日医ニュース
日医ニュース目次 第1165号(平成22年3月20日)

平成20・21年度医療政策会議報告書
「経済成長と医療政策のあり方」を公表

 医療政策会議は,このほど唐澤人会長からの諮問「経済成長と医療政策のあり方」に対する報告書を取りまとめ,田中滋議長(慶大大学院教授)から唐澤会長に提出した.

平成20・21年度医療政策会議報告書/「経済成長と医療政策のあり方」を公表(写真) 本報告書は,二年間にわたる検討課題を,同会議有識者委員が分担執筆し,議長が取りまとめたもので,(一)政治環境の変化:山口二郎委員,(二)経済成長と医療財政:神野直彦委員,(三)イノベーションと医療:権丈善一委員,(四)自律的な専門職集団としての医師のあり方:桐野明委員─の四章で構成されている.
 「はじめに」では,マクロ経済の成長,また患者のニーズ充足の観点から,医療提供体制整備とその利用については,社会保障制度による支援が不可欠であることを強調.社会保障制度は,直接的な給付の対象とはならない多数の人々の拠出によって支えられているとし,医療関係者は,受療保障の大切さを訴えるだけではなく,提供体制が住民の支持・応援を受けるに値するよう努力し続けなければならないと述べている.
 (一)「政治環境の変化」では,自民党による長期安定政権が崩壊し,日本の民主政治は政権交代がいつでも起こり得る新たな段階に入ったと前置き.特定の政権政党とネゴシエーションを行って政策を形成するのではなく,あるべき医療政策,基本理念を議論し,専門職集団としての医師会と,社会保障,福祉国家のあり方に関する理念を共有する学者たちが正攻法の政策論を展開しながら,政治に対して積極的に提言をしていくことが,これからの政策決定のあるべきイメージであるとしている.
 (二)「経済成長と医療財源」では,先進国を三つのパターンに分類し,財政における社会福祉のウェイトを分析.「小さな政府」のアメリカは,経済成長率は高いが財政赤字を抱え,「大きな政府」のドイツは,経済成長率は低く財政赤字でもある.しかし,さらに「大きな政府」のスウェーデンは,経済成長に成功している.このことから,社会支出と経済成長は別の軸であり,経済成長にかかわるのは社会福祉の内実だとしている.
 そして,格差や貧困を抑制しながら経済成長を実現したスウェーデンでは,産業構造の転換が見られたとして,ポスト工業社会である知識社会では,「教育」「医療と環境」「社会資本」への投資が成長の基本戦略となり,そういう方向こそが福祉国家と一致するものであるとした.
 (三)「イノベーションと医療」では,医療の機能強化を図るためには,医療費の増加は不可欠であるとしたうえで,公的医療費の増加は,平等消費型医療を実現出来るが,国民負担率の引き上げを伴い,一方,私的医療費の増加は,規制緩和,混合診療の解禁につながり,階層消費型医療に帰結するとしている.
 そして,わが国の政治は,“医療費亡国論”に象徴される歳出削減基調のなか,国民負担率の引き上げを国民に問うことが出来ないままでいたとし,経済が回復しない場合でも,国が財政規律を明確にした負担増ビジョンを示すことにより,国民の財政に対する信頼を確保して,有効需要が増えていくのではないかと指摘している.
 (四)「自律的な専門職集団としての医師のあり方」では,わが国では,OECD諸国に比べ,低い水準の医療費と限られた医療従事者数という強い制約の下で,安全でより質の高い医療に対する社会の要求が高度になり,医師の負担が増えていることを指摘.社会的共通資本である医療システムを持続するためには,国民や社会,政府の支えが必要であり,医師は,率先して医療への信頼回復に向けた努力によって,国民が医療に必要な税・社会保障負担を進んで受け入れる素地を築くべきだとした.
 「おわりに」では,適切な税・社会保障負担に支えられた効率的・効果的な医療の存在は,人々の安心感を高めて消費抑制の防止に役立ち,かつ医療提供体制の発展を通じて経済成長に資することへの期待は,政府の成長戦略を見ても明らかであると主張.「経済成長の恩恵が医療にも及ぶ」だけではなく,「医療が経済成長を牽引する」という形で,会長の諮問に答えている.
 なお,担当の中川俊男常任理事が,二月二十四日の定例記者会見で本報告書の内容を公表した.

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