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令和6年(2024年)5月20日(月) / 日医ニュース

「コロナ禍において顕在化した課題」をテーマに開催

「コロナ禍において顕在化した課題」をテーマに開催

「コロナ禍において顕在化した課題」をテーマに開催

 令和6年度学校保健講習会が4月7日、日本医師会館大講堂で開催された。
 渡辺弘司常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつに立った松本吉郎会長は、日頃の学校保健活動等への従事に敬意を表した上で、健康寿命を延伸するためには、ライフステージの初期段階で健康の基礎を獲得することが重要であるものの、その大切な時期がコロナ禍と重なった子ども達には運動・睡眠不足、メンタルヘルスの問題等の課題があると指摘。その解決につなげるためにも本講習会で深めた知見を基に各地域で活動を続けてもらいたいとした。
 その後は、松本吉郎日本学校保健会長(弓倉整日本学校保健会専務理事代読)のあいさつに引き続き、松村誠日本医師会学校保健委員会委員長/広島県医師会長を座長として、5名の講師による講演が行われた。

講演1

 八並光俊日本生徒指導学会長は、生徒指導の基本書となる『生徒指導提要』や「いじめ」「不登校」などの諸課題別の関連法規を紹介するとともに、時間軸・課題性・対象別からなる生徒指導の重層的支援構造等について解説した。
 また、八並会長はコロナ禍の生徒指導における諸課題の実態について、文部科学省のデータを基に、教員による生徒指導が学校現場における多忙化の要因の一つになっていることを挙げるとともに、さまざまな課題が複雑化していることを指摘。また、生徒指導の課題に対応するためには、多職種・他機関連携で行うネットワーク型支援が基本となるが、その中では医師が重要な役割を担うことになるため、学校現場と医療現場で互いを知ることも求められるとの考えを示した。
 更に、チーム支援を行う上では、学校の教員に限らず、医療、保健、福祉、警察など関係者によるチームアセスメントが重要なポイントであり、その情報連携が行動連携にもつながっていくことを強調した。

講演2

 永光信一郎福岡大学医学部小児科学講座教授は、コロナ禍において子どもの心身症が増えているが、その発症には体調不良や心理社会的因子など複数の因子が絡んでいることから、医療、教育、行政などチームで向き合うことが求められると指摘。具体的には、「学校医とかかりつけ医が子どもの心のゲートキーパーとしての役目を果たし、心の診療医も含めた地域における多職種のチーム連携システムを構築することが必要になる」と述べるとともに、「医師会にはオーガナイザーとして役割を果たして欲しい」と要望した。
 また、心身症の早期発見に役立つスクリーニングキットである「QTA30」や、今年度から全国展開される5歳児健診時にフォローアップ体制として活用できるツール『親子の心の診療マップ(子どもの心版)』、GIGAスクール構想で活用できるヘルスプロモーションアプリなども併せて紹介した。

講演3

 岡田賢司福岡看護大学基礎・基礎看護部門基礎・専門基礎分野教授は、日本学校保健会作成の『学校において予防すべき感染症の解説』の令和5年度改訂版について解説。新型コロナウイルス感染症が感染症法上の5類感染症へ移行され、学校保健安全法施行規則においても第2種の感染症とされたこと等を踏まえて改訂されたものであるとした上で、学校保健安全法施行規則における出席停止期間の基準やその考え方、学校医の役割等について説明。改訂ポイントに関しては新規収載された「換気」「ポリオ」「新型コロナウイルス感染症」や、「結核」「インフルエンザ」の内容を更新した他、学校において予防すべき感染症のQ&Aや最近のトピックとして「麻しん」「咽頭結膜熱」の状況などを取り上げたことが挙げられるとして、その活用を呼び掛けた。

講演4

 柏井真理子日本眼科医会常任理事は、コロナ禍を経て、近視が増加している現状をさまざまな調査・統計を基に報告するとともに、近視のメカニズム等を解説。「近視の発生や進行は遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡んでいる」とした。
 また、休校や外出自粛等、コロナ禍が視機能に与えた影響は大きく、日本のみならず世界においても近視が進行していることを紹介。更に、眼科的視点からGIGAスクール構想に関して、「教育におけるICT化と目の健康のバランスを取ることが重要である」として、そのために行っている日本眼科医会の取り組みを報告するとともに、今後の課題として、社会全体で子どもの目を守るため、屋外で活動できる環境をいかに整備するかを挙げ、その実現のための理解と協力を求めた。

講演5

 松本俊彦国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長/病院薬物依存症センター長は、首都圏の高度救命救急センターでの調査結果から、市販薬のオーバードーズ(以下、OD)による救急搬送患者がコロナ禍で2・3倍に増え、その85%が10代、20代の女性であることを報告。
 加えて、全国の精神科医療施設を対象とした自身の調査結果等を交えて、市販薬乱用の背景や現状、ODを行う患者の特徴、ODに使用される市販薬の分類・成分、乱用の進行プロセスや乱用市販薬の変化等についても解説した。
 その他、ODとリストカットの関連性にも触れ、自傷行為に及ぶ動機について、「不快感情の軽減」「自殺」などがあるとする一方で、「死にたい」と「生きたい」の矛盾した気持ちを持ち合わせていることに理解を求めるとともに、規制強化ではなく、困難を抱える子ども達を医療、保健、福祉でどう支援していくかが大切になると強調。参加者に対して「患者家族の支援を視野に対応して欲しい」と呼び掛けた。
 講演後にはフロアからの活発な質疑応答が行われ、最後に渡辺常任理事が閉会のあいさつを行い、講習会は終了となった(当日の模様の一部は、日本医師会ホームページのメンバーズルームに掲載しているので、ぜひ、ご覧頂きたい)。
 なお、当日はその他、昼休憩の時間を利用して、渡辺常任理事から、自身が都道府県医師会を対象に学校健康診断・検診の状況や課題についてアンケート調査をした結果が報告された。

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