 消費税は消費者が負担する税金ですが、税務署へ納税するのは消費者から消費税を預かった事業者です。事業者はその際に、「売上先から受け取った消費税額」から「仕入先に支払った消費税額」を差し引くことができます。これを「仕入税額控除」と言います。
令和5年10月から「仕入税額控除」を受けるためには、支出の証拠書類として、法定の記載事項を具備した「適格請求書等」の保存が義務付けられることになりました(後述の免税事業者と簡易課税事業者を除く)。
この「適格請求書」を、一般に「インボイス」と呼びます(図1)。
消費税を納める課税事業者が免税事業者との取引で支払った消費税が、「益税」にならないようにすることが、インボイス制度導入の目的の一つです。
なお、医療機関の患者さん(一般消費者)は、消費税の申告も仕入税額控除も行いませんので、インボイスを保存する必要はありません。
Q2クリニックが買い手の立場で領収証や請求書等を受け取った場合、インボイス制度の導入で、どんな対応が必要になりますか。
A インボイス制度が導入された時の「仕入取引」に関する対応は図2のとおりです。
なお、「仕入取引」における対応については、医療機関に特有の内容はなく、一般の業種と共通になります。
Q3医療機関が発行する領収証や請求書等については、インボイスの記載事項を満たすように変更する必要があるのでしょうか。
A 「売上取引」への対応は、相手先が消費者か事業者かで分かれます。
売上の相手先が患者さんの場合、一般消費者である患者さんに出す領収証等は、現状どおりで良く、インボイスを発行する必要はありません。
一方、売上の相手先が消費税の申告をしている事業者(企業等)の場合、消費税のかかる取引(課税売上)については、その相手先からインボイスの発行を求められることが想定されます。
なお、インボイスは、「適格請求書等発行事業者(以下、「インボイス発行事業者」と言う)」として税務署の登録を受けた課税事業者(消費税の申告・納付をしている事業者)でなければ発行することができません。
Q4当院では企業の健康診断を複数行っています。
最近、その中の数社から「インボイスを発行する準備をされていますか」と問い合わせがあったのですが、どのような準備が必要ですか。
A 企業から社員の健康診断や予防接種などを受託していたり、企業から治験を請け負っている医療機関では、「仕入税額控除」を受けるために、令和5年10月以降、その企業からインボイスの発行を求められることが考えられます。
そのため、企業等の事業者に対する課税売上がある医療機関においては、「インボイスを発行するため、インボイス発行事業者の登録申請を行うか否か」の検討が必要となります。
令和5年10月1日からインボイス発行事業者として登録をしたい場合には、原則、令和5年3月31日までに登録申請書を税務署に提出する必要があります。
事業者に対する課税売上がある医療機関における令和5年10月以降の選択肢は、以下のように整理されます(図3)。
ただし、既述のとおり、インボイスは課税事業者でなければ発行できませんので、現在免税事業者の医療機関がインボイスを発行しようとする場合、自ら課税事業者になる選択をする必要があり、その際には新たに納税義務が発生します。
一方、「免税事業者なのでインボイスは発行できない代わりに消費税は頂かない」ということをアピールして、企業と交渉する選択肢もあると思われます。
免税事業者であり、かつ事業者に対して課税売上がある医療機関は、「自ら課税事業者となる選択を行うか否か」も含めて慎重に検討し判断する必要があります。
日本医師会では資料「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入と医療機関の対応」を作成し、日本医師会ホームページに掲載しています。 https://www.med.or.jp/dl-med/doctor/report/zeisei/2022ik_2124.pdf 特に以下の方は必ずご確認頂きますようご案内申し上げます。 ・消費税の納税が「一般課税方式」の医療機関等
→令和5年10月からインボイスの保存が必要となります。 ・事業者宛に課税売上(健康診断や予防接種等)の領収証や請求書を発行する医療機関 →インボイス発行準備について、その要否を含めてご検討下さい! |
医療機関の売上げ先のほとんどがインボイスとは無関係の患者さんであり、消費税非課税の社会保険診療売上げが多くを占めることから、インボイス制度の導入で大きな影響を受ける医療機関は多くはないものと思われます。
日本医師会としては、インボイスを発行する機会の少ない医療機関が過度なシステム改修などを慌てて行うことのないように、引き続き情報収集の上、周知を行って参ります。