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令和5年(2023年)2月20日(月) / 南から北から / 日医ニュース

人畜共通感染症

 昨年の春、次男が誕生日プレゼントに犬か猫を飼いたいと急に言い出した。
 夫「生き物はダメ」
 次男「えー、いいやろ! ちゃんと世話するから」
 夫「ダメなものはダメ。ぺットロボットならいいけど」
 次男「ぺットロボットなんかいらん。機械だから全然かわいくない」
 このやりとりが連日繰り返されたが、夫の態度は軟化せず、ペット話は全く進まなかった。
 当時、開始された新型コロナウイルスワクチン接種業務で多忙を極め、疲れ果てていた私は次男に誘われ、気分転換に休日にペットショップに向かった。ペットショップはコロナ禍のペットブームを反映し、既に数組の家族でにぎわっていた。
 しっぽを振って愛嬌(あいきょう)を振りまく子犬達の中で、茶色い子犬が難しい顔をしてショーウインドーのガラスのそばでじっとしていた。この子犬が妙に気になった次男は、許可を得て抱かせてもらった。子犬は緊張して震えていたが、しばらくすると次男の手をなめ始めた。
 「かわいい」
 次男はその犬を気に入り、数回ペットショップに通った末に夫には内緒で購入することになった。
 買ってきた子犬を見て、夫はペットとの濃厚接触による人畜共通感染症の怖さを語り、自宅内での放し飼いに強く反対したが、人畜共通感染症とは無縁に思え、夫の不在時は子犬をサークルから出して自由に歩かせていた。
 9月上旬、長女が足がかゆいと言い出した。見てみると足首に湿疹が数個見られた。夏場の暑さで寝具に繁殖したダニに刺されたのかと思っていたが、翌日、そして翌々日も長女の足に新しく湿疹ができ、夫も足がかゆいと言い出した。同時期に犬がやたら体を掻きだし、毛をかき分けてみると1ミリくらいの黒い丸い虫が這っていた。手で捕まえようとしてもすばしこく捕まえられない。翌日、動物病院を受診したところ、ダニではなくノミが寄生していると判明した。ノミの駆虫剤を処方され、先生からノミ感染症について説明があった。
 草むらに生息するノミが散歩中に犬の体に付着する可能性があり、成虫は1日約30個、2~3週の生存期間中に400個以上産卵するそうで、部屋の隅やカーペット、畳で孵化(ふか)後、幼虫はホコリや髪の毛を食べて生育し、暑い時期は3週で、寒い時期でも13度以上の気温で活動するため数カ月~半年以上も経って成虫となり、産卵するサイクルが続く。
 やっかいなのは卵、蛹(さなぎ)、幼虫は駆虫剤内服やバルサン等の燻煙では死滅しないので、とにかく住居内をこまめに掃除して取り除かないと繁殖サイクルを断つことが難しいとのこと。ノミは寄生動物や人を吸血し、かゆみを伴う皮膚炎を起こすだけでなく、バルトネラ(猫ひっかき病の原因菌)やサナダムシ(瓜実条虫(うりざねじょうちゅう))を媒介することもあるという。まさに夫が心配していた人畜共通感染症に巻き込まれることになった。
 その日から私の清掃に明け暮れる日々が始まった。早朝から家中に掃除機を掛けた後、コロコロ粘着シートで床掃除、寝具はこまめに洗濯、洗濯できない日はコロコロシートで布団表面の清掃。卵は60度以上の高温で死滅するため、大きなシーツや犬のマットはコインランドリーの乾燥機に掛けた。
 ノミ騒ぎが始まってかれこれ3週経ち、駆虫剤を内服した犬の体からノミは見られなくなったが、コロコロシートや各部屋に設置された「ノミ取りホイホイ」なる捕獲装置に仕留められたノミがまだ確認され、人間である私達はまだノミに毎日刺されている。私も10カ所以上刺され、一日中足がかゆくて仕方がない。ノミに刺されるのが恐怖となり、長袖、長ズボン、靴下を着用して就寝するようになった。
 神経質に暇さえあれば床をコロコロしまくっている私をよそに、ノミに刺され慣れしてきた長女は「もうノミは諦めた。ノミに足を刺されても、汚い私の部屋のホコリを食べてもらえるし、これからノミと共存していくことにした」と、とんでもない発言をする始末。withコロナだけでなく、withノミ生活が早く終わることを願っている。

富山県 富山市医師会報 第620号より

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