令和5年度第2回都道府県医師会長会議が10月17日、日本医師会館大講堂で開催された。
当日は、物価高騰や賃金上昇への対応、新型コロナへの対応を踏まえた、医療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の「トリプル改定」について活発な討議が行われ、国会議員へ広く理解を求めていく重要性が確認された。
本会議は、都道府県医師会を六つのグループ(A~F)に分け、毎回一つのグループを中心としてテーマに則した議論を行うとともに、都道府県医師会から事前に寄せられた同テーマに関連する質問に日本医師会執行部から答弁する形で開催しているもので、今回が今年度2回目となった。
会議は釜萢敏常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、「この時期、最優先に取り組むべきトリプル改定について、本日は活発な議論をお願いしたい」と述べた。
Eグループによる討議及び全体討議
その後、安田健二石川県医師会長が進行役を務め、「トリプル改定」をテーマとしたEグループ所属の医師会(秋田県、埼玉県、石川県、愛知県、奈良県、山口県、佐賀県、沖縄県)による討議が行われた。
愛知県医師会は、この10年で診療単価が上がっていないことを問題視し、昨今の物価高騰と賃上げの流れの中で大幅なプラス改定を勝ち取る必要があると主張した。
秋田県医師会は、7月、9月の水害における支援に謝意を述べた上で、トリプル改定においては、医療、介護、障害福祉サービスの連携をコーディネートする業務への報酬を付加する必要があるとした。
山口県医師会は医療DXの推進に関し、初期投資に補助金が手当てされたとしても、システム更新などメンテナンスに多額のコストが掛かることを指摘し、診療報酬の引き上げが必須であるとした。
奈良県医師会は、改定率の決定に向けて政府に働き掛ける日本医師会執行部をアシストするためにも、都道府県医師会が日頃から地元選出の国会議員等と親密な関係を築いていくことが重要であるとした。
全体討議では、地域包括ケアシステムによって医療と介護の一体化が進んでいるとして、医療・介護業界に呼び掛けて一緒に取り組む重要性が示された他、執行部が診療報酬の議論に軸足を置いているため、介護報酬等の議論がなおざりにされているとの指摘がなされ、江澤和彦常任理事が「両方の分野において財源を確保すべく、執行部一丸となって取り組んでおり、介護の関係団体とも緊密に連携を図って進めていきたい」と応じた。
また、国会議員に理解を求めていく重要性が改めて強調されたことに対し、松本会長は「かかりつけ医機能の制度化を阻止できたのは、厚労族でない人も含めた多くの国会議員の支援があったからである」と述べ、本改定に際しても一致団結して働き掛けていくとして、その協力を求めた。
診療報酬が2年、介護報酬が3年ごとに改定されるため、同時改定が6年に1回のみとなることについての問題提起には、江澤常任理事がそれぞれの成り立ちを説明。「一部には毎回改定を合わせるべきだという意見もある」とした上で、今回の改定も踏まえて議論をしていく姿勢を示した。
都道府県医師会からの質問に執行部より答弁
引き続き、都道府県医師会より事前に寄せられた質問に対して、執行部より回答を行った。
診療報酬上の課題について答弁した長島公之常任理事は、まず、「今回の診療報酬改定は従来の改定に加え、物価高騰や賃金上昇への対応と新型コロナへの対応という三つの論点がある異次元の改定となる」とした上で、物価高騰や賃金上昇への対応については、従来の改定部分とは別に検討する必要があるとの認識を改めて強調。財務省がコロナ補助金を含めた内部留保の積み上がりを賃上げ原資等として活用する方策の検討を主張していることから、診療報酬改定に関する都道府県医師会長会議を立ち上げて対応策を検討しているとし、診療報酬改定の財源確保に向け、都道府県医師会においても地元選出の議員へ幅広く働き掛けていくことを求めた。
その上で、トリプル改定に向けては医療と介護・障害福祉サービスとの連携を強化し、相互に補完しながら求められるサービスを提供していくことが重要であるとの認識を示すとともに、「患者情報の共有や、関係者同士のカンファレンス等においては、地域医療情報連携ネットワークや、オンライン会議などを活用するなど、できるだけ現場に負担が掛からない方法を検討していきたい」と述べた。
