他人事ではないよね?
僕の彼女は部活の後輩で、今年から遠方の病院で臨床研修に入ります。結婚も考えていますが、今後も離れて生活する時間が長いのかなと思うと複雑です。(20代男性・後期研修医)
子どもは2人は欲しい、留学もしたい、学位も欲しい、実家の近くで医師を続けたい…、そんな私は欲張り過ぎるのでしょうか。(20代女性・初期研修医)
私も主人も医師ですが、2歳の息子が病気がちでなかなか保育園に預けられません。育休明けで復帰しましたが、結局私が仕事を辞めるしかありませんでした。(30代女性・元勤務医)
うちの医局は女性が多いのですが、出産を機に医局を辞めたり、復帰しても当直ができない人が多く、忙しくて当直の多いポストばかり男性に回ってきます。なんとかならないものでしょうか。(30代男性・勤務医)
医学生の女性比率は3割超
わが国で女性医師の数が増加しているのは、医学生のみなさんもご存じのことと思います。長年10%程度で推移してきた女性医師比率ですが、1990年代後半から医学生の女性比率は3割を超えるようになり、医師全体に占める女性の割合も増加し続けています。女性医師が医師全体の3~4割を占める時代が遠からず訪れることは間違いないでしょう。それにともない、診療科・分野にかかわらず、女性医師が働きやすい環境を整えていくことが求められています。
家庭での負担は女性に偏っている
同様に、多くの業界において活躍する女性が増え、「夫は仕事、妻は家庭」という時代ではなくなりました。しかし共働きが当たり前となった現在も、家事や育児・介護といった広い意味での「ケア」に関わる責任や負担は女性に偏っています。
例えば、家事時間と診療時間に関するグラフを見てみましょう(図1)。子どものいる女性医師は、診療時間は短くても家事労働にかける時間が長く、その意味で誰よりも労働時間が長いとも受け取れるのです。
しかも、男性のみならず女性自身が「ケアは女性が担わなければならない」と感じている側面があります。男女には様々な違いがあるとはいえ、女性にしかできないのは究極的には「産む」ことだけです。それ以外の「ケア」に関わる負担を平等に分かち合うことも可能なはずなのに、女性が自ら責任や負担を抱え込んでしまうケースも少なくありません。
未だに女性医師の離職は少なくない
こうして「ケア」と「仕事」の両方に追われる状況の中、多くの女性医師が出産や育児のために仕事を離れています。多くの知識を身につけた臨床能力の高い女性医師でも、離職せざるを得ないケースや、専門性を活かせない働き方に移行してしまうケースが、未だに少なくないのです。
男性医師・女性医師の就業率に関するグラフ(図2)を見てみると、卒業後すぐは男女の就業率に差はありませんが、出産や育児に携わる年齢に差し掛かると、女性の就業率だけが下がっています。育児から手が離れる40代になると多少回復しますが、男性と同程度には至りません。これは、職場から離れた女性医師の一部が復職できていないことを示しています。
男女ともに心地よく働き続けるために
この問題は、決して女性医師だけの問題ではありません。なぜなら、女性医師ひとりの離職が、残った医師の労働環境悪化の一因にもなるからです。過酷な環境で働き続けるか、辞めて家庭に入るかしか選べないような職場ばかりになってしまうことは、決して医療の質を高めることにはつながりません。女性医師が働き続けられる環境を作ることは、男性を含めた医師全体の労働環境の改善につながるのです。
医学生のみなさんが今後、男女ともに心地よく働き続けられる環境をつくるためにも、学生である今のうちから当事者意識を持ち、女性医師のキャリアの歩み方や、男性医師ができること、家庭内での「ケア」の分担などについて、ぜひ考えてみてほしいと思います。
出典:図1「医師における性別役割分担―診療時間と家事労働時間の男女比較―」安川康介・野村恭子/図2「日本の医師需給の実証的調査研究」主任研究者 長谷川敏彦
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