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令和4年(2022年)1月5日(水) / 日医ニュース

「人工妊娠中絶、Up to date―母体の安全・安心を改めて考える―」をテーマに開催

「人工妊娠中絶、Up to date―母体の安全・安心を改めて考える―」をテーマに開催

「人工妊娠中絶、Up to date―母体の安全・安心を改めて考える―」をテーマに開催

 令和3年度家族計画・母体保護法指導者講習会が昨年12月4日にWEB会議により開催された。
 講習会は担当の渡辺弘司常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした中川俊男会長(猪口雄二副会長代読)は新型コロナウイルス感染症による少子化への影響を懸念。日本医師会としても、次世代を担う子ども達の未来を見据え、実効性のある施策の実現に向け、積極的に政策提言を行っていく意向を示した。
 今回の講習会のテーマについては、(1)母体保護法に関して、令和3年7月に厚生労働省より、人工妊娠中絶手術の安全性等について、WHOのガイドラインを紹介する通知が発出された、(2)WHOはわが国の中絶手技について、国際的な動向を踏まえるよう求めている―ことなどを踏まえて決定したと説明。その上で、本講習会の成果が受講者にとって、実り多きものになることに期待を寄せた。
 引き続き、「人工妊娠中絶、Up to date―母体の安全・安心を改めて考える―」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
 長谷川潤一聖マリアンナ医科大学産婦人科学教授は、人工妊娠中絶のトラブル回避のために医師が行うべきことを穿孔(せんこう)、麻酔、薬剤・器械の選択、遺残・中絶不全、中期中絶、術後・帰宅後に分けて説明。手術法に関しては、「掻爬(そうは)法単独で行う施設は3割を切り、吸引法が徐々に増えてきているが、日本ではいずれの方法も海外の報告に比べて合併症は少なく、医療的に大きな差異はない」とした。
 また、妊産婦死亡の更なる減少を目指して日本産婦人科医会が実施している「日本母体救命システム普及事業」を紹介。産科危機的出血による死亡が明らかに減少傾向にあるなど、その成果も見られているとして、多くの医師の受講を求めた。
 谷垣伸治杏林大学医学部産科婦人科学教授は、吸引法の手技と麻酔法を解説。「前処置による疼痛がない」「手術を繰り返される症例でも子宮内膜を傷つけるリスクが軽減できる」などの利点がある一方で、「頸管拡張が必要な例もある」「リスクは軽減できてもゼロではない」「吸引圧の調整ができない」「無理な挿入による穿孔リスクがある」ことを紹介し、注意を呼び掛けた。
 その上で、各方法にはメリットとデメリットがあることから、これからの母体保護指定医師には複数の手技について説明でき、習得していることが求められるとの考えを示した。
 石谷健北里大学北里研究所病院婦人科副部長は経口中絶薬の現状について、2022年秋から末頃には承認され、上市される可能性があることなどを紹介。実際に市販された場合、母体保護法指定医師には、①経口中絶薬による中絶法の長所と短所を熟知し、患者自身が適切に選択できるよう十分な情報提供を行う②母体保護法に則った薬品管理と処方を行う③面前で患者に服薬させる④出血や遺残等に対して対応できる外科的処置の技量を持つ―ことなどが求められるとした。
 また、市販後の運用については、発売から約半年間は入院可能な施設に限って外来または入院による運用を行うなど慎重に運用すべきとするとともに、安易な適応拡大は慎むべきだと主張した。
 相良洋子さがらレディスクリニック院長は中絶とその後の精神疾患の発症との間には関連は見られないものの、罪悪感や自責の念を抱きながら生活をしている女性が多いとし、その背景要因に合わせたケアが必要になると指摘。具体的には、中絶前に本人の意思を確認し、丁寧に対応すること、また、中絶後にもより健康的な生活につながる支援を行うことが求められるとした。
 その他、中絶を選択する女性を支える医療側のスタッフにも心理的な葛藤があることにも目を向けるべきだとして、その配慮を求めた。
 指定発言を行った山本圭子厚労省子ども家庭局母子保健課長は、母体保護法第14条に規定されている配偶者の同意について、婚姻関係が実質破綻(はたん)している場合は本人の同意だけで足りることを改めて説明。令和3年度の母子保健対策関係の予算に関しては、不妊症・不育症への支援の他、多胎妊娠の妊婦健康診査支援事業なども新規に盛り込まれるなど、拡充されているとした。
 加えて、難聴の早期発見・早期療育のために聴覚検査機器の購入補助を実施していることを紹介し、その活用を求めた。
 その後に行われたパネルディスカッションでは、掻爬法のマスメディアでの取り上げられ方に懸念が示されるとともに、「掻爬法に関する研修が縮小されていくような方向に向かうべきではない」といった意見が出された。
 また、経口中絶薬については排出物の処理の問題や、外科的手技の重要性に関する意見も見られた。

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