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平成28年(2016年)1月20日(水) / 日医ニュース

成功しなかった時こそ次の姿勢は前向きであれ

成功しなかった時こそ次の姿勢は前向きであれ

成功しなかった時こそ次の姿勢は前向きであれ

 新春に当たり、今回は、日本ラグビーフットボール協会理事で神戸製鋼コベルコスティーラーズゼネラルマネージャーでもある平尾誠二氏を迎え、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会での日本代表の活躍や、東日本大震災後の東北復興支援活動、更に3年後のラグビーワールドカップ2019日本大会に向けた抱負などについて、横倉会長と語り合っていただいた。

 横倉 昨年のラグビーワールドカップ2015イングランド大会で日本代表が大活躍を見せ、久しぶりにラグビーブームが到来しました。
 平尾さんは、現役時代、伏見工業高校での全国大会優勝、同志社大学での大学選手権3連覇、神戸製鋼では7年連続日本一など、キャプテン、リーダーとして素晴らしい活躍をされて、当時は、国立競技場が満員になっていましたね。
 平尾 ええ、僕がラグビーを始めて40年ぐらいになりますが、かつてないブームになっていますね。長きにわたって低迷していたラグビー界を一気に盛り返すぐらいの今回の代表チームの活躍は、ラグビーワールドカップ2019日本大会に向けても大変いいことで、集客等、大きな反響を与えている感じがします。
 横倉 平尾さんは、日本代表としてラグビーワールドカップに3大会連続して出場され、初勝利を挙げたのは1991年の第2回大会でしたか。
 平尾 ええ、自分はキャプテンで、当時は宿澤広朗さん(故人)が監督でした。実は、第1回(1987年)、第2回(1991年)、第3回(1995年)には選手として、1999年の第4回には監督として行きました。
 大会の規模は回を重ねるごとに拡大化し、昨年は入場者数も史上最高になって、次の日本大会が注目される中での今回の活躍は、何とも心強いですね。
 横倉 私も久留米大学医学部時代にラグビーをしていましてね。
 平尾 そうなのですか!
 横倉 西日本の医学部の大会があって、神戸大学は今でも強いのですが、久留米大学は割と伝統のあるところでしたから、当時からライバルでした。
 2012年にノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長が神戸大学医学部のラグビー部出身で、以前対談した時は、ラグビーの話で盛り上がってしまって......(笑)。
 平尾 そうですか。山中さんとは僕もたまたま年が一緒なものですから、時々食事をしたりゴルフをしたり、さすがにもうラグビーはしませんがね(笑)、仲良くさせてもらっています。お医者さんでラグビーをしている方は意外に多いんですよね。
 横倉 私のラグビーとの出会いは子どもの時で、おじに毎年1月頃に大学チャンピオンと九州勢チームが対戦する朝日招待ラグビー(※)の試合に連れて行ってもらってからラグビーが好きになりました。
 平尾 ああ、その試合であれば、現役の時に私も一度出場したことがあります。

※朝日招待ラグビー
 九州ラグビーフットボール協会が九州のラグビー強化に力を注ぐために大学日本一、または学生代表を招いて九州代表と戦った試合。
 第1回(1950年度)から第14回(1963年度)までは毎年1月15日に開催されていたが、第15回(1964年度)からは3月の開催となり、第60回(2009年度)をもって終了した。

