以前より、機会があると寄席(よせ)や演芸ホールに行き、落語や演芸を楽しんできた。大阪ではなんばグランド花月、東京では浅草演芸ホール、鈴本演芸場、新宿末廣亭といったところである。
東京と関西のお笑い文化はかなり違っていて、大阪では観客層が圧倒的に若く・熱く、舞台との心理的距離が近い。一度なんば花月で会場に遅れて入った時、いきなり舞台からいじられた。一方で、東京ではかなり観客層が高齢であり、当然反応も抑制的で、舞台の方も機械的ローテーションといった感じがなくもない。それを粋としているのかも知れず、実際に新宿末廣亭の雰囲気はなんば花月の観客にはフィットしないと思われる。ちなみにNHK BSの「落語THE MOVIE」という番組で使われている風情のある舞台が新宿末廣亭である。
とは言え、そのような場所に頻回に行くことはかなわず、ここのところ仙台での独演会に行くのが精一杯となっている。ただ、仙台では東京ではチケットを取ることができない人気落語家の独演会が聞けるため、演芸場に行くのとは別の充実感がある。会場では医療業界の方も時々見掛けて、私以外に落語フリークの方がいることを知りうれしくなる。
実は、大学病院ではコロナ前に何度か福寄席と銘打った即席の寄席を開いている。このような私の好みを忖度(そんたく)したわけでなく、あくまで笑いの効用を信じ、広報室が企画したものである。外来待合室に椅子を並べた会場で、観客は入院患者さんが中心の即席寄席である。東北大の落研に前座をお願いし一席打ってもらい、地元落語家の六華亭遊花さんに本格的な落語を披露して頂いた。六華亭遊花さんの落語はローカルなフレーバー満載で、笑いが爆発し寄席はとても盛り上がった。
そこで終われば良かったのだが、広報担当副病院長ということで最後に遊花さんと私との質疑応答というか掛け合いが企画されていた。調子に乗って私も着物などを着て高座(こうざ)に上がったのだが、当然ぎこちない掛け合いで、汗をかきかき遊花さんのリードで何とか時間を終えた。やれやれと思い立ち上がったところ、完全に足がしびれて感覚が無くなっており、高座から転がり落ち、会場は爆笑の渦となった。
会が終わり、たまたま近くのコーヒー屋に立ち寄った時に、付き添いで即席寄席に行っていたという患者家族の方がいらして、「あれが一番面白かった」と言われた。穴があったら入りたい気持ち満載となったが、笑いの効用ということで患者さんに貢献できたとすれば医者としての役目を果たせたのではと屁理屈をつけて自身を納得させた。
コロナが明けて、また病院寄席を開くことができたら、足がしびれない工夫を遊花さんに聞いてから高座に上がろうと思う。