平成27年度第3回都道府県医師会長協議会が1月19日、日医会館大講堂で開催された。 当日は、ORCAの外部事業化や医療の控除対象外消費税問題など多岐にわたる、都県医師会から事前に寄せられた9の質問・要望に対して、担当役員が回答した他、日医から3つの事項について報告を行い、更なる協力を求めた。 |
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会長あいさつ
協議会は今村定臣常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつした横倉義武会長は、昨年末に行われた「国民医療を守るための国民運動」への協力に謝意を表した上で、平成28年度診療報酬の改定率について触れ、「多くの病院・診療所が大変苦しい経営状況にある実態や、全国300万人以上の医療従事者の賃金上昇がもたらす経済効果のメリット等を政府関係各方面に強く訴え続けた結果、消費税率10%への引き上げの延期や、実質的なシーリングが掛けられるなどの非常に厳しい状況の中、診療報酬の本体部分が0・49%、医科本体が0・56%のプラスとなった」と説明。現在、中医協等で行われている診療報酬の具体的な配分の議論においても、地域医療構想をバックアップする形で点数配分が行われるよう、引き続き求めていくとした。
また、「かかりつけ医機能」のあるべき姿を評価し、その能力を維持・向上するための研修制度(日医かかりつけ医機能研修制度)を本年4月から開始することにも言及。「都道府県医師会には積極的な対応をお願いしたい」と述べた。
その上で、同会長は、「医師会に対する国民の信頼に引き続き応えていくためにも、持続的で質の高い医療を提供できるシステムを構築し、国民の幸福とわが国の成長と発展に資する、活力ある健康長寿社会の実現に寄与していきたい」とし、その実現に向けた日医の活動に対する更なる理解と協力を求めた。
協 議
(1)ORCAの外部事業化と日医としてのIT化の進路について
ORCAの外部事業化と日医としてのIT化の進路についての兵庫県医師会からの質問には、石川広己常任理事が回答した。
同常任理事は、「ORCAの外部事業化」について、検討の経緯を報告。平成22・23年度の医療IT委員会の答申や、「公益法人化を目指す(当時)日医が、受益者負担としてORCAユーザー等から費用を徴収することは難しい」といった見解もあることを踏まえて、執行部内で検討を重ねた結果、(1)公益社団法人としては100%子会社を持つことは許されないため、政府系ファンドである地域経済活性化支援機構(REVIC)をパートナーとする(2)出資金は、それぞれ3億円ずつとする(3)取締役は5名とし、うち3名を日医推薦とする(4)会社の名称は、「日本医師会ORCA管理機構」とする─ことなどを決め、REVICと合弁契約を締結したと述べた。
その上で、検討過程において会員への説明ができなかったことを詫びるとともに、着実に実績を積み上げていくことによって理解を得たいとした。
更に、今期の医療IT委員会への会長諮問「新たな日医IT化宣言」については、ORCAだけにとどまらず、より広い視野を持って、日医が医療のICT化を主導的に進めていく旨を強力にアピールする内容とする意向を示した。
(2)地域医療構想策定における取り組みについて
今後、診療報酬改定等の状況によっては、地域医療構想の策定前に病床の転換や休眠病床の復活を図る医療機関が出てくる可能性を危惧する福岡県医師会からの質問には、釜萢敏常任理事が回答した。
同常任理事は、そうした可能性を認めつつ、そのような対応は、地域医療構想で想定する現在の体制と将来の分析を崩しかねないものであり、容認できるものではないと主張。また、地域医療構想の趣旨にも反するものであり、特に、知事の指示・命令の対象である「公的医療機関等」は、地域医師会などと十分な協議をしながら、周囲の医療機関への影響を考慮して病床機能の選択を考えていかなければならないとした。
その上で、「各医療機関が行う病床の機能転換の基金を活用した支援を行う時期を、『地域医療構想』策定後からとし、また、地域医療構想が策定されるまで、個別医療機関の病床転換を見合わせる」こととした福岡県の取り決めについて、県医師会がリーダーシップを発揮した試みだとして評価するとともに、日医としても、厚生労働省に対して、「かけこみ転換」などが行われないよう、都道府県をきちんと指導するよう求めていることを明らかにした。
(3)地方の医療体制を守る活動を
今後の診療所への規制を問う奈良県医師会からの質問には、釜萢常任理事が回答した。
同常任理事は、まず、行政が診療所の果たす役割や配置を強制的に制限するような施策は、断じて容認しないと強調。「審議会等における、国民の健康増進に悪影響を及ぼすと考えられる意見に対しては、これまで以上に厳しく反論し、最終的な取りまとめに反映されないように全力で対応していく」と述べた。
また、診療所の経営が年々悪化している中で、今後は適切な配置がなされる仕組みの導入が必要との考えを示し、日医としては、地域の診療科ごとの需給に関する見通しや他地域と比較した現状分析を関係者が広く共有し、新規に診療所開設を目指す医師が正確な情報に基づいて判断することにより、地域事情に則した適正な配置に自主的に収れんさせていくやり方を目指すとした。
