勤務医のページ
医師会メリット論
私は2022年より、大阪府医師会の理事という大役を拝命した。それと同時に、私の本格的な医師会活動が始まった。
「これまで何をしていたのか」とお叱りを受けるかもしれないが、大筋では事実である。しかしながら、近畿大学医師会、大阪府医師会、そして日本医師会には以前から所属しており、各種通知や生涯教育制度の学習単位取得証も受け取ってきた。
また、医師会がどのような活動を行っているかについても把握しており、意識せずとも医師会業務に何らかの形で関与していた。
しかし、いざその内部に身を置いてみると、医師会とはいかなる組織で、何を目指し、どのような課題を抱え、それらにどのように取り組んできたのか、そして誰が関わっているのかといった基本的な点を、私はほとんど理解していなかったことに気付かされた。実際に業務に携わるにつれ、自分がいかに狭い範囲で医師会業務を行っていたかを痛感した。
「これは大変な場に来てしまった」―そう思う一方で、重要な業務をいくつも担うこととなった。
その一つが勤務医部会である。医師会は開業医の集まりという印象を持たれがちだが、実際には会員の半数を勤務医が占めており、医師会における勤務医の存在意義は極めて大きい。しかしながら、勤務医の医師会活動への参画率は決して高いとは言えない。
日本医師会の重要な使命の一つに「組織力の強化」があるが、勤務医会員の割合を考えれば、その強化において勤務医の果たす役割が極めて大きいことは明白である。とは言え、この課題にどのように取り組むべきか、私にとってはまさに手探りの状態からの出発であった。これまで先輩方が積み重ねてこられた努力に敬意を表しつつ、自らの視点でこの課題に向き合うこととなった。
大阪府医師会勤務医部会の常任委員会は月に2回開催され、大阪府下各ブロックの代表の先生方が参加し、活発な議論が交わされている。現在では、医師会が抱える諸問題や、その中で勤務医が果たすべき役割の全体像をある程度把握できるようになったが、当初は先輩方から教えを受ける日々であった。しかし、その過程で、これまで接点のなかった多くの先生方と「つながり」を持つことができた。この「つながり」は、私にとってかけがえのない財産であると感じている。
医師会の話題に必ずと言ってよいほど挙がるのが、「医師会に入会するメリット」である。人それぞれ重視する価値観が異なるように、医師会に求めるメリットもさまざまである。ただ、私自身が医師会活動を通じて得た最大のメリットを挙げるとすれば、それは「人とのつながり」である。既に多くの医師との「つながり」があり、仕事も順調で、業績も伸ばせているという方もいるだろう。私自身、かつてはそう考えていた。しかし、実際に医師会の中に身を置くと、その広さと奥深さを痛感することとなった。
年を重ねることで徐々に理解が深まる部分もあるかもしれないが、「新たなことに挑戦したい」「自身や所属組織の業務を発展させたい」「医師としての力量を高めたい」と考えた時、一人でできることには限界がある。しかし、志を同じくする仲間と共に取り組むことで、より遠くまで進むことが可能となる。そのような環境が整っているのが医師会である。組織力の強化とは、すなわち人と人とのつながりの強化に他ならない。点と点が結び付き、やがて交錯し、面となる。医師会が掲げる「面で支える医療」とは、まさにこのことであると理解している。
とは言え、医師会活動は、実際に関わってみなければ理解できない部分が多い。現場に身を置かなければ、その活動はどこか他人事となり、結局は「医師会に入るメリットは何か」という発言につながることになるだろう。しかし、医師会への参画は、単なるメリットの有無ではなく、医師会の掲げる理念に共感し、その目的達成に向けて仲間と共に活動することに意義があるのではないかと考えている。
現在、私は日本医師会の勤務医委員会にも所属し、諸先輩方の貴重な助言を受けながら、会長諮問に対する答申の審議を行っている。今後、特に重要となるのは、その答申をいかに現場へと反映させるかであろう。引き続き、医師会活動を通じて、医師の未来と医療の発展に寄与していきたい。
大阪府医師会勤務医部会
続いて、大阪府医師会が誇る勤務医部会について紹介する。大阪府医師会勤務医部会は、昭和48年に設立された歴史ある部会であり、2023年には設立50年という節目を迎えた。「温故知新~誇るべき50年~」と題して開催された設立50周年記念式典には、松本吉郎日本医師会長を始め、これまで多大な功績を上げ、尽力された先生方が出席された。設立の経緯を始め、部会へのさまざまな思いが込められたお話を拝聴し、深い感慨を覚えた。
ここ数年は新型コロナウイルスに翻弄されたが、それ以前から、大阪府内の医師達は多様な課題に直面しながらも対応を重ね、艱難辛苦(かんなんしんく)の末に医師同士や他職種との結束を強めてきたものと推察される。今後の50年においては、医師達は未曾有(みぞう)の課題に果敢に立ち向かい、新たな発想と柔軟な思考をもって更なる成果を積み重ねていく時代となる。これまで培われた数々の業績を継承するとともに、それをいかに生かし、何を創造するかが、勤務医部会の現職に課された重要な使命であると認識している。
勤務医部会は、若手医師の育成やキャリア形成の支援、医師の専門性向上、若手医師の参画促進やダイバーシティー推進に尽力してきた。これらの活動を通じて、医師が働きやすい環境の実現に貢献し、大阪府内の医療の質の向上と医師会の組織力強化に寄与している。特に近年は、若手医師の登用に注力している。
大阪府医師会では、若手医師自らが考え、行動する場として「U40 OSAKA」を設置し、勤務医部会での研修会、研修医交流会、研修医ウェルカムパーティー、医学生と語る会(大阪府下の医学部学生が集う会)などに若手医師が中心的に関与するようになった。少しずつではあるが、彼らが主体となる会へと成長しつつある。この取り組みにより、次世代医師の育成が促進され、自ら関わることの重要性を学ぶ機会が生まれ、ひいては医師会の組織力強化につながると考えられる。
一方で、働き方改革との整合性を図る必要があり、医師会活動におけるエフォート率が課題となっている。しかしながら、大学病院や医学部の視点からすれば、私自身、医学生や研修医、若手医師に早期からアプローチしやすい立場にある。医師の基盤が築かれる場は大学であり、そこから医師会の組織力強化につながる働き掛けを行い、追い風を生み出していきたいと考える。
最後に、率先垂範して頂いている全国の大学医師会長、各病院の病院長におかれては、これまで以上に医師会活動へのご協力と、若手医師の参画に対する後方支援をお願いしたい。諸氏の手厚い支援があってこそ、全国医師会で広がりつつある若手医師の参画が持続し、更なる発展へとつながるためである。そして、それらの取り組みが実を結び、患者の健康と幸福を支える医療環境が整備されることで、より良い医療と社会の実現へとつながると確信する。