理不尽極まりないスポーツから学んだもの

 横倉 それがきっかけで、大学へ入ったらラグビーをやろうと思っていて始めたのですが、あまりいいプレイヤーではありませんでした。
 平尾 いえいえ、ラグビーのよいところはうまいへたではなく、その友達意識というか、仲間意識がものすごく強いところだと思うんです。
 横倉 そう。強いですよね。
 平尾 「ラグビーをやっていたのか、お前」という、その瞬間に距離が一気に縮まって、昔から知っている間柄になるような魅力というか、特徴がありますね。
 横倉 ありますね、現代の子ども達に少し欠けているような。だから、今回のラグビーブームで、そういう気持ちを子ども達に持ってもらえるといいなという思いがあるのです。
 実は、福岡には、子どものラグビーチームがたくさんあって、私も医師になってからしばらくの間は地元のチームのドクター兼コーチをしていました。
 最近、小学生の運動能力が低下して、お父さんお母さん達の時の8割ぐらいしかないという統計がありますし、子ども達にはスポーツを通じた体力づくりにも、ぜひ取り組んでもらえればと思います。
 平尾 本当に、体を動かすことは大事だと思います。いろいろな事件とか少子化の影響もあるかも知れませんが、どうも親御さんが過保護気味で、あまり外で遊ばせない、危ないことはさせない、理不尽なことは避けて通るという傾向にあるようです。親御さんは、わが子にとって良かれと思って"理不尽"なことを極力子どもの周辺から排除しようとしているわけです。
 でも、本当は逆だと思うのです。社会では自分の意思とは関係なく、思いがけない、いろんなことが起こります。注意して生活することも大事ですが、社会に出れば、さまざまなことに対応しなければならないし、"理不尽"なことだらけで親は守り切れないのです。
 ところが免疫がない子は、"理不尽"なことに出くわすと心が折れてしまって出ていけなくなる。子どもの頃から少しずつ経験すれば、対応力が自然と身に付くのですが、日常生活から意図的に排除されているが故に免疫性がないような気がします。
 例えばラグビーも、少子化の影響と危険ということで避けられ、一時競技人口が減った時期もあります。
 どんなスポーツでもけがは付き物だし、リスクはあるのですが、それよりも子ども達がのめり込んで夢中になり、かつそれを楽しめることができるならば、効果は非常に大きいと思います。
 横倉 そういう意味で、ラグビーというのは、かなり限界まで鍛えられますしね。
 平尾 そういう意味でラグビーは理不尽極まりないスポーツです(笑)。
 前へ行ってトライするというルールなのに、前にボールを放ったらいけないわけですから、その時点でおかしいと言えばおかしい。ボールがどこに跳ねるかで勝敗が変わるし、1年間の努力が報われなくなるという恐ろしい話なのですよね。
 でも、それも含めてやっているわけで、まあ、僕自身が経験しているのですが、何か人生にも似たところがあるような......。ゲームはそれで終わっても、次のゲームで取り返そうと思って、また気持ちを新たに次のゲームに臨むわけで、人生も一緒で、その繰り返しですよね。
 全部成功するわけではないのですから、成功しなかった時の次の姿勢が非常に大事で、前向きに向かっていくことを教えられたような気がします。
 横倉 伏見工業高校ラグビー部総監督の山口良治先生は、熱血指導で厳しかったけれども、非常に涙もろい方だったそうですね。


 平尾 人間のいいところは、心と心がつながっていることですね。少々厳しいことがあっても、心がつながっていると、恨みつらみもなく、後々には感謝できるという経験を皆がしています。今があるのは、あの時のお蔭だというのは、大体年がいってから分かってきますからね。
 横倉 そうですね。膝をけがされたのは、学生の時でしたか。
 平尾 はい、大学2年生の時です。けがは比較的少ない方だと思うのですが、その時は、右膝の膝蓋骨(しつがいこつ)骨折でほぼシーズン出られませんでした。
 横倉 後のリハビリは大変だったでしょう。
 平尾 足がすごく細くなって、左右で9センチぐらい差が出ました。現在ではリハビリテーションが進んでいて、けがが治った後でも、筋肉の量と強さが戻るまではあまりゲームに出さないじゃないですか。当時はもう、「骨くっついたか」「骨くっついたらいけるぞ」みたいな世界で、すごく細いままゲームに出ていました。
 結局、同じ太さには戻っていないと思いますが、特別なトレーニングではなく、試合や練習をしながら、何年もかけて元に戻した感じでしたね。ただ、靱帯系ではなかったので、その後、水が溜まったりすることはなく、慣れてくれば大丈夫でした。

