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令和5年(2023年)12月5日(火) / 日医ニュース

診療報酬マイナス改定論は亡国につながる~財政制度等審議会財政制度分科会の資料を踏まえて~

 11月1日に財政制度等審議会財政制度分科会において財務省が公表した資料が大きな波紋を起こしています。「社会保障」という題名の資料で、内容をネットでも見ることができます(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20231101/01.pdf)。
 「全世代型社会保障の構築」がテーマとなっている資料なのですが、既に社会保障が機能している現代の日本で「社会保障の構築」とは意味が分かりません(「再構築」や「やり直し」とかであれば意味も分かりますが)。
 日本は昭和36年に国民皆保険制度と国民皆年金制度が始まり、2000年に介護保険制度が整備され、全世代型社会保障は既に構築され、これをいかに良くしていくかということが本来の政府の仕事のはずです。
 更に、この文章では「高齢化等による国民負担率の上昇に歯止めをかける」という岸田文雄内閣総理大臣の表明を引用しています。この総理の意見を利用して、「診療報酬を上げると国民負担率が上昇して国民が困るので医療費は下げよう」という論理構成になっています(岸田総理の意図とは違うと思います)。
 その具体的な方法として挙げられているのは、「医療・介護の保険料率を雇用者報酬の伸びと同水準とし、上昇傾向に歯止めをかける」「メリハリをつけた診療報酬改定」「保有資産も含む経営状況を勘案した対応」などです。要は、診療報酬を上げると国民の負担が大きくなるため、診療報酬改定率はマイナスにすべきという論調です。
 更に、コロナ禍の時期に医療機関は大きな利益を出して内部留保金が多くあるのだから、多少マイナスにしても良いだろうという意見です。職員の賃金上昇は何とかするが、全体ではマイナスにするため、利益率が高いところを減額するとも書いてあります。「診療所の極めて良好な経営状況等を踏まえ、診療所の報酬単価を引き下げること等により、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当」と非常に直接的な表現で書かれており、診療所の点数を下げて全体の辻褄(つじつま)を合わせるということです。
 この財務省の資料では、2020~2022年の経営の数字を多数利用しています。現場にいる人は分かっていますが、このコロナ禍の3年間はあまりにもイレギュラーの期間であり、将来計画の参考にはなり得ません。
 また、診療所における1受診当たりの単価が2000年と比較して1・43倍になっており、一般的な物価の上昇と比較して非常に高いとも書いてあります。これも、医療の現場にいる人なら即座に理解できると思いますが、2000年当時は14日処方が普通でしたが、現在は30日処方が普通であり、結果として外来受診回数が減少しているため、1日単価が上昇しているのです。
 このように、我々、現場にいる人間にとっては当たり前のことを引き合いに出し、稚拙(ちせつ)とも言える論を張っていますが、一般の人はこれらの知識がないので簡単に信じてしまうかも知れません。
 医療が無くなると、その場所に人は住めなくなります。財務省の方針をそのまま進めると国民負担は減るでしょうが、日本中の医療が崩壊して日本に人が住めなくなります(緊縮財政を続けると、長期的には全体の生産性は低下して、かえって国民負担率は上昇していくでしょう)。
 インフレ下の中での診療報酬マイナス改定論は亡国につながる政策と断言します。

(日医総研副所長 原祐一)

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