閉じる

令和5年(2023年)8月20日(日) / 日医ニュース

医薬品を巡る諸課題(医薬品の安定供給、高額医薬品、公定薬価制度)について活発に協議

医薬品を巡る諸課題(医薬品の安定供給、高額医薬品、公定薬価制度)について活発に協議

医薬品を巡る諸課題(医薬品の安定供給、高額医薬品、公定薬価制度)について活発に協議

 令和5年度第1回都道府県医師会長会議が7月18日、日本医師会館大講堂で開催された。
 当日は「医薬品を巡る諸課題」をテーマとして、医療現場に混乱をもたらしている医薬品の供給不安について、メーカーの問題、公定薬価制度の問題、診療報酬の問題など、さまざまな論点から活発な討議が行われた他、事前に寄せられた質問に対して日本医師会執行部が回答を行った。

 本会議は、都道府県医師会を六つのグループ(A~F)に分け、毎回一つのグループを中心としてテーマに則した議論を行うとともに、都道府県医師会から事前に寄せられた同テーマに関連する質問に日本医師会執行部から答弁する形で開催しているもので、今回が今年度1回目となった。
 会議は釜萢敏常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、線状降水帯による記録的豪雨のため、被災した人々にお見舞いを述べた上で、「日本医師会としても、被災地の一日も早い復旧に向けて、被災地域の医師会と連携を密にし、必要な支援を迅速に行えるよう努めていく」と強調。
 新型コロナウイルス感染症に関しては、感染者数が全国的に徐々に増え続けており、第9波に入っていると判断するのが妥当との見方を示し、「今後も感染状況を注視しながら迅速な対応に努める」と述べ、引き続きの協力を求めた。
 今回のテーマについては、「定例記者会見で医薬品の安定供給に係る現状認識と課題や、一般用医薬品の濫用についての問題点を指摘したが、医薬品をめぐっては多くの課題が山積しており、各企業の努力に加え、国による強いリーダーシップが待たれる」と説明。国の施策等に協力していく際の参考とするためにも、忌憚(きたん)のない議論を要請した。
 また、釜萢常任理事からは、このたびの大雨により甚大な浸水被害を被った秋田県の小泉ひろみ秋田県医師会長よりお見舞いへの御礼が寄せられたことの他、支援活動については、岩手県から派遣されたDMAT活動から県内の医師らで組織したJMATに引き継ぎが始まっているとの報告があったことなどが紹介された。

