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令和3年(2021年)12月20日(月) / 南から北から / 日医ニュース

普通じゃなきゃ、普通って言うな!

 最近、若い人は何かの話をしていて、頻繁に「普通に」と言う修飾語をくっ付ける言い方をする。
 例えば次のような感じ。
 「どうしました?」「ノドが痛いんです」「ひどく痛いんですか?」「普通に痛いです」「ひどくはないんですね?」「いや、普通にひどく痛いです」「ノドの痛みは中くらいなんですか? ひどいんですか?(ちょっと、イラッ)」「えーと......、普通にひどいです」
 この人は、どこまで行っても「普通に」を取ってくれない。口癖になってしまっているようだ。それで、この場合、「普通に」はベリーマッチという意味なのか、と言うとそうではなさそうである。そこで、当院の若い職員にこのことを尋ねたら、確かにそういう言い方はひそかに流行しているとのことである。そして、この場合の用法としては、「常に」の意味で使うそうだ。
 例えば、「今朝も普通に寝坊して電車に乗り遅れそうになった」であるが、上の例の彼は、常にノドが痛いわけではない。そこでこれは私の想像だが、彼の言わんとすることは、「確かにノドがひどく痛むのは事実だが、大騒ぎする程でもないので、先生、深刻に考えすぎて僕に重大な病名を告げたりするようなことはしないで下さいね。普通どおりに、冷静にね」ということではなかろうか? しかし彼の第一印象はそんなに気弱な感じがしないし、体格の良い青年である。そこで普通に考えると、「ま、よくあると思うんですけど、結構痛いです」といった辺りかも知れない。そして、こういうことを言う人は、ちょっとなれなれしいような感じの人であって、普通の人はそうまでは言えないものだから、かるーく、こちらを牽制(けんせい)しているのだろう。
 もう一つ、街中などで、よく女子高生が仲間内の冗談で笑い合っている時に、「フツーにウケる~」などと言っていることがある。この場合の「フツーに」は、素に受け止めた時にも大いに笑えるような、十分な実力を擁(よう)する、何の宣伝も要らない、掛け値なく面白い、という意味であろう。......やれやれ、分析するのも疲れる。
 それにしても言葉は生き物であるから、このような普通でない用法にも普段から慣れていることが普通のおじさんである私のような者には必要なのかも知れない。にしても、あまりにも普通という言葉を使い過ぎる風潮は嘆かわしいものである。普通にちょっと腹に据えかねるものがある。......って、え?

東京都 東京都医師会雑誌 第717号より

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