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第1159号(平成21年12月20日) |
社会保障審議会医療保険部会・医療部会
次期診療報酬改定の基本方針(案)を大筋で合意
医療保険部会(11月25日)
社会保障審議会医療保険部会が十一月二十五日,都内で開催され,日医からは藤原淳常任理事が出席した.
当日は,(一) 平成二十二年度の診療報酬改定の基本方針(案),(二)行政刷新会議からの指摘事項,(三)その他─について議論が行われた.
基本方針(案)は,「I基本的考え方」「II基本方針(二つの重点課題と四つの視点から)」「III後期高齢者医療の診療報酬について」で構成されており,重点課題として,(1)救急,産科,小児,外科等の医療の再建,(2)病院勤務医の負担の軽減(医療従事者の増員に努める医療機関への支援)に取り組むべきとした.(1)では,地域連携による救急患者の受入の促進や,新生児や小児,妊産婦を含めた救急患者を受け入れる医療機関や医師に対する評価や,有床診療所も含めた後方病床・在宅療養の機能評価などについて検討すべきとした.また,四つの視点として,(1)充実が求められる領域を適切に評価していく視点,(2)患者からみて分かりやすく納得でき,安心・安全で,生活の質にも配慮した医療を実現する視点,(3)医療と介護の機能分化と連携の推進等を通じて,質が高く効率的な医療を実現する視点,(4)効率化の余地があると思われる領域を適正化する視点─が示されている.
議論のなかで,勤務医の負担軽減につながるとして,病床数の適正化と入院日数の短縮を,重点的に取り組む課題に盛り込むよう求めた意見に対して,同常任理事は,「入院日数の短縮は,勤務医の負担軽減につながるどころか,むしろ勤務医の負担増に結びつくものである」と反論.また,病院と診療所の再診料の格差是正を求める意見に対しては,これまで病院・診療所それぞれにおける再診料の意義と点数格差について説明してきたとして,あえて詳しく言及はしなかったが,医療と介護の連携という点で,平成十五年の閣議決定(医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針)において示されている,診療報酬体系の基本的な考え方にある,「患者の視点から質が高く最適の医療が提供される」という点を盛り込むよう求めた.
当部会としての最終的な取りまとめは,今回の議論を踏まえた修文を行うとともに,医療部会における基本方針(案)に関する議論との調整を経たうえで行われることとし,その調整は部会長に一任された.
(二)では,入院時の食費・居住費の負担拡大や,市販薬と類似した医療用医薬品を保険給付対象外とすることを求めた,「事業仕分け」WGの評価について,事務局より説明がなされた.それに対して,委員からは反対意見が続出した.
同常任理事は,「入院時の食事は,大切な治療の一環であり,小学校の給食を引き合いに出すことは筋違い」と反論した.さらに,「市販類似薬が保険給付対象外になれば,患者の自己負担が増え,受診抑制につながる.また,患者の自己判断で使用されれば,副作用の面からも非常に危険である.さらには,このことで医薬品の価格が高騰し,高所得者しか入手出来なくなることが起こり得る」と問題点を挙げて反対した.
最後に,その他として,協会けんぽ,健保組合,国保等保険者の厳しい財政状況について,関係委員から報告があった.
また,当日は,前回より参画された委員から,「医療部会と議論が重複しているし,それぞれの立場からの主張に対して調整するための議論がない.また,中医協では,次期診療報酬改定に向けた議論が先行している」として,当部会での議論の意義,位置づけ等に強い疑問の声があがった.それに対し,事務局および部会長から,「医療保険部会は保険制度,医療部会は医療提供体制について検討する部会であり,それぞれの役割から基本方針を検討している.中医協は具体的な点数配分を議論する場で,時間的な問題から,重点部分を先行して議論しているが,その基本は医療保険部会・医療部会の基本方針ということになる」と説明し理解を求めた.
医療部会(12月3日)
第十一回社会保障審議会医療部会が十二月三日,都内で開催され,日医からは中川俊男・今村聡(竹嶋康弘副会長代理)両常任理事が出席した.
当日は,平成二十二年度診療報酬改定に向けた検討について最終の意見交換が行われた.初めに,厚生労働省事務局が,十一月二十五日開催の社保審医療保険部会に提出したものと同じ内容の「平成二十二年度診療報酬改定の基本方針(案)」について説明した.
その後の議論のなかで,今村(聡)常任理事は,医療費の配分に関連して竹嶋副会長名による提出資料「医療をめぐる控除対象外消費税問題」を基に,医療機関が負担している控除対象外消費税について説明した.負担の現状として,社会保険診療収入に占める控除対象外消費税の割合は病院・診療所ともに二%以上となっている.この問題に対し,平成元年に〇・七六%,九年に〇・七七%の合計一・五三%が診療報酬に上乗せされ,解決済みとされてきたが,これでは不十分だったことは明らかだと指摘.また,診療報酬(本体)に上乗せされた〇・四三%(元年:〇・一一%,九年:〇・三二%)は,合計三十六項目に過ぎず,その後の改定でなくなってしまった可能性が大きいとした.そのうえで,仮に二・二〇%の控除対象外消費税が生じているとすると,一・五三%の上乗せで補填されているとしても,〇・六七%の負担が医療機関に生じていることになり,医療機関全体の負担額は,約二千二百億円にもなるとの試算を示した.このように,医療機関は長年にわたり多額の控除対象外消費税を負担しており,これは医療機関の経営を圧迫する大きな原因だとした.したがって,控除対象外消費税は医療提供体制確保のために検証すべき問題であると強調した.同常任理事は,「大病院ほど負担が大きく,税の負担には大きな違いがある.未収金問題も含め,これらは,配分にも関係するので,きちんと検証する機会をつくって欲しい」と要望した.
中川常任理事は,二日に,日医が唐澤人会長名で厚労省政務三役宛に提出した,「平成二十二年度診療報酬改定に対する日本医師会の要望」を資料として提出し,身近な医療機関が健全に存続し,国民が経済的負担を心配することなく,いつでも医療機関にかかれる社会に戻さなくてはならないとして,「診療報酬を大幅かつ全体的に引き上げること」「患者一部負担割合を引き下げること」の二点を要望したと説明した.
また,全国健康保険協会(協会けんぽ)の財政悪化について,協会けんぽへの国庫補助率が,平成四年から一三・〇%に据え置かれていることを指摘し,厚労省事務局に対して,「国の責任で保険者体制も立て直すべきであるということが分かるように書き加えられないか」と質した.これに対し,事務局からは,「同様の問題意識はもっているが,予算編成上の重要な事項でもあり,検討させて欲しい」との回答があった.
意見交換では,「基本認識・重点課題等」のなかで,“医療費全体の底上げを行うこと”と“限られた財源の中で,医療費の配分の大幅な見直しを行うこと”が両論併記されている点に特に議論が集中し,「もう少し医療の置かれている現状を書き込んだ方が良い」「前回改定では,本体が微々たるアップだったため,重点課題が実現出来なかったのだから,前回以上の大幅なアップが必要だと明記するべき」「国民に質の高い安心・安全な医療を提供するためという視点からまとめるべき」などの意見が出された.齋藤英彦部会長(名古屋セントラル病院長)は,医療部会と医療保険部会とでは,医療提供体制のあるべき姿の視点と医療財源の視点という違いがあるとして,「厳しい財政状況にはあるけれども,力点は“上げる”方に置いた形にしたい」と述べ,最終的な文案については,部会長に一任することになった.
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