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第1211号(平成24年2月20日) |
平成22・23年度医療政策会議報告書
「医療を営利産業化していいのか」を公表
医療政策会議はこのほど,原中勝征会長からの諮問「医療を営利産業化していいのか」に対する報告書を取りまとめ,一月二十日に田中滋議長(慶應義塾大学大学院教授)から原中会長に提出した.
本報告書は,二年間にわたる検討課題を,同会議有識者委員が分担執筆し,議長が取りまとめたもので,第一章「ポスト三一一の社会保障と政治」(山口二郎委員),第二章「TPPと今後の日本医療」(二木立委員),第三章「医療の営利産業化より医療関連産業の強化を」(桐野明委員),第四章「医療保障政策と医療団体の政治経済学的位置」(権丈善一委員)─の四章で構成され,講演録七編が収載されている.
「はじめに」では,「医療本体の営利産業化は許してはならない」ことは当然の前提とし,医療は資本利得のために用いられるべき産業分野ではなく,直接的には患者のため,ひいては地域社会や国の安定と成長に資するために存在すると主張.だからこそ,皆が重層的に加わる社会保障制度によって強く支えられている体制が維持されるとの考え方を示している.
第一章「ポスト三一一の社会保障と政治」では,リスクの多い日本には,小さな政府は適応不可能だということを大震災が明らかにしたとして,政府とは,巨大なリスクに対して人間の生命と生活を守るために存在していると言及.民主党政権の政策については,「TPP」(環太平洋連携協定)は無原則な自由化が医療のみならず,社会的共通資本を荒廃させる恐れがあると指摘し,医療の営利産業化と連動した動きだと牽制.「社会保障・税一体改革」では,財源を確保しつつ,社会保障の再建に取り組む必要があるとし,国民の理解が得られる真の社会保障改革を求めている.
第二章「TPPと今後の日本医療」では,TPPに参加した場合,米国からの要求を三段階に分けて予測.第一段階は,医療機器・医薬品価格規制の撤廃・緩和,第二段階は,医療特区(総合特区)での株式会社の病院経営の解禁と混合診療の原則解禁,第三段階は,全国レベルでの株式会社の病院経営の解禁と混合診療の原則解禁を挙げている.仮に第三段階まで受け入れた場合,国民皆保険の基本理念は変質し,給付も大幅に劣化するとして,保険財政や診療報酬,患者に及ぼす影響などを解説.更に,米国の要求は「場当たり的」で一枚岩ではないこと,医療の営利産業化は日本の大企業も求めていることを指摘している.
第三章「医療の営利産業化より医療関連産業の強化を」では,単純に医療そのものの収益性を上げて「医療産業化」するのではなく,医薬品や医療機器において世界の先頭に立つような体制をつくり上げ活性化して,その総合的な力をもって世界に冠たる「医療産業化」を成し遂げることが可能であれば,それが最もまともな路線であるとして,そのためには,開発医療をやりやすくするための基盤をつくらなければならないと説いている.
第四章「医療保障政策と医療団体の政治経済学的位置」では,市場における個々の主体が私的利益を求めると,国民経済は過少消費という合成の誤謬(ごびゅう)に陥って,経済成長という公共善を失うことになると指摘.従って,政治過程を通して,市場活動に規制をかけ,私的利益の追求を抑制することにより,国民全般が公共善を享受出来るようにする政策が,再分配政策としての社会保障であるとし,労働力の非正規化を進めた民間の経営者,企業が一方的に主導権を握る政策形成は,一国を合成の誤謬に陥れ,デフレスパイラルに陥らせるリスクを抱えていると警鐘している.
「おわりに」では,医療がこれまで以上に社会に役立ち,安心をもたらし,成長に寄与するよう,資源を効率的に活用しつつ活動しなければならないことを強調.本報告書は,良い意味の産業化と悪しき営利産業化を峻別する見方を提示することが狙いであるとしている. |