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令和5年(2023年)6月20日(火) / 南から北から / 日医ニュース

Brew Peace!

 とある休日の朝、コーヒー豆の入った袋を冷凍庫から取り出し、ガラス小皿に乾いた豆を広げ計量。ケトルのスイッチをオンにして、ハンドミルのダイヤルをカチカチ鳴らしてその日の挽き目を決める。豆をミルに入れニトロブレードで均一にグラインドすると、そこはかとなくコーヒーの香り(フレグランス)が立ち込める。そのうち水が沸騰し、リンスしたぺーパードリッパーに挽いた豆を入れて、湯を注ぎ、蒸らし。乾いた豆がシュワーっと膨らむと同時に、芳醇(ほうじゅん)な香り(アロマ)が広がる。その後は数分掛けてコーヒーを抽出。お気に入りのコーヒーカップに注いで味わいつつ、色と香り(アロマ、フレーバー)を楽しむ。
 なかなか理想どおりにはいかないのですが、こんなコーヒータイムが私のささやかな息抜きになっています。
 きっかけは1冊の本です。
 帯には『まるで魔法』とあり、本にはコーヒー抽出の六つのルールが書いてありました。そのとおりにコーヒーを淹れれば誰でも魔法のように、おいしいコーヒーが飲めると。作者はワールド・バリスタ・チャンピオンなる男性で、以来、私は勝手にコーヒー師匠と呼ばせて頂いております。
 本にはおすすめの器具、グッズもたくさんありました。最初はおすすめのハンドミルの購入だけにとどめていましたが、気が付けば師匠とおそろいの温度調整付きケトル、デジタルスケール、ドリッパーなど購入していました。『まるで魔法』でした。
 冒頭の言葉は師匠のビジョンを表す言葉です。コーヒーを飲むことでホッとできる。コーヒーから生まれる何げない幸せの連鎖を世界中で育みたい。私もコーヒーを淹れて、平和な時を育みたいと考えました。
 しかし、事はそううまくはいかず、わが家の中では新たな火種が燻(くすぶ)りかけました。いつの間にか増えた器具類がキッチンのオープンスペースを占拠し、妻の調理や後片付けの邪魔になり、いつ彼女の不満が爆発してもおかしくない状況になっていました。
 そんなある朝、彼女が食器棚を整理し棚の一部を空けて、器具やカップを収納できるようにしてくれました。ただし、使ったものはその日のうちに洗って拭いて収納すること、決してオープンスペースに放っておかないこと! 半ば彼女が折れる形で私のささやかなコーヒータイムが守られました。感謝です。ただし、この平和なひとときは、彼女の愛情と、私が彼女との約束を遵守(じゅんしゅ)してこそ保たれることを肝に銘じています。なぜなら、これまで約束を破ったと見なされた息子達のNintendo 3DSやiPadの末路を知っているからです。
 わが家のことなど、取るに足らないことです。ロシアによるウクライナ侵攻、日本周辺でも台湾問題や北朝鮮のミサイル発射。先日は、自衛隊のパレードの一環ではありますがF15戦闘機が福井の空を飛びました。コロナ禍もあり、重苦しい時代の雰囲気を感じざるを得ません。
 それでも、先日、何げなくネットで「ウクライナ」「コーヒー」と検索を掛けると、ウクライナはヨーロッパでも隠れたカフェ大国で、特に西部の都市「リヴィウ」にはたくさんのカフェがあること、カフェといえばオーストリアのウィーンですが、そこにコーヒー豆をもたらしたのが、リヴィウ出身の商人であることなど、思い掛けない発見がありました。
 大学院生時に学会でウィーンを訪れ、ホテルザッハーで、本家のザッハトルテとウインナーコーヒーを楽しんだ身としては、一気に親近感が湧きました。
 リヴィウ旧市街は東欧の伝統様式と、イタリアやドイツなどの建築様式が混在し、歴史地区として世界遺産に登録されていることも知りました。
 ウクライナに早く平和が訪れてほしいと切に願うとともに、なお一層、コーヒーを飲んでホッと一息できる時間を大事にしたいと思うようになりました。

(一部省略)

福井県 福井県医師会だより 第739号より

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