働き方改革・処遇改善に関しては、令和2年度改定において「地域医療体制確保加算」が、令和4年度改定において「看護職員処遇改善評価料」が創設されたものの、対象となる施設・職種が一部に限られており、施設や職種間で差が生じていることを問題視し、改善に向け検討していくとした。
新興感染症対策に関しては、現行の診療報酬上のコロナ特例が令和6年度改定において、恒常的な感染症対応へと見直されることから、現場の対応力が損なわれることのないように検討していく意向を示した。
薬価改定と本体改定の改定時期の「ずれ」に関しては、改定の施行が4月から6月に2カ月後ろ倒しされるのは、国の進める診療報酬改定DXの一環として行われるもので、医療機関の負担軽減が目的であるとして、中医協では後ろ倒しにより最も大きな恩恵を受けるベンダーが保守費用やリース料を大幅に引き下げるなど、医療機関にとってのメリットの明確化と、周知・検証を強く求めているとした。
一方、薬価に関しては、近年、診療報酬改定のない中間年も含め、毎年、薬価改定が実施されており、その根拠となる薬価調査も毎年秋頃に行われていることから、6月改定では市場での価格交渉期間が短くなり、秋頃の薬価調査結果に影響を及ぼすとして4月改定のままとなった経緯に言及。「いずれにしても改定の実施後ろ倒しは、医療現場の負担や混乱などの課題解決が大前提であり、心配な点があれば日本医師会までお寄せ頂きたい」と呼び掛けた。
入院時食事療養費に関しては、約30年間据え置かれており、既に委託単価を下回っているとして、病院団体や介護団体とも協力し、次回改定を待たずに秋の経済対策において、応急処置として補助金での支援を求めていく姿勢を示した。
その他、医療DXに関しては、導入費用だけでなく、ランニングコストも全額国が負担すべきと要望していることを報告した。
介護報酬改定について答弁した江澤常任理事は、「昨今の人材不足や賃金上昇、物価高騰への対応は、介護分野においても重要課題であり、令和3年度決算による介護事業経営概況調査では各サービスの収支差率が軒並み悪化している」と強調。介護分野の人材確保と定着を図るためにも処遇改善が重要であるとし、介護団体とも連携しながら引き続き議論していく意向を示した。
高齢者施設における医療に関する課題に関しては、(1)特定機能病院等の大病院が協力医療機関となっているケースが一定数存在し、医療機関の持つ医療機能と施設や入所者が求める医療内容が必ずしも一致しない可能性がある、(2)特別養護老人ホームの配置医師の業務は基本的に介護報酬で評価され、末期の悪性腫瘍の場合については診療報酬の訪問診療での算定が可能だが、対象患者の拡大のニーズも踏まえた議論が必要―との問題意識を踏まえて対応していくとした。
医師とケアマネジャーの連携に関しては、主治医意見書において医学的管理の必要性の項目にチェックを入れても、ケアプランに反映されていないことが多いなどの課題を挙げ、ケアマネジャーの研修の中で医療系の内容が今後充実していく方向であることを説明した。
改定時期に関しては、「6月とすることに賛否両論あるものの、短期集中作業による負荷を軽減し、医療と介護の連携に支障を来さないためには6月施行以外はあり得ない」との見解を説明した。
また、障害福祉サービス等報酬改定については、「医療と福祉の連携推進は非常に重要な課題と認識しており、特にかかりつけ医と相談支援専門員の連携に関しては、相談支援専門員がサービス等利用計画を策定する際には、かかりつけ医からの情報提供を求める仕組みを導入することを提案している」と説明。
医療的ケア児に関しては、成人期への移行の時期における医師間の十分な連携を求めるとともに、学校医とかかりつけ医の連携など、医療的ケア児の支援を推進していくとした。
障害者支援施設等における医療機関との連携強化・感染症対応力の向上に関しては、「診療報酬の感染対策向上加算の連携の仕組みを参考に取り組むべきと要望している」と述べた他、次回報酬改定においてテーマとなっているかかりつけ医との連携についても、引き続き協議していく姿勢を示した。
続けて行われたフロアとの質疑応答では、リフィル処方箋(せん)が医療費適正化計画に盛り込まれることへの懸念等が示された。