Dグループによる討議及び全体討議

 その後、須藤英仁群馬県医師会長が進行役を務め、「医薬品を巡る諸課題(医薬品の安定供給、高額医薬品、公定薬価制度)について」をテーマとしたDグループ所属の医師会(宮城県、群馬県、富山県、静岡県、兵庫県、広島県、福岡県、鹿児島県)による討議が行われた。
 宮城県医師会は、(1)業界の実態にそぐわない急激な促進策に無理が生じた結果である、(2)多くは零細企業であり、体質等の問題がある、(3)原薬の調達先の問題は更に根が深い―ことを強調。「保険者協議会などではいまだに後発医薬品の使用促進という言葉が使われており、政府が高い目標を掲げて強引に物事を進めていくことが現場の混乱を招いている」として、日本医師会執行部の対応を求めた。
 富山県医師会は、現在の医薬品の供給不全の発端は、品質の問題により多くの医薬品が製造中止になったことであるとし、「これほど長期間にわたって薬剤の供給不全が解決できず、解決の見込みさえ立っていないというのは、もはやメーカーの責任というより、薬剤の供給体制を誘導・監督してきた厚生労働省の薬事行政そのものの大きな失態なのではないか」と指摘。国の責任で早急な解決を図るとともに、そのタイムスケジュールの提示を要望した。
 また、県内に日医工を始めとする多くのジェネリックメーカーを擁(よう)する状況を踏まえ、後発医薬品の数量シェアを8割にするという非常に急激な政策が取られていた中で、安定供給を急ぐあまり、ガバナンスやコンプライアンスなどがないがしろにされていたのではないかとの見方を示した。
 静岡県医師会は、メーカーの責任による部分は大きいとする一方、その背景には公定薬価制度の運用に起因する構造的な問題があるとの見解を示し、「再発防止のためには、安定供給に資するような公定薬価制度の見直しも必要ではないか」と述べた。
 兵庫県医師会は、薬価改定で毎年薬価が下がるため、国内メーカーが国外に原料や原薬の製造拠点を移した結果、その国で災害などが起きた場合に輸入が困難となるため、供給に問題が生じることを指摘。後発医薬品も薬価引き下げが行われることで、不採算医薬品になってしまうとして、「特許の切れた長期収載品で基礎的医薬品に指定される可能性があるものに関しては薬価を維持して、医薬品メーカーの生産販売体制を保持して欲しい」と訴えた。
 広島県医師会は、医師国保組合について、国の補助金が減額されるばかりでなく、前期高齢者納付金や後期高齢者支援金などの拠出金によって運営が圧迫される中で、高額医薬品を用いる治療を要する被保険者を抱えることで、危機的な状況となっていることを強調。その改善策として、高額医薬品に係る医療保険者の財政負担のあり方を見直すとともに、社会保障目的税である消費税を医療保険制度の主な財源として安定確保することを求めた。
 鹿児島県医師会は、これらの問題の発端は財源の求め方にあるとした上で、「たくさんの課題について、改善がなされていない。司令塔はどこにあり、その司令塔の責任者は誰なのか」と指摘。官僚が次々変わっていく中で、責任の所在と方向性を明らかにすべきだとし、PDCAサイクルの中で課題が見えたら迅速に変更できるような体制づくりが必要であるとした。
 各県の発言を踏まえ、公定薬価のあり方に関して、紀平幸一静岡県医師会長は「公定薬価を引き下げて診療報酬の財源とすることはやめるべきである。これにより、海外メーカーにとって日本の市場が魅力の無いものとなるだけでなく、国内メーカーの創薬に対する体力も損なっている」と述べた他、村上美也子富山県医師会長は「さまざまなコストが上がっていることを度外視して民間企業に薬を創ってもらい、それで公定薬価が下がっていくというような現状は全く納得できないものだと思う。医療費抑制策や薬価の削減はもう限界に達している」などの見解を示した。
 また、高額医薬品に関して池田琢哉鹿児島県医師会長は、日本の創薬力が低下する中、多くの高額医薬品は諸外国で開発・販売されているとして、G7などで医薬品の供給について検討する場を設けることを要望した。
 全体討議では、「消費税の引き上げの話をするのであれば、まずは国民と保険財政の議論を行うべきだ」という意見が出された他、医療の高度化を無視したシーリングや、後発医薬品の数量シェアを80%とする目標を掲げた政府の責任などについて疑問が呈された。
 須藤群馬県医師会長は、医薬品の安定供給や高額医薬品の問題以外にも、7種類以上の内服薬処方の減額の問題や、ジェネリック医薬品の薬価が多岐にわたることなどの問題があることを指摘し、執行部に検討を求めた。

