閉じる

令和3年(2021年)1月20日(水) / 南から北から / 日医ニュース

子どもの頃の楽しくない思い出

扁平足(へんぺいそく)
 小学5年生の時、クラス生徒の全員が体操場に集められて、腰を下ろして裸足で足底を広げさせられました。担任の先生が10センチくらいの幅の板を持って足底を見て、私の所に来た時「扁平足」と言いました。みんなの前で扁平足と体の不具合を言われて、私はこれまで体のどこも悪くはなく普通に過ごしていたので、驚きのあまり気持ちが急に落ち込んでしまいました。
 扁平足とはどういう病気なのか、また扁平足の人は何が不都合なのかが分からないので、家に帰り父に言ったら、父は「足底の土踏まずがへっこんでいないので、長歩きはできないから兵隊検査では不合格と言われた人がいたらしい」と言って、気にしない様子でした。
 翌日学校に行ったら、友達から「扁平足」と軽蔑したような顔で言われ、自信が無くなりました。
 その日から扁平足とはどういう病気なのか、どうすれば治るのかと真剣に悩みました。担任の先生に相談したら「河原に行って何回も石を踏めば良くなる」と教えられたので、それからほぼ毎日、最上川の原っぱに行き石踏みをしました。天気の良い日は石が日光で熱せられるので、その熱い石を踏むと痛くて我慢ができないくらいでした。父とお風呂に入って上がり床上のぬれた足跡を見たら、父の足跡は足底の土踏まずの部分が抜けているが、私の足跡は全部ぬれたままでした。
 毎日2キロメートルくらいの通学路を歩いても疲れないし、他の人に比べて特に歩くのに劣るところはありませんでした。
 数カ月くらい経った時、学校帰りに友達の家に遊びに行こうとしたら途中にお寺がありました。お寺の門前に、お釈迦様の足底が刻んである仏足石(ぶっそくせき)がありました。よく見ると土踏まずのくぼみはなく、のっぺらとしていわゆる扁平足でした。この時、私の足底はお釈迦様と同じであることを発見し、急にうれしくなりました。これで劣等感を持たなくても良いと思うと天にも昇る気持ちでした。
 兄に辞書の引き方を習い、仏足石について調べたら、お釈迦様の足の裏の形を刻みつけた石のことで、お釈迦様の足跡を信仰の対象としたものであり、指の渦巻き紋は太陽を象徴し、真ん中の千幅輪紋(せんぷくりんもん)は仏法が太陽のように満遍なく行き渡り、衆生(しゅじょう)の苦しみを救うことを意味するとありました。
 大人になっても扁平足はそのままだったので、体についての劣等感は残っていました。医学部に入り、整形外科の教科書の疾患別の項目で、最初に開いたのは扁平足の項目でした。目を皿のようにして読みましたが、原因・治療についてはたった数行しか記載はなく、結論として放置して良いということでした。
 そうすると子どもの頃から悩み続け、劣等感を植え付けた扁平足の有無の検査とは何だったのだろうか。

山形県 山形市医師会たより 第615号より

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる