令和7年(2025年)5月5日(月) / 日医ニュース
関連法案の成立を控え、新たな地域医療構想・医師偏在対策への対応を検討
令和6年度都道府県医師会新たな地域医療構想・医師偏在対策担当理事連絡協議会
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令和6年度都道府県医師会新たな地域医療構想・医師偏在対策担当理事連絡協議会が3月19日、日本医師会館小講堂とWEB会議のハイブリッド形式で開催された。
現在、国会で審議されている新たな地域医療構想及び医師偏在対策についての関連法案が成立すると、国において厚生労働省令やガイドライン等の検討が始まり、その後、各都道府県において計画等の策定が進められることとなる。また、新たな地域医療構想では令和8年10月より医療機関機能報告が開始され、医師偏在対策は令和8年度から本格実施となる。
本協議会はこれらの状況を踏まえ、直近の状況や課題を確認し、今後の見通しの共有を図るために行われたものである。
冒頭、あいさつした松本吉郎会長は、関連法案成立後は、各都道府県医師会と行政との連携の下、新たな地域医療構想と医師偏在対策の具体的な政策が進められていくことになることから、今回の協議会を2部構成としたことを説明。新たな地域医療構想については、2040年を見据えて在宅医療・介護にも十分配慮しながら、将来予測と実態との乖離(かいり)等、現行の構想の反省点も踏まえた対応が必要になることを強調した。
一方、医師偏在対策については、財務省財政制度等審議会の春・秋の建議や骨太の方針などの動きに対し、日本医師会が6項目の対策案を公表するなどの対応をしてきた結果、広域マッチングや医業承継支援など、その主張に沿った令和6年度補正予算が成立した他、昨年末には厚労省より、日本医師会の対策案をおおむね取り入れた総合対策パッケージが公表されたことを説明した。
その上で、松本会長は「今後もこれまでどおり地域医療を面で支えるための活動を推進していくとともに、各種指標にとらわれず、その地域で真に必要な医療が提供される体制を構築することが最優先と考えている」として、引き続きの協力を求めた。
第1部:新たな地域医療構想について
議事では、江澤和彦常任理事が「新たな地域医療構想へ向けて」と題して、日本医師会の見解を説明した。
まず、同常任理事は、一般病床、療養病床の状況に触れ、地域医療構想が策定された2016年と比べて6万3000床減少し、2025年では119万床となることが見込まれることを説明。新たな地域医療構想等に関する検討会では病床機能報告において一定程度急性期が減り、回復期が増えていることから、ある程度進捗しているとの評価がなされているとした。
また、2005年から2023年にかけては入院患者数が約29万人減った反面、高齢者は約1046万人、要介護認定者は約270万人増えたとし、「治す医療」から「治し支える医療」へのシフトや在宅医療の環境整備などがその背景として挙げられるとした。
その上で、「これまでの地域医療構想は病床機能報告に終始していたが、2040年に向けて85歳以上の人口が増える中で、医療と介護の複合的ニーズを持つ方が当然増えていく。そのため、新たな地域医療構想は入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携を含む、医療介護提供体制全体の課題解決を図るためのものになっている」とした。
また、2040年には、2020年と比べ85歳以上の救急搬送が75%増加し、85歳以上の在宅医療需要は62%増加すると見込まれていることから、報告する医療機関の機能としては、地域ごとの医療機関機能として「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」の他、「急性期拠点機能」「専門等機能」となることを説明。また、広域な観点の医療機関機能としては大学病院本院が担う「医育及び広域診療機能」となることを解説した。
地域医療構想における外来、在宅医療、介護との連携に当たっては、地域の課題に応じて、協議を行う区域や参加者を設定し、医療関係者、介護関係者、都道府県、市区町村等の関係者の協議を実施することが肝要であるとした上で、スケジュールについては令和7年度に国が策定するガイドラインを踏まえ、同8年度に各都道府県で新たな地域医療構想の策定を進めることになるとした。
更に、江澤常任理事は、調整会議の活性化や地域の特性を踏まえた対応が重要になるとした他、高齢者が増加しているにもかかわらず、病床稼働率が低下したり、介護施設の稼働率が低下していることを挙げ、地域医療構想策定後も、随時過去を振り返り、策定当時の推計とその時点の状況を比較し、乖離があれば必要病床数の推計等に反映させることを求めているとした。
また、医療機関の経営がかつてないほどに厳しい局面に直面していることから、機能転換が大きな経営リスクにもなり得るとし、「調整会議においては、その医療機関が健全経営を担保できるかといったことも踏まえた議論をお願いしたい」と要望したことを説明した。
続いて都道府県医師会からの報告として、小泉ひろみ秋田県医師会長が「第八次医療計画における二次医療圏再編を経て」と題して、秋田県医師会作成の「医療グランドデザイン2040」等にも触れながら二次医療圏を8医療圏から3医療圏に再編した秋田県の取り組みについて報告。再編に当たっては、県民が、「医療圏が減ることによって身近な医療機関が無くなったり、必要な医療が受けられなくなるのではないか」との不安を抱いていたことから、パブリックコメントの募集や県民への説明を重ねてきたとした。
再編の背景としては、(1)昭和31年には130万人を超えていた秋田県の人口が今年2月に89万人となり、将来的には60万人程度となることが推計されている、(2)平成20年以降は入院・外来患者数も徐々に減少している、(3)診療所医師数も半減すると予想されており、一次医療のみならず、学校医や乳幼児健診、産業医の配置も更に困難になると考えられる―ことを挙げ、「再編において各方面の了解が得られた最大の要因は、危機感の共有であった」とした。
また、再編に当たって3医療圏として、「糖尿病」「精神疾患」「救急医療(大動脈解離などを除く)」「新興感染症」「周産期医療」「小児医療」の医療体制を検討する一方、「がん」「脳卒中」「心血管疾患(大動脈解離を除く)」「へき地医療」「在宅医療」は、これまでと同じ8医療圏の扱いとし、今後3年をめどに3医療圏とすることを目指しているとした(災害医療は1医療圏)。
その上で、小泉秋田県医会長は地域での連携や医療DXなどを通じて、病院完結型から地域完結型の医療を構築していくため、秋田県から秋田県医師会に①地域医療連携推進法人等連携支援事業②秋田県在宅医療推進センター事業―が委託されたことを紹介。①については、病院や診療所、介護施設などによる「連携推進法人」を各地域で設立していくことを支援していくための仕組みとなっていると説明した。
協議では、今村英仁常任理事の司会の下、WEBやフロア参加者からの、医療と介護の連携の難しさやアクセスの課題、看護職・介護職不足問題など、さまざまな質問に江澤常任理事と小泉秋田県医会長が回答。江澤常任理事は、地域医療構想調整会議における議論を医師会が積極的にリードしていくよう要請した。
第2部:医師偏在対策について
第2部では、まず、今村常任理事が「医師偏在対策について」と題して、(1)国の医師偏在対策の動き、(2)日本医師会の対応―について説明した。
(1)では、2024年における国の動きの一つとして「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」の策定に触れ、パッケージの中には、①医師確保計画の実効性の確保②地域の医療機関の支え合いの仕組み③地域偏在対策における経済的インセンティブ等④医師養成過程を通じた取組⑤診療科偏在の是正に向けた取組―が盛り込まれていること等を解説。
①では、厚労省より重点医師偏在対策支援区域として109の候補区域が例示されたが、支援区域は国が定めるものではなく、候補区域を参考に各都道府県で協議して決定する、②でも①と同様、外来医師過多区域の選定については、国から出される候補を基に各都道府県での協議の上で定めることになっているとして、都道府県医師会主導で地域の実情を反映して欲しいと要請した。
(2)では、国の動きに対して、予算要望や医師偏在に対する6項目からなる考え方(①公的・公立病院の管理者要件②医師少数地域の開業支援等③全国レベルの医師マッチング支援④保険診療実績要件⑤地域医療貢献の枠組み推進⑥医師偏在対策基金の創設)を定例記者会見で公表した結果、令和6年度補正予算案や総合対策パッケージ等に日本医師会の主張がおおむね反映されたことを報告。その上で、今村常任理事は「今後、予算も含めガイドラインで具体的な部分が決まることになるため、ガイドラインにおいても日本医師会の主張が反映されるよう努めていく」と述べるとともに、偏在解消のためには財源が必要になると強調。まずは6月の「骨太の方針2025」の中で財源の確保について記載されることが必要だとして、協力を求めた。
続いて、堂前洋一郎新潟県医師会長より「新潟県の医師偏在対策~新潟県医師会・新潟県・新潟大学医学部の連携」と題して、報告が行われた。
堂前新潟県医会長は、県内7医療圏のうち6医療圏が医師少数区域に位置付けられており、医師が不足している状況等、新潟県の医療を取り巻く現状を説明。今後、更に医師が不足してくることを踏まえ、将来の医療体制を守るためにも医師の養成、特に初期研修医を増やすことが重要との考えの下、医師会・県行政・大学とが協働で取り組みを進め、初期研修医を増やすことができた実績を紹介した。具体的には、医師の確保に関する協議体等の設置や地域枠の拡大の他、(1)臨床研修プログラムの魅力向上、(2)臨床研修病院の教育力向上、(3)イノベーター育成臨床研修コース(令和4年~)や(4)病院・市と連携した海外留学支援制度(令和4年~)の導入、(5)他県病院と連携した研修プログラムの設定(令和5年~)、(6)医学生へのリクルート活動の強化―を行ったことなどを概説した。
また、医師確保の問題点としては、①初期研修医は増加したが専攻医が増えない②新潟大学一般枠の医師が県内で研修する割合が低い―ことなどを挙げ、魅力ある専門研修プログラムの設定や優秀な指導者の育成の他、新潟県の魅力発信に努めているとし、具体的には医学部1年生に新潟県内の診療所を見学し、医療の実情を実感してもらうとともに、県庁の医学生インターン(医療行政体験)や希望者には、医師会役員宅へのホームステイなど、医師会員との交流も行っているとした。
加えて、医師会から医学部への財政支援や、総合的な診療能力を持つ医師の育成のためにリカレント教育も実施していることなども紹介した。
その上で、堂前新潟県医会長は、「医師偏在対策を解決するための方法に魔法の杖はない」と述べ、県行政、大学、医師会の連携・協働の必要性を強調。今後は考えられる施策を全て施行するとともに、地元の魅力発信に努めていくとした。
その後、協議に移り、事前に寄せられた質問及び当日の参加者からの質問に対して、日本医師会役員及び堂前新潟県医会長が回答した。
「外来医師過多区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等」に関して、「地域で不足している医療機能として初期救急医療や在宅医療、公衆衛生などが挙げられているが、学校保健や母子保健等といった行政との協働においても担い手が足りていない。今後の議論にはこの問題点も含まれるのか」との質問に対しては、今村常任理事が「地域で不足している医療機能には、学校医等、医師会の先生方が果たすべき地域医療への貢献も含まれていると考えており、外来医師過多区域での新規開業者に対しては医師会に加入の上、地域医療への貢献も含めた取り組みをしてもらえるよう促していきたい」との考えを示した。
その他、日本医師会に対して、各都道府県での重点医師偏在対策支援区域や外来医師過多区域に関する検討の場において医師会の意見が取り入れられるような働き掛けや、大学病院の指導医の立場にある医師の処遇改善等を求める要望が出された他、初期研修医だけでなく、専攻医も増やすための魅力あるプログラムの作成、医学部入学後の早期体験実習などの取り組みについても活発な議論が交わされた。
最後に、総括を行った角田徹副会長は、「堂前新潟県医会長も言われたように、課題解決に魔法の杖はなく、関係者間の十分な連携の下に地域の特徴に応じた新たなアイデアを打ち出し、実直に実行していくことが重要」と述べるとともに、本日の協議も踏まえ、国に対して地域の実情に応じた柔軟な対応が確保される運用や医療機関の経営状況の改善のため、補正予算に盛り込まれた支援事業の適切な実施を求めていく考えを強調。参加者に対しては医師会全体で、全国で地域に根差した医療提供体制の構築に向けた取り組みが円滑に進められるよう、引き続きの協力を呼び掛け、協議会は終了となった。