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令和5年(2023年)3月5日(日) / 南から北から / 日医ニュース

「還暦」という魔法の言葉

「いつかはしてみたい」「いつかは買おう」「いつかは行ってみたい」と思いながらドンドン先延ばしになって、結局できないままのことって結構あると思います。ところが「還暦」という言葉を付けると、「還暦になったんやし思い切って買おう」「還暦になったんやから行ってみよう」みたいに今まで棚上げになっていたことを現実にできるようになるところが不思議です。
 僕は還暦になったので、中学の時から憧れていたMartin D-28(ギター)を買いました。また、いつでも行けると思って結局行っていなかった拝観謝絶の大徳寺の塔頭(たっちゅう)や京都の建築物も、特別拝観を利用して積極的に行くようになりました。いつかは読もうと思っていた吉川英治の「新・平家物語(全16巻)」も読みました。やっぱり、「還暦」という言葉には「ボヤボヤしてたら人生終わってしまうし、やりたいことあったら今のうちにやっとかな」みたいな踏ん切りをつけさせるものがあります。
 コロナ禍の影響で、ここ数年開かれなかったマラソン大会が今年は各地で開催されています。10月30日に3年ぶりにフルマラソン(横浜マラソン)を走りました。クリニックのスタッフには「もう還暦やし、とりあえず完走するのが目標やねん。タイムは気にしてないねん」と言っておきながら、内心では「3時間30分は無理としても3時間40分は切って、『先生! 還暦やのにすごいですね~』って言われたいなぁ」と思っていました。ただ体重管理ができておらず、大会の1カ月前にはやめているはずのビールも結局3日前まで飲んでいるというだらしなさ。ベストの58キロには程遠い64キロというかなり太めで出走することになりました。
 当日は快晴、気温20度。マラソンするには暑い、デブいという悪条件。26キロメートルまでは1キロメートル4分50秒をきっちり守り、3時間30分を切るペースでしたが、そこからラップが落ち始め、28キロメートル以降は大失速。這うようにゴールし、タイムは4時間7分。めでたく自己ワースト記録更新です。
 「4時間切れなくなったらフルマラソンやめよう」と思っていたけれど、こんなに早くその日が来るなんて思っていなかったのと、今シーズンは11月に神戸マラソン、来年2月に京都マラソンと大阪マラソンに既にエントリーしているので、もう少し猶予を与えることにしました。それから、言い訳になるけど、18キロメートル地点でマラソンタレントの福島和可菜さんがテレビカメラに囲まれながら前方を走っているのを見付け「ランスマ(NHK/BSのランニング番組)に映るかも知れん」と思いながら、少しぺースを上げて追い付き、並走したことも自滅の原因と思われます。
 正確には数えたことがないけれど、多分今までにフルマラソンとウルトラマラソンを合わせて42回程走っているので、あと8回は走って、50回にしたいなと思っています。もう「還暦」なんやから、4時間切れない時があっても大目に見てもらいましょう。「還暦」って言葉は、自分の踏ん切りをつけさせたり、自分を甘やかしたりする便利な魔法の言葉なんですね。

京都府 伏見医報 第750号より

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