求められるリーダーの資質とは

 横倉 平尾さんは、高校、大学、社会人でもずっとキャプテンで、今はゼネラルマネージャーというお立場ですが、特にラグビーの場合、いろいろな人が最低15人いるチームをまとめる時、リーダーにとって必要なこととしては、どのようなことが考えられますか。
 平尾 若い頃に一番悩んだのは、孤立することですね。皆が仲良く楽しんでいるのに、自分がキャプテンだと、嫌なことも一つや二つ言わなければならず、煙たがられました。
 大学とか社会人になると、厳しく言いながらも遊ぶ時は遊べるし、フォロワーの連中が大人になっていますから、「まあ、あいつの立場的には仕方ないか」と理解してくれるので、そういう孤立感はなくなるのですが、中学生・高校生の時は、意外とこれがつらかったですね。
 チームのリーダーとして、練習の時は当たり前だと思ってやっているのですが、練習から一歩離れた時に自分だけ誘ってもらえないとか、何か避けられていると感じた時がありました。
 横倉 特に、ラグビーはワイルドな感じの子が多いですからね。
 平尾 ええ、ものすごく自己中心的なやつが多かったです(笑)。
 今でも良かったと思うのは、間違った意見の者に迎合しなかったことです。最終的に長くそういう立場に置いてもらえたのは、それができたからだと思うのです。僕は、リーダーに必要な要素は、"連帯を求めて孤立を恐れず"だという気がします。
 横倉 日本代表と言えば、いろいろなチームからセレクションされて集まるわけですから、それをまとめるのも大変でしょうね。
 平尾 その頃には、もう慣れていましたからね。それに、皆、強くなるためにどうするかを考えていますし、各チームに帰ったらキャプテンというメンバーが多く、皆それなりに苦労していますから、逆に、こっちが困っていたら、「気にするなよ」という話になってきますしね。

東日本大震災後の東北復興支援

成功しなかった時こそ次の姿勢は前向きであれ 横倉 5年前の東日本大震災の後、ラグビーのOBの皆さん方が、いろいろと復興に尽力されましたよね。
 平尾 神戸は阪神・淡路大震災の時に全国の方々から多大なご支援を頂いたので、今度はこちらが支援する番だということで、大きな被害を受けた岩手県の「ラグビーの街」釜石市に行ってきました。
 ラグビー選手は力持ちが多いので大木などを移動させたり、他の人より何倍も速いスピードで瓦礫(がれき)の片付けなどの力仕事をお手伝いさせて頂きましたが、皆つながっているんだと実感することができて、選手にとってもいい経験でした。
 横倉 ラグビー選手と言えば、被災地で避難している方達のために医療面とタイアップして正しい歩き方を指導している大西一平氏には、『被災地仮設住宅向けポケットガイド』の制作に当たり、大変お世話になりました。
 平尾 そうですか。彼は神戸製鋼ラグビー部で僕の後のキャプテンをやってくれました。
 横倉 私ども医師会も、1995年の阪神・淡路大震災の際には、全国から支援に行ったのですが、その後、大災害時にどう対応するかというノウハウを少しずつ蓄積し、東日本大震災の時には、JMAT(日本医師会災害医療チーム)を組織し、全国から医療関係者約1万人に順番に被災地に入ってもらい、避難された方のお世話や、亡くなられた方の検案などをやって頂きました。
 平尾 それは大変でしたね。日本は大きな地震が時々ある国ですし、自然災害だけはどうしようもないですが、二度と起こらないで欲しいですね。

