「日医かかりつけ医機能研修制度 平成30年度応用研修会」が5月20日、日医会館大講堂で開催された。
日医では、今後の更なる少子高齢社会を見据え、地域住民から信頼される「かかりつけ医機能」のあるべき姿を評価し、その能力を維持・向上するために、平成28年4月より、都道府県医師会を実施主体とした「日医かかりつけ医機能研修制度」を開始している。
当日は、日医会館で258名が受講。45都道府県が接続したテレビ会議システムでの受講には、事前に約7600名の申し込みがあった。
研修会は羽鳥裕常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(松原謙二副会長代読)は、平成29年度の本研修制度応用研修会の受講者数は全国で延べ9712名であったことや、2672名が修了要件を満たしたことで、平成28年度と合わせて3868名の先生方が本研修制度を修了したかかりつけ医として各地で活躍していることを報告。全国で多くの医師が本研修制度を受講していることについて、「かかりつけ医はわが国の超高齢社会を支えていく要であるという使命感に基づき、自らが持つかかりつけ医機能の更なる充実のため行動しているものと認識している」と述べるとともに、日医としても、かかりつけ医機能の評価を高め、更なる普及と定着を図っていくとの姿勢を示した。
続いて、6題の講義が行われた。
講義1「かかりつけ医の感染対策」では、岡部信彦川崎市健康安全研究所長が、感染症対策の基礎及び日常の診療に結びつく知識を紹介。代表的な感染症の特徴等を説明した上で、「医療関連感染症対策には、標準予防策、感染経路別予防策、予防接種を組み合わせた対策が重要である」と述べた。
また、インフルエンザや食中毒に加え、近年増加している梅毒について注意を呼び掛けるとともに、最近の感染症に関連する法改正についても解説した。
講義2「健康増進・予防医学」では、松下明岡山家庭医療センター長が、健康増進と予防医学のアプローチについて講義を行い、"健康日本21"等のデータを踏まえ、現在日本で行われている各種検診・健診の状況を紹介した他、代表的なモデル等を用い、患者の行動変容を促す方法について説明した。
同氏は、「地域で健康教育を行う際、①注意②関連性③自信④満足感―の四つの側面が重要であり、これらを意識した健康教育は実行可能な内容になりやすい」との認識を示した。
講義3「フレイル予防、高齢者総合的機能評価(CGA)・老年症候群」では、飯島勝矢東京大学高齢社会総合研究機構教授が、「フレイル(虚弱)」の概念について説明するとともに、特に注意が必要な点として、「サルコペニア(筋力減少)」を挙げ、「サルコペニアが進行するとさまざまな現象が引き起こされやすくなり、ひいては要介護状態に向かいやすくなる」と指摘。また、その対応策として、食事を口から食べることの重要性を指摘した他、高齢者の社会参加の機会を提供することの重要性を強調した。
講義4「かかりつけ医の栄養管理」では、津田謹輔帝塚山学院大学長が、"健康日本21"の栄養に関する記述や栄養療法の選択基準に加えて、実際の治療における具体的な手順等を紹介。患者のスクリーニングの仕方や使用するツール等について説明した後、主な栄養障害として、①生活習慣病につながる過栄養②老年症候群につながる低栄養―の二つを挙げ、「高齢者のPEM(protein energy malnutrition、タンパク質・エネルギー低栄養状態)の予防は心身の機能低下を防ぎ、認知症や寝たきりの予防につながる」とした。
講義5「かかりつけ医の在宅医療・緩和医療・終末期医療」では、和田忠志いらはら診療所在宅医療部長が、在宅医療についての総論及び急性期の対応等を中心に講義を行い、在宅医療から入院への適応を判断する場合は、「医学的な判断のみならず、家族の介護力や、介護施設の医学管理のキャパシティーも勘案して決定すべき」と述べた。
また、木村琢磨北里大学医学部新世紀医療開発センター地域総合医療学教授は、慢性期のケアについて概説。「生活環境を認識し、家族・介護者と関係性を構築した上で、ベースラインの身体所見を把握することが基本であり、生活を支える視点で多職種と協働しつつ医療を提供していく必要がある」とした上で、在宅緩和ケアや終末期医療における事前指示の重要性を強調するとともに、「患者本人の意思に基づいたケアを継続的に考えていく上で、かかりつけ医への期待や役割は大きい」と指摘した。
その際、日医が作成したパンフレット『終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える』についての紹介も行われた。
講義6「症例検討」では、草場鉄周北海道家庭医療学センター理事長が、認知症の周辺症状が進行したケースについて、進行の段階ごとに留意すべき点やアプローチ方法を明示。「医療・介護サービスの利用のみで対応できない問題が生じた場合には、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談することが有効であり、医療機関だけではなく地域として対応する必要がある」とした。
一方、武田光史武田医院長は、患者が精神科疾患、アルコール依存症等の問題を抱え、ケアに困難があるケースを紹介。「精神科疾患を抱える患者へのアプローチについては、工夫を要することが多い」とした上で、「困難事例であればあるほど、多職種連携が必要であり、地域におけるかかりつけ医として、連携のための具体的な方法論を持ち合わせていなければならない」との見解を示した。
最後に閉会のあいさつを行った羽鳥常任理事は、長時間にわたる本研修会への参加に感謝の意を示すとともに、「日医として、現場の先生方が地域においてかかりつけ医機能を存分に発揮し続けて頂けるよう、必要な対応をしていきたい」と総括した。
なお、本研修制度は3年が1期となっており、今年度は第1期の最終年度に当たることから、来年度以降はかかりつけ医の社会的機能の充実にフォーカスを当てた新たな講義項目で本研修会を開催していくことになる。