第13回男女共同参画フォーラムが7月22日、329名の参加の下、名古屋市内で開催された。当日は、基調講演、シンポジウムなどが行われ、大会の成果として、男女共同参画の視点に立ち、10年後という未来を見据えた第13回男女共同参画フォーラム宣言(別掲)を満場一致で採択した。 |
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市川朝洋愛知県医師会副会長/日医常任理事が開会を宣言。続いてあいさつに立った横倉義武会長は、「国では、一億総活躍社会の実現のために働き方改革を進めており、国民に質の高い医療を提供するためにも、働き方の改善は大変重要であるが、応招義務や夜間救急がある医師の働き方に関しては慎重な議論が必要である」と強調。今後は、それぞれの事情を考慮した多様な働き方がより求められることからも、「本日のフォーラムが、これからの男女共同参画について考え、進むべき方向性を探る有意義なものとなることを望む」と述べた。
柵木充明愛知県医師会長は、「医師は労働者だという議論が先行し、過重労働ばかりに焦点が当たる傾向が見られ、本質的な議論がなされていないと感じている」と述べるとともに、「男性医師と比べて、働き方も多様な女性の医師だからこその知恵を振り絞り、医療の進歩に寄与する働き方を見つけて欲しい」と期待を寄せた。
来賓の大村秀章同県知事は、同県では「あいち女性の活躍促進行動宣言」を行い、病院内保育所の整備、短時間勤務の促進など、女性医師の働きやすい職場環境づくりを支援するための事業も実施していると説明。「男性、女性にかかわらず、さまざまなライフイベントに応じた充実した生活を送ることができるよう、医師の働き方についての理解がより進むことを期待している」とあいさつした。
基調講演「医師の働き方を考える」
基調講演「医師の働き方を考える」では、松田晋哉産業医科大学公衆衛生学教授が、これからの医師の働き方を考える際には、①専門職として生涯にわたって自己研鑽(けんさん)ができる環境づくり②ワークライフバランスへの配慮―等が重要であり、モチベーションを維持するための組織変化や上司・同僚の理解が不可欠であると指摘した。
また、「国民・患者の医療サービスの利用の仕方にも問題があるのではないか」と疑問を呈し、コンビニ受診や重複受診、望ましい医師・患者関係のあり方などを例に挙げ、「国民・患者も変わらなければいけないのではないか」と述べた。
報告
報告では、小笠原真澄日医男女共同参画委員会委員長が、同委員会が実施した具体的な取り組みや、平成28・29年度の会長諮問「医師会組織強化と女性医師」に対する答申作成の途中経過等について概説した。
今村定臣常任理事は、平成28年10月1日に体制変更を行った女性医師バンクを始めとする日医女性医師支援センター事業の運営状況を報告し、今年度は、都道府県医師会との連携を更に深めるとともに、Facebookを利用した情報発信、地方自治体・地域の医師会との共同による女性医師支援シンポジウムの開催等、女性医師支援策の一層の強化を図る予定であるとした。
愛知県医師会イクボス大賞表彰式
愛知県医師会イクボス大賞表彰式では、イクボス大賞を受賞した吉川公章社会医療法人宏潤会大同病院理事長、イクボス大賞特別賞を受賞した加藤英子公立陶生病院小児科部長に対して、柵木愛知県医会長から表彰状と記念品が贈呈された。
シンポジウム「これからの医療制度変革とそれに伴う医師の働き方の変化は」
引き続き、「これからの医療制度変革とそれに伴う医師の働き方の変化は」をテーマとするシンポジウムが行われた。
(1)「新専門医制度の導入による働き方の変化」では、前野哲博筑波大学附属病院総合診療科教授が、専門医制度導入の経緯について説明するとともに、男女共同参画を実現する上で重要なキャリアパスとして「アウトカム基盤型教育」を紹介。その上で、「アウトカムを認識することで、これからの多様なキャリアにも対応できるのではないか」との見方を示した。
(2)「患者の立場から見た医師需給問題」では、山口育子認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長が、患者の立場から参加した厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」での議論について詳解し、地域偏在問題に関する議論が進んでいない状況を危惧した。また、今後の医師の働き方を考える中で、患者側の理解が欠かせない時代になっているとして、「一般市民に医療現場の現状を理解してもらうことが重要である」と強調した。
(3)愛知県医師会イクボス大賞受賞者である吉川理事長は、「これからの日本医療制度改革とそれに伴う医師の働き方の変化」と題して、病児保育や24時間保育について積極的に取り組むとともに、女性職員の時短勤務に限らず、男性職員の育児・介護等への参加など、男女共に多様な働き方を可能にしたことで、女性職員の妊娠率の上昇、復職者の増加、男性の育児参加の推進につながったことを紹介。「このような取り組みが職員の士気を高め、結果として、病院収益の向上につながった」とした。
(4)イクボス大賞特別賞受賞者の加藤部長は、「女性医師のキャリアデザイン~『子育て支援制度』が医局を活性化する~」と題して、自身の休職願いがきっかけとなり、平成20年4月に開始した「名古屋大学小児科子育て支援制度」について、その概要を説明した。
制度運用のポイントとして、①制度終了後に関連施設で当直・当番ありの常勤に復帰する意志がある(選択的支援)②制度利用者は、医局長が行う全体の人事の数には含めない(労働力減ではなくプラス枠)③制度運用は女性医師支援ワーキンググループ教官と副医局長が行っている(男性医師が参加)―ことの3つを挙げた上で、「上司の意識改革こそが重要であるが、女性医師側が必要とされる能力を身につける努力も必要である」と述べた。
「総合討論」では、基調講演演者及びシンポジスト4名と会場の参加者とが熱心なディスカッションを行った。
続いて、第13回男女共同参画フォーラム宣言採択に移り、室谷眞美愛知県医師会男女共同参画委員会副委員長が、「第13回男女共同参画フォーラム宣言(案)」を読み上げ、満場一致で採択された。
その後、次期担当医師会の岡林弘毅高知県医師会長のあいさつに続いて、横井隆愛知県医師会副会長が閉会を宣言し、フォーラムは終了となった。
なお、次回は、平成30年5月26日に高知市内で開催される予定となっている。
第13回男女共同参画フォーラム 宣言
わが国の少子高齢化対策の一環として制定された「女性活躍推進法」の下、各分野で女性の管理職登用、各種ライフイベントへの対応などが進められ、現在では男女を問わない働き方改革が始まっている。医療界においても、女性医師が医師全体に占める割合の増加、ようやく落ち着きをみせた研修医制度に加えて新たに始まる新専門医制度、医療知識や技術の進歩、患者のニーズの多様化・高度化、増大する介護負担、医師の需給問題、地域格差など早急に対処すべき課題が山積している。それらに対し男女共同参画の視点に立ち、10年後という未来を見据えて、以下のことを宣言する。 一、最良の医療提供には医師自身の心身の安定が不可欠であり、医師の過重労働・長時間労働是正のために、多様な働き方を可能とする制度構築を実現する。 一、患者・国民に対し、医療者の働き方や医療体制の改革への理解を求める。 一、ライフイベントに配慮したキャリア形成支援を更に推し進める。 平成29年7月22日
日本医師会第13回男女共同参画フォーラム |
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