ラグビーワールドカップ2019日本大会に向けて

 横倉 いよいよ2019年のワールドカップまで今年であと3年になります。昨年のワールドカップで成績が良かった分、国民の期待も大きいと思うのですが、いかがですか。
 平尾 期待が高くなり過ぎると大きな失望につながるので、ほどほどがありがたいです。
 昨年の3勝というのは誰も期待していなかった。つまり、期待を超えるものに対しての熱狂だったので、今度はそれをベースとして期待が増幅されますから、2019年は、当然、3勝以上、決勝トーナメント進出という話になるわけです。ところが実際は、日本の実力そのものはまだそこまで成熟していないと思うのです。
 横倉 しかし、南アフリカには勝ちましたよね。
 平尾 結果として勝ったけれども、やる前から勝てると思っていた人は本当に少ないと思います。
 今までは、例えば南アフリカの調子が最悪の時で、日本の調子が最高の時でも勝つことは無理だったと思うんですが、最近、日本の実力も上がってきた中で、日本の最高の出来栄えと、南アフリカの最低の出来栄えが重なるようなところまできているというのが、今回の現象だったのだろうと思います。
 南アフリカは、多少の油断と、準備が十分でなかったこともあり、日本は、当然実力も上がって、そこにラッキーも重なったということだと思いますが、今度からは本当の実力がないと勝てませんので、3年間しっかりと、どんな状態でも勝利を得るような実力を着けていく必要がある。そうでないと期待に応えられない状況になっていると、ラグビーの関係者全員が自覚するべきだと思います。
 横倉 日本代表は今回、非常にハードな練習をやったわけでしょう。
 平尾 ええ、朝6時くらいから始めて、4回練習したということですが、最近は高校生でもそんなことはしませんよ。それを続けていると、選手達が、「ここまでするのか」などと、ぶつぶつ言い出すわけですよ、当然。でも、それをやらせたエディー・ジョーンズヘッドコーチは偉いと思います。
 そういう意味では、今回の勝利の要因の一つは、変革型リーダーであるエディーヘッドコーチだと思います。
 変革型リーダーの特徴は、自己中心型であり、理不尽を物ともせず、波風立ってもやり切る強さがあることで、それをエディーヘッドコーチは持っていたのだと思います。ただ、変革型リーダーが長くやれるかというと、そうではない。変革期が終わり安定期に入ってきた時には、そうではないリーダーの方が適任なのです。
 ある一定期間だったら少々のことは、やり切る力がありますが、同じことが続く時にモチベーションを維持することは難しいので負荷が必要になってきます。これからは世の中の期待が負荷になってくるのではないでしょうか。
 横倉 はい、そうでしょうね。
 平尾 期待というプレッシャーが非常に強くなる中では、強烈な熱血漢のコーチの下ではなく、自分でやっていくという強い意志を持ち、自ら内発的なモチベーションを高めていかないと維持できなくなってくるのではないかと思います。
 横倉 そうですね。次期ヘッドコーチも大変ですね。
 2019年に向けては、日本国内で予選リーグが開催されるということで、各地のドクターズラグビーフットボールクラブの医師達がサポートしようということで、皆ずいぶん楽しみにしておられます。
 平尾 昔からラグビーにおいてドクターズの人達とは非常に深い関わりがありますね。ラグビーそのものがボランタリー精神に満ち溢れたスポーツであり、アマチュアリズムが長かった競技で、1995年に「アマチュア宣言」が撤廃され、プロもアマも認める「オープン化」が宣言されるまで、頑なにアマチュアリズムにこだわっていたわけです。
 アマチュアでやる限り、ボランタリーの組織がしっかりしていないと運営できないわけで、特にドクターズは、いつも手弁当でゲームドクターをやってくれるなど、当時のラグビー界を支えていたと思うのです。そういう意味でも、ドクターとの関係は、今なお続いています。
 ラグビーワールドカップ2019日本大会の際には、世代が変わってもそういう人達が、何か一つの成果を出して頂ける場になればいいなと、大変期待をしております。
 横倉 日医では、日医認定健康スポーツ医制度というものがあって、研修会を受講してもらい、そのプログラムを受講した先生には修了証を交付し、認定しています。
 平尾 そうですか、いいことですね。
 横倉 認定者数の合計は2万2000人以上に上るので、そういう先生方もワールドカップ日本大会のバックアップを楽しみにしていると思います。
 平尾 大きな大会というのは、いい選手だけいても、協会が躍起になってもだめで、自分達の意思をもってやって頂ける方とか、組織の支えがないと運営できません。
 特に、ラグビーの場合は、けがは本当に付き物で避けては通れないので、ぜひとも医師会の皆さんのリードでしっかりとサポート、バックアップをして頂ければ、非常に心強い気がします。
 横倉 大会が成功することを心より祈っています。
 平尾 ありがとうございます。2019年はあっと言う間に来ますから。
 横倉 今後も頑張ってください。本日は、ありがとうございました。


平尾 誠二(ひらお せいじ) 氏
日本ラグビーフットボール協会理事/神戸製鋼ラグビー部ゼネラルマネージャー
1963年京都府京都市生まれ。同志社大学大学院「総合政策科学研究科」修士課程修了。1987、1991、1995年のラグビーワールドカップに3大会連続出場。1991年時はキャプテンを務め、日本代表初勝利を飾る。日本代表キャップ35。現役引退後は、1997~2000年に日本代表監督を務め、1999年のワールドカップにチームを導く。神戸製鋼ラグビー部では、ゼネラルマネージャーとしてチームの運営に当たる。2006年4月~2007年3月、2015年6月~(財)日本ラグビーフットボール協会理事。2008年7月~2010年7月(財)日本サッカー協会理事。2011年2月~2015年3月文部科学省中央教育審議会委員。2012年5月(財)ラグビーワールドカップ2019組織委員会理事。

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