松本吉郎会長は11月14日、高橋英登日本歯科医師会長、山本信夫日本薬剤師会長と共に厚生労働省を訪れ、武見敬三厚労大臣に要望書を手交し、令和6年度診療報酬改定に向け、原資となる適切な財源の確保を求めた。
松本会長は、(1)今年の春闘では平均賃上げ率3・58%、人事院勧告では3・3%の上昇が示されている、(2)岸田文雄内閣総理大臣も「賃上げ」を重要政策と位置付けている―ことに触れた上で、「医科及び歯科医療機関、薬局等は公定価格で運営されているため、昨今の物価上昇分等を価格に転嫁することはできず、賃上げと物価高騰、更には日進月歩する医療技術革新には恒常的な対応が必要」と強調。
更に、来年度の診療報酬改定は物価上昇局面で迎えるという意味でも、ターニングポイントと呼ぶべき特別なものであるとし、「ここで医療界のみが賃上げの流れから取り残されることがあれば人材の流出が起こり、医療崩壊を招きかねない」と危機感を示した。同時に、質の高い医療・介護サービスを安定的かつ中長期的に提供するとともに、医療界が一体・一丸となり国の経済対策に合わせて歩んでいくためにも、高齢化の伸びのシーリングに制約された従来の改定に加え、賃上げについては、診療報酬改定の中において別枠で行う必要があるとした。
加えて、松本会長は資料を基に、(1)新型コロナ禍における医療機関の発熱外来対応等、(2)地域医療の危機、(3)利益剰余金の使途―等についても説明した。
(1)では、令和2~4年度に、診療所で対応したコロナ患者及びコロナ疑い患者数は約7700万人に上り、入院患者数は400万人超であったことに触れ、診療所も新型コロナ対応で重要な役割を果たしたと強調。その一方で、(2)では、少子高齢化による患者数減少や医師不足、施設老朽化等の影響で、各地で地域医療を支えてきた医療機関の閉院が起こっていることを報告。特に地方においては、地域から医療機関が無くなることで人が住めなくなってしまうことを危惧した。
(3)では、先の財政制度等審議会財政制度分科会(以下、財政審)において、「新型コロナ特例や補助金により蓄積された利益剰余金により医療従事者の賃上げを実現する」と提言されたことについて、「利益剰余金とは税引き後利益の累積額であり、医療機関の大規模修繕等に充てるものである。その大半は設備や医療機器の固定資産、引当金や未収金等として使われ、運転資金として現預金で保有しているものではない。頑張ったところから召し上げるというのは、心が折れる」として、賃上げの原資となるのはあくまでフロー(診療報酬)であるとの認識を改めて示した。
また、財政審により、診療所の収益が大きく伸び、経常利益率も急増していると指摘されたことに対しては、新型コロナにより医療機関の経営が大きく悪化した2020年度を基準としているために伸びているように見えるが、新型コロナの特例的な影響は一過性のものに過ぎないと反論。「これら特例を除けば、新型コロナ流行後3年間の利益率は、流行前よりも悪化している可能性がある」とするとともに、報酬特例が無くなると見込まれる来年度以降は、コスト増により経営環境の悪化が見込まれるとし、プラス改定の実現により持続的な経営環境を整備していく重要性を改めて強調した。
これらの意見を受け、武見厚労大臣は、詳細な資料の提出に対し謝辞を述べた上で、「医療分野における人手不足は深刻な影響を及ぼす」とし、賃上げの原資を確保する重要性に一定の理解を示すとともに、過去3年間のコロナ対応における三師会の貢献について国民に理解を求める必要性に言及。厚労省として協力していく意向を示した。
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