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平成31年(2019年)2月5日(火) / 南から北から / 日医ニュース

二人だけの、ヒ、ミ、ツ

 干支(えと)も6巡目を迎えると、身体のあちこちに不具合が発生するようだ。年末年始の大連休と1月初めの3連休の狭間に、1泊2日の検査入院をした。そんな時期のためか、県内有数のその病院でも、この時ばかりは7割位は空床で静かなものであった。
 消灯前の8時頃、廊下を歩いていると、「○○先生ですよね?」とナースに声を掛けられた。周囲に人の気配はない。「ハイ、そうですが......」「どちらの○○先生ですか?」「今は××で仕事をしていますが、以前は△△で○○医院をやっておりました」「やっぱりそうでしたか」
 そして彼女ははるか遠くを見るまなざしになって、一呼吸間があり、「あの~、あたしね、小学生の時にお腹が痛いって、学校、ズル休みしたことがあったんです。そしたら、先生の所に連れて行かれたんです。診察を待っている間、きっとズル休みがバレて、母にも先生にも叱られると思ってビクビクしていました。診察が終わって、先生に『心配しなくてもいいよ。今日は学校をお休みしてお家で様子をみていれば、明日はきっと元気に学校に行けるようになってるよ。だって、お腹、痛いんだもんね』って言われました。先生にとってはこんなこと、砂漠の砂の一粒くらいのことで、きっともうお忘れかも知れませんが、私の心の中にはとっても大きなこととしてありました」「そうですか......そんなことがありましたかね~。もう20年以上も経ったので既に時効でしょうけど......これは、シー。ずっとナイショにしておきましょうね」「ハイ、その節はありがとうございました」「夜勤、大変ですね。今夜はお世話になります。じゃあ、おやすみなさ~い」
 ターン、タタンタターン、タカタカタカタカと、時折聞こえる電車の音を子守歌にして、やがて私は、穏やかな夢の世界に入っていった。

新潟県 新潟市医師会報 No.565より

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