新しいワインを開けた時、汚染されたコルクのためにワインの品質が劣化していることをブショネ(Bouchoneé)と言うらしい。レストランでソムリエが抜栓したコルクの香りを嗅ぐのはそれを確認するためである。どんな臭いなのか尋ねると、コルク臭さのような......とのこと。だったら気取ってないで「コルク臭い」って言えよ!と思っていた。
あるお店で食事をしながらご主人とその話をしていると「そう言えば先日来てくださったお客さんに、枝豆の匂いのするワインはない?と聞かれたんです」と。うちにはそういうタイプは置いてないと答えると、そのお客さんはこう続けたという。「このワイン枝豆の匂いがして美味しいから!とお店の人に勧められ、飲んでみたらすごく美味しかったんだよね」。後日ご主人が調べると、ワインに、ある細菌が繁殖して生じるにおいであった、という顚末(てんまつ)だった。
私はあることを思い出した。飼ってる人の中では結構有名な話なのだが、犬の肉球の匂いは枝豆の匂いにそっくり。そしてその匂いを嗅ぐと落ち着く~って人が結構いるらしい。それを話すと、「ってことは、美味しいワインは、肉球の香り?」と大笑いになった。
あるソムリエさんの「ワインにしても、食事との組み合わせにしても、その人が美味しいと思うものが一番よ!」という言葉が強く記憶に残っている。全く同感である。
日本人には納豆を食べる人が多い。漬物など、そもそも発酵食品の匂いに慣れている。しかも新潟は日本一の枝豆消費県。何を美味しいと感じるかは個人の嗜好性によるものであり、人それぞれ。食文化の異なる欧米人にとって異臭と感じる臭いも、日本人には独特のクセになる匂いと認識されることもあるのではと思う。
最近、世界中で「自然派ワイン」が大流行中である。フランスをはじめ伝統的なワイン産地ではブドウ品種、栽培の土地、製造方法など厳密に規定されているが、「自然派ワイン」はそれに縛られない自由な発想で造られているようだ。例えば、多くのワインに酸化防止剤として添加されている亜硫酸という物質があるが、これを使用しない自然派ワイン生産者がいる。ただ、この亜硫酸は微生物の増殖を抑える役割もあるため、うまくいかなければ微生物による臭いが発生してしまうのだそうだ。しかし、何と海外では、日本市場なら失敗した臭いワインでも自然派と言えば売れる、と考える者もいるらしい。特に有害でなく日本人の好みに合うのなら、それでも良いかも知れないが......。
ワイン売り場やレストランでワインのお話を聞いていると、だんだん熱く語りだすソムリエさんが多い。熱くなってくると、こちらの知識がないため、どんどん話が分からなくなってくる。自然派ワインのことも含め、ソムリエさんと相談できるくらいの知識があったら楽しいだろうなと思い、最近ワインを少しずつ勉強し始めた。
さて、勉強を始めてから知ったことだが、ブショネはコルク臭いような、湿った段ボールのような、カビ臭いような臭いらしく、適当な日本語訳がないためブショネとしか言いようがないらしい。気取ってたワケじゃないのね。
(一部省略)
新潟県 新潟市医師会報 NO.633より