更に、医療機関の機能分化と連携が図られる中で、診療所は「かかりつけ医機能」を中心的に担う存在であるとした他、診療所の開設には総合診療専門医の資格が必要との体制は、目指すべき方向ではないと明言。
その上で、診療所における医療提供が継続できる診療報酬を確保するとともに、日医が推進する「かかりつけ医機能強化」を図ることこそが重要であるとした。
(4)医師におけるプロフェッショナルオートノミーについて
東京都医師会からの医師におけるプロフェッショナルオートノミーに関する質問には、小森貴常任理事が、新しい専門医の仕組みや医療事故調査制度等、新たな制度の円滑な実施・運営に向け主導的な取り組みを通じて、医師会の活動が国民に正しく理解され、医師が団結する基盤の役割を真に果たせられれば、保険医の認定等、行政の役割を医師会が肩代わりしていく第一歩となるとした。
その上で、プロフェッショナルオートノミーは、「行政機関等の外部から規制を受けない自由」と共に「自ら構築した自己規律のシステムに従って行動していく義務」を併せ持つものであり、日医は、今後も、より高次な自己規律のシステムを構築し、プロフェッショナルオートノミーを基調とした会務運営を推進し、国民からの信頼に応えていきたいとした。
また、保険医の認定・取り消し等も医師会が行政に代わって行うべきとの指摘に対し、松本純一常任理事は、現在、厚労省と、指導・監査等の運用見直しに関する協議を水面下で継続中であり、日医の強い意向として、保険医の指定登録時に都道府県医師会が関与できるよう話し合いを続けているとした他、指導・監査の所管が厚生局になる前に各地で行われていた医師会による自主指導の復活についても、厚労省と引き続き交渉していく考えを示した。
(5)船員手帳証明書のデータの提供について
山口県医師会からの船員手帳証明書のデータの提供に関する質問には、羽鳥裕常任理事が回答。
協会けんぽ船員保険部長名による船員手帳健診実施機関長宛ての意向調査については、特定健診開始後8年が経過して唐突に、事前に日医に対する説明のないまま、全国約1400カ所の船員手帳健診実施医療機関に対して実施されたことを問題視。
同部長始め担当者に強く抗議するとともに、今後このようなことがないよう重ねて要請したと説明した。
加えて、今回の調査実施に際して、厚労省とも事前の調整を行っていないことから、日医として、厚労省に対し、(1)船舶保有者に対する船員手帳健診結果の写しの保管とそこからのデータ入手(2)船員手帳健診と事業主健診の仕様の統一─の2点について、早急に検討するよう既に要請しているとして理解を求めた。
一方、特定健診・保健指導に関しては、平成20年度に始まって以降、後期高齢者支援金の加減算制度の影響もあり、各医療保険者は受診率や保健指導実施率の向上ばかりに目が向きがちだとの認識を示し、「受診率の向上も必要な条件ではあるが、日医としてはあるべき健診の姿となるよう、厚労省における見直しの議論の場を通じて、主張していきたい」とした。
(6)社会保険指導者講習会のあり方について
愛知県医師会からの社会保険指導者講習会のあり方に関する日医の見解を問う質問には、松本常任理事が、昭和20年代前半から計画された同講習会は、(1)都道府県医師会の社会保険担当理事、支払基金の審査委員、都道府県の技官を日医に集め、関係法律の趣旨徹底に加え、学術水準向上のため、基礎、臨床、公衆衛生に及ぶ体系的な内容の講習会を開催(2)その受講者が都道府県で社会保険を理解する指導者となって、郡市区医師会にその内容を伝達・普及してもらう─という二段階になっていると説明。
講習内容に関しても、時代に合わせて変化し、昭和36年当時問題であった「制限診療撤廃」等から、その後、生涯教育的な要素が強まり現在に至っているが、(1)の目的は依然として継続しており、審査委員や技官からも好評を得ているとした。
その上で、同常任理事は、「この歴史ある、厚労省との共催による数少ない講習会のあり方については、厚労省とも相談の上検討しているが、審査委員や行政の技官に向けた講習部分は継続していくべきと考えている。一方、生涯教育部分のテーマについては、会員の先生方が望まれる、また受講者が保険担当であることを意識した工夫が必要と考えており、開催日程についても目的に合わせて検討していきたい」として、理解を求めた。
(7)日医認証制度について
日医認証制度に関する群馬県医師会の質問には、石川常任理事が回答した。
まず、同常任理事は、公的個人認証サービス(JPKI)は国民を認証する仕組みであり、保健医療福祉分野公開鍵基盤(HPKI)は医療分野の国家資格を認証するものであって、両者に上下関係はなく、独立した仕組みであることを説明。
医師免許をマイナンバーと紐づけることに対しては、国が一手に医師を管理することになることや、マイナンバーカードの券面を見せるだけでは、医師資格を証明できないことに懸念を示し、「医師資格証」を用いることの有用性を強調した。
更に、日医はマイナンバーを医療の現場に持ち込むことに反対し、「医療等IDの創設」を提言、その結果、「『日本再興戦略』改訂2015」には、医療等分野専用の番号制度を導入することが明記され、日医の「医療分野等ID導入に関する検討委員会」における議論を踏まえ具体的な提言を行う予定であるとした。
