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第5回医療政策会議 「ポスト大震災の日本と社会保障」をテーマに委員が講演 |
冒頭、あいさつに立った原中会長は、東日本大震災後に数回にわたり、被災地の状況を視察したことなどを報告するとともに、政府の対応の不十分さを憂え、「厚生労働省には、被災地に全職員を送り、現場の状況を判断して、国民の健康を守るという基本的な姿勢を持ってもらいたい」と強調。復興支援に専念出来るよう、来年度の診療報酬同時改定を見送る提案をしたことを説明するとともに、今後も必要に応じて政府に忌憚なく提言していくとした。 その後、山口二郎委員(北海道大学大学院法学研究科教授)が「ポスト大震災の日本と社会保障」と題して講演。 同委員はまず、「震災を利用して、難しかった政策決定を議論なしに進めようとする動きが財務省の一部にあった。ある程度の税負担、社会保険料負担を増やしながら、社会連帯と相互扶助の仕組みを守るためには、財務省の増税論は的外れではないが、国民にとってどういう意味があるのかという議論を全く省略して、財務省ペースで負担増の議論ばかりが出てくると、単純な増税反対論が力を得て、両極端の狭間で現実的な政策論議が出来なくなる」と危機感を示した。 そのうえで、バブル崩壊後の「失われた20年の風景」として、日本型安心社会が崩壊したことを取り上げ、「小泉政権時代、“リスクの個人化”への転換を『改革』と呼んでしまった結果、社会保障の劣化、医療崩壊、雇用の劣化などがもたらされた。規制緩和と競争社会が到来し、2000年代以降、急速に企業収益と賃金が乖離、貧困が拡大した」と説明。また、当時盛んに言われた“小さな政府”の概念には、政府の役割に防災が含まれていないことから、日本が抱えているリスクの大きさを再認識し、政府の在り方を考えるべきだとした。 政権交代後の民主党政権については、社会保障の再生を掲げ、“リスクの社会化”の方向に戻ろうとしたものの、明確な理念がないため、マニフェストも個々のアイデアが並んでいるに過ぎず、政策面で混迷しているうえに、政策論議の仕組みも不十分であると指摘。税と社会保障の一体改革については、負担増を社会保障改革のために行うのか、財政赤字の縮小のために行うのか、正当する理念が曖昧だとした。 また、アメリカをモデルとする「成長戦略」を牽制し、経済的成長の見込めない時代においては、非正規雇用でも暮らしていけるような医食住の保障が基本であり、子どもの保育・教育や高齢者の医療・介護などを公共財として、無償もしくは廉価で提供するべきだと主張した。 震災後の政治状況と社会保障改革については、「最悪シナリオ」として、1)財務省主導の緊縮路線、2)TPPと際限のない市場化、3)福祉国家勢力の分散―を挙げた。一方、「最善シナリオ」としては、1)連帯と相互扶助の国民意識の強化2.リスクの自覚と社会保障への投資に関する合意3.福祉国家勢力の結集―を挙げ、今回の震災を契機に日本が抱えるリスクの大きさを自覚し、小さな政府は無理であることから、国民全体としてさまざまなリスクを防ぐための税・社会保障をきちんと維持していくという合意を形成することが大切であるとした。 ◆問い合わせ先:日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代) |
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