都道府県医師会からの質問に執行部から答弁

 引き続き、薬事担当の宮川政昭常任理事が、医薬品に関わる諸問題について概説。2019年から始まった医薬品の供給不安については、品質や業界の構造全般の問題、新型コロナウイルス感染症の影響など、複数の要因が重なっているためだとし、その解決のためには、業界の再編・集約も必要となることを考えれば、その根本的な解決のためには3年程度を要するとの見方を示した。
 また、国による後発品の使用促進の方針の下、共同開発の規制緩和で200社近くの企業が参入したものの、必ずしも十分な製造能力を有していなかったり、自社で開発データをもたないために責任感が欠如している企業もあると説明。日本医師会としても不適切な製造をしていた企業に対して個別面談を実施してきたものの、企業査察をする県行政の職員が少ないことや、業界団体に加盟していない後発企業もあるため解決に至っていないとして懸念を示した他、2005年の薬事法改正により、医薬品の製造と販売を分離することが認められたために、委受託製造問題が生じて歪んだ企業体制ができていると指摘した。
 更に同常任理事は、「国が後発医薬品の数量シェアを80%とする数値だけを目標にしてきたことが問題であり、それ以上のことは言うべきではないと国の審議会で主張しているが、創薬の面でも大きな問題が生じている」と強調。「日本の市場の魅力の無さが、ベンチャー企業を遠ざけている。日本においてドラッグ・ラグはもう無く、あるのはドラッグ・ロスである」として、希少疾病用医薬品や小児用医薬品など、日本での開発が未着手である医薬品が入ってこない状況を憂えた。
 この他、先発品メーカーが権利を売却して、自社の子会社にオーソライズド・ジェネリックとして製造させることで、1物2価の状態となる販売体制があることにも危機感を示し、「医薬品企業の再編がこれからの最重要課題である」と主張。政府に対して、安全保障の観点からの医薬品を含めた医療へのより積極的な支援を求めるとともに、都道府県医師会長には医政活動についての助言を要望した。
 医療保険制度、薬価制度に関して、事前に都道府県医師会から寄せられた質問には、担当の長島公之常任理事が回答を行った。
 北海道医師会からは、「優れた医薬品を評価しつつ医療保険財政にも配慮しながら、どのように適正な費用対効果の評価を行っていくのか」、富山県医師会からはドラッグ・ラグやドラッグ・ロスについて、長崎県医師会からは長期収載品の評価や最低薬価の見直しについて、それぞれ質問がなされた。
 これに対して長島常任理事は、「相次ぐ高額医薬品の登場を背景に、平成30年(2018年)度改定において薬価制度の抜本改革が行われて以降、増え続ける薬剤費が医療保険財政に与えるインパクトをできるだけ小さくし、国民皆保険を持続させることに軸足を置いて対応してきた」と前置きした上で、平成30年度から6年連続して毎年薬価改定が実施されたことや、後発医薬品を中心とした安定供給上の問題が生じたことによって、現在は、必要な医薬品を確保していくことにも配慮が必要になったと説明。
 今後、中医協の薬価専門部会で、次期薬価制度改革に向け、①新薬創出等加算や長期収載品に関する薬価算定ルールの見直し②革新的新薬の日本への導入状況や安定供給上の課題も踏まえたこれまでの薬価制度改革の検証③安定供給の確保、創薬力の強化、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消―などの課題について集中的に議論していくとした。
 一方、同常任理事は、臨床現場に必要な医薬品を評価するために、薬価基準上の評価を増額あるいは新設することは、その分、医科の技術料として使用できる改定財源が減ることにつながるとし、厳しい財政状況の中、皆保険の維持・継続を確保しつつ、必要な医薬品が確実に供給されるようにするため、その時々の情勢も踏まえつつ、執行部として対応していく姿勢を示した。
 大阪府医師会からの、地域フォーミュラリの策定拡大と診療報酬上の評価に関する懸念には、「安全性、有効性、安定供給といった医療上の視点に加え、財務省が主張するような薬剤費抑制の視点が必要以上に重要視される危険もあることから、診療報酬でフォーミュラリを評価することは筋が違う」と同意し、社会保障審議会医療保険部会や中医協でもそのように主張してきたとして、理解を求めた。
 富山県医師会からの、薬価改定財源の診療報酬本体への充当について日本医師会の見解を問う質問には、「健康保険法上において薬剤は診療等と不可分一体との考えから、薬価・材料費の引き下げ分は診療報酬本体の財源に充当すべきとの姿勢を示してきたが、この考えは現在も変わっていない」と説明。ただし、昨今は政府方針により毎年薬価改定が実施されているとして、「これが続けば、いずれ医療提供体制が歪んだものになる」と危惧した。
 総括した松本会長は、「大変大きな課題であり、解決の糸口をすぐにつかむことは難しいが、都道府県医師会長の先生方と執行部が課題を共有して議論ができたことは非常に大きい」と強調。4名の常任理事の増員を踏まえ、今後、都道府県医師会と更なる連携を図っていく姿勢を示した。

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる