確かに、冬の寒い日は熱燗に限ると思う。
職場から自家用車の駐車場までは離れていて、雪かきすると体の芯まで冷えているのが分かる。それで、自宅に戻り、ビールは飲まないで、燗した高清水をのどに流し込むと、生きた心地に戻り、正気を取り戻す。「そうだ、これが高清水のパワーなんだ。他の柔な酒じゃ、こうはいくまい」と、酒飲みはつぶやいた。
体に温かさが戻ると、つまみにたくあんとか白菜の漬物でも食べたいのだが、最近は漬物を手に入れるのは難しくなった。スーパーとかに行けば、容易に漬物を買うことはできるのだが、酒飲みは、最近の漬物は漬物ではない、と思うようになった。そう......昔から、おばあちゃんが作ってくれた漬物はおいしかった。テーブルに載っている漬物は、それだけで絵になったし、シンプルだけど最高のぜいたくだった。
店で売られている漬物は、食品衛生上、規制が厳しくなった。漬物は、食中毒を防ぐために、最初に野菜は塩素系消毒剤で洗わなければならないし、手袋を着けて漬物を漬けて、保存剤とか添加物を入れなきゃいけない。必要なことだと酒飲みは思っているけれど、自分が描いた漬物とは違う。「漬物は発酵食品だ。さまざまな味が入り組んで、それが、高清水のつまみにぴったりなんだ......」と、酒飲みは高清水を飲みながら呻(うめ)いた。
よく通う居酒屋や料理屋でも、出てくる料理はおいしいが、最後の漬物は既製品のことが多く、酒飲みはいつもがっかりしていた。自前の漬物を出す料理屋は、仁井田のKくらいで、ここでは主人がおいしい料理を作り、女将(おかみ)さんが漬物を作るのだが、ここの漬物はおいしく、冬だと「なた漬け」が最高だ。
でも、毎日ここに通うことはできない。自宅で漬物が必要なんだ。ネットを見ても、自然で無添加の漬物を見付けるのは難しい。じゃあどうするかと言えば、家で作るしかない。
そう決意した酒飲みは、高清水を飲みつつ、YouTubeでたくあんや白菜の漬物の作り方を探したら、結構動画があることに驚いた。幸い、酒飲みの家では秋なすとかで漬物の技術は少しあったので、家人を拝み倒してたくあんを作ってもらうことにした。
たくあんの動画を見ると、いろんなのがあるが、一本漬けにせず、カットしてかなりの重しを載せれば、うまくいくような気がした。それでも二度漬けは必要だし、大根から水は上がるので、それはそれは家人は大変だ。
そして運命の4日目、待望のたくあんが完成した。見るとちゃんとしたたくあんに見える。それで、味はどうなんだ、うまいのか、まずいのか、腐っているのか? いろんな思いを抱きつつ、完成したたくあんを食べると、酒飲みは、「ボーノ!」となぜか、イタリア語を発した。自宅でロケットを発射して、人工衛星を軌道に乗せた思いであった。
燗した高清水を飲み、自宅のたくあんをかじると、そこには、シンプルだけど、酒の王道が見えた気がした。
新年は、きっと良い年だろうと、酒飲みは確信した。