最後に、同常任理事は、「医師資格証」の普及に向けて、本年4月から、生涯教育等の講習会の出欠と単位管理のシステムを稼働させるなどの環境づくりに取り組んでいることを説明し、電子的な紹介状の評価や電子処方せんの活用についても、厚労省との交渉を進めていくとして、理解と協力を求めた。
(8)消費税の対応について
消費税の対応に関する群馬県医師会の質問には、今村常任理事が回答した。
同常任理事は、医療界としての要望を選択する段階に入ったとの認識を示し、「仕入れ税額控除が可能になるとともに、小規模医療機関の事務負担に配慮すること」が大切であり、病院と診療所への対応を分けて考える方法は、有力な方向性であるとの考えを示した。
解決方法を選択する上で対応すべき課題として、(1)過去の診療報酬への上乗せ補てん分について、いわゆる「引きはがし」の議論が起きること(2)いわゆる四段階税制(所得税の概算経費率)が存続できるか(3)自由診療で患者さんから頂く消費税について、現在、免税事業者あるいは簡易課税事業者になっている小規模医療機関への影響(4)事業税非課税措置存続への影響─の4点があると指摘。医療界全体が納得できる一つの解決策を見出すには、非常に難しい課題であると説明した。
また、有床診療所の消費税問題については、有床診療所と無床診療所の事情が異なるように、消費税負担の状況は個々の医療機関ごとに異なることに配意の上、全国有床診療所連絡協議会等との検討とともに、その実態を中医協において検証・把握する中、解決策を求めていくと回答した。
(9)医療の控除対象外消費税問題の抜本的解決に向けて
医療の控除対象外消費税問題解決について、時間的なスケジュールも含めて日医の考えを示して欲しいとの埼玉県医師会の質問には、今村聡副会長が回答した。
同副会長は、日医の税制改正要望は、まず厚労省で検討され、省の要望として取り上げられた項目のみが自民党厚生労働部会に提出され、更に同部会から自民党税制調査会へ上申されることによって、初めて政府・与党の検討の遡上に上がることになると説明。
そのため日医では、厚労省の各局・各課に強く働き掛けを行った上で、自民党厚生労働部会・税制調査会に所属している国会議員等への陳情活動を行ってきたが、その結果、「平成28年度税制改正大綱に『平成29年度税制改正に際し、結論を得る』と、ついに解決の年限がはっきり書き込まれた」と述べた。
その上で、「この1年間が問題解決に向けて大切な時期になる」として、「地方自治法第99条に基づく意見書の提出」と「全国知事会での要望取り上げ」について、都道府県議会議員・国会議員・知事への都道府県医師会からの働き掛けを要請した。
また、(1)1月28日に都道府県医師会税制担当理事連絡協議会を開催(2)昨年開催していた「医療機関等の消費税問題に関する検討会」を再開し、財務省、厚労省、その他関係者と解決策選択への十分な意見交換を行っていくこと─などを報告し、本問題の解決に向けた更なる理解と協力を求めた。
報 告
(10)日医新会員情報システムに関する都道府県医師会事務局担当者への説明会開催について
今村常任理事は、日医新会員情報システムについて、会員サービスの向上、ひいては医師会の組織強化を目的としたものであり、その第一段階として、都道府県医師会との相互利用を考えていると説明。新システムへの理解を求めるとともに、都道府県医師会事務局との連携を強化するため、2月12日に日医会館で「日本医師会新会員情報システムに関する都道府県医師会事務局担当者への説明会」を開催予定であることを報告し、事務局派遣への配慮を求めた。
(11)日本准看護師連絡協議会について
釜萢常任理事は、准看護師養成制度の存続、そして看護師と比べて研修を受ける機会の少ない准看護師の更なる能力向上を目指した生涯教育研修体制の確立を目的として設立された「日本准看護師連絡協議会」について説明。
本協議会は職能団体の創設を目的としたものではないことに理解を求めるとともに、「都道府県医師会においても研修の機会をぜひつくって欲しい」と要請した。
なお、本件に関しては、「内容も分からず、拙速だ」との意見も出されたことから、日医として更に情報提供に努めることとなった。
(12)地域医療介護総合確保基金(医療分)の平成28年度配分に係る国から都道府県への情報提供について
釜萢常任理事は、地域医療介護総合確保基金(医療分)の平成28年度配分に関して、厚労省より、(1)平成28年度以降も区分Iの事業に重点化した配分を行う(2)区分II、IIIの事業のうち、従来、補助金で実施してきた事業相当額を基本として、配分額を調整する─などの方針が示されていることを報告。
事業区分Iの事業としては、「地域医療構想に基づく病床機能の転換を行うために必要となる人材の確保」「病床の機能分化を進める上で必要となる、医療機関間の連携や医療介護連携を円滑に行うためのコーディネーターの養成・配置」「医療介護連携を進める上で必要となる多職種連携のための研修の実施」などが含まれるとした他、平成27年度の混乱を踏まえて、内示は1回で行うよう厚労省に強く要請していることを明らかにし、理解を求めた。