令和3年(2021年)11月5日(金) / 日医ニュース
健康スポーツ医のテキストや運動関連資源マップの作成に向け議論
令和3年度 都道府県医師会 運動・健康スポーツ医学担当理事連絡協議会
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令和3年度 都道府県医師会 運動・健康スポーツ医学担当理事連絡協議会が10月8日、WEB会議で開催された。スポーツ関連の連絡協議会としては、平成19年の特定健診・特定保健指導連絡協議会以来の開催であり、当日は作成中の健康スポーツ医のテキストについての報告や、運動関連資源マップの作成に向けた意見交換が行われた。 |
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協議会は羽鳥裕常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで中川俊男会長は、「人生100年時代を迎えるに当たり、運動・スポーツを通じた健康寿命の延伸がこれまで以上に重要になるが、新型コロナウイルス感染症流行の長期化によって国民が運動不足に陥っている」と指摘。今期の運動・健康スポーツ医学委員会に自らが諮問した新しいテキストの作成に期待を寄せつつ、「運動関連資源マップや新しいテキストが健康スポーツ医の活動に資するよう、忌憚(きたん)のない活発なご議論を頂きたい」と要望した。
「関係者の連携推進と臨床に役立つ健康スポーツ医のテキスト」について
津下一代日本医師会 運動・健康スポーツ医学委員会委員長は、「加齢に伴い、内科的・整形外科的リスクが大きくなることから、その人に合った運動を勧めていくことが重要である」と強調。身体活動の状況をアセスメントする仕組みは、特定健診や後期高齢者の質問票に埋め込まれているものの、その回答が支援につながっていない現状を指摘し、かかりつけ医を中心に地域の運動の専門家や行政と連携し、さまざまな体力・年齢層の人が運動できる環境を構築すべきとの考えを示した。
また、令和2年度「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究」において、障害発生後にスポーツを始めたきっかけは「医師からの奨め」が17%、「理学療法士等からの奨め」が9・4%であったことを紹介。スポーツ医は運動指導者とは異なるため、健診や診療で運動をしたいと思わない人にも、個人の状況に合わせた働き掛けを行うことが望まれるとした。
その上で、同委員会で平成22年に発行したテキスト(「日常診療のための運動指導と生活指導ABC」)が10年以上経過していること、運動に関するガイドラインが、運動を制限する考え方から、段階的に実施する考え方へと更新されるなどの変化を受け、処方から実践に軸足を移したテキストが必要であることを説明。「新しいテキストでは、運動に関する医学的論点だけでなく、医療機関と運動施設との連携を盛り込み、運動処方内容を定期的に確認しながら段階的に高いレベルの運動を実施することを目指している」と述べた。
コロナ自粛後の身体変化について
新井貞男日本臨床整形外科学会理事長は、新型コロナウイルス感染症の流行により長期間自粛生活を強いられたことで、個々の運動機能に影響を与えたかを検証すべく、整形外科外来などを受診した全世代の患者並びにその家族を対象として、日本臨床整形外科学会が今年3月と8月に行った調査結果を報告。
同調査では、自粛中の運動量は自粛前に比べ、(1)小中高生は減少、(2)20~50代は増加、(3)70、80代は減少―していたとし、小中高生は外遊びや部活動の減少、20~50代は自粛による体力低下への危機感、高齢者はコロナへの恐怖心が影響したのではないかとの推測を示した。
一方、自粛解除後は3分の1近くの人が体調変化を訴えたとし、小中高生では急激な運動量の増加から足や足関節の痛みを、20、30代は食卓等における慣れない姿勢でのリモートワークにより首や腰の痛みを覚える人が多かったとした。
その上で、新井理事長は、自粛後1年が経過した時点において、全ての年代で昨年の自粛前より運動の割合が減少していることに触れ、長引くコロナ禍により体力低下に対する危機感が低下し、運動量も減少しているとして、運動啓発の重要性を訴えた。
健康スポーツ医学再研修会(WEB開催)の状況について
羽鳥常任理事は、昨年よりWEB開催を承認している「健康スポーツ医学再研修会」の状況を説明。全国で、対面形式が85件(60・3%)、WEB形式が56件(39・7%)の開催となっており、事務局へのアンケートでは、WEB開催のメリットとして、「参加者が増えた」と複数の医師会が回答した他、「経費が少なくて済んだ」との回答も見られたとした。
一方、デメリットとしては、運営側の手間が増えたことや音声トラブルを懸念する回答が複数寄せられるとともに、「臨場感が無く、質問が出なかった」「オンラインに不慣れな会員もいる」との指摘もあったことを紹介した。
運動関連資源マップの作成に向けて
引き続き、運動関連資源マップの作成に向け、事前に実施したアンケートを基に協議が行われた。
まず、羽鳥常任理事が、昨年3月の運動・健康スポーツ医学委員会答申において提案された、運動関連資源(場所・人)に関する自治体単位のマップの作成について概説。自分に適した運動場所を探している患者、患者に紹介する運動施設を探している医師、大会前に運動負荷試験を受けられる施設を探している競技者など、さまざまなニーズに応えることができるよう情報の整理を行っていくとした。
また、他団体のスポーツ医、スポーツドクターのマップとして、「日本スポーツ協会」「日本整形外科学会」「日本整形外科スポーツ医学会」のホームページの検索コーナーが紹介された。
更に、健康スポーツ医が地域や運動施設などと連携している好事例として4県医師会から報告があり、兵庫県医師会からは、市民マラソンでの医療救護活動の他、市教育委員会と協力して、幼稚園・小学校職員・PTA・スポーツクラブの生徒を対象に相談事業を実施していることなどについて説明が行われた。
新潟県医師会からは、診療所とフィットネスの連携として、新潟県健康づくり・スポーツ医科学センターでアスリートに各種検査や研究活動を実施していること、障害者スポーツの更なる発展に向けてスポーツ教室や各種競技大会の開催を行っていることが紹介された。
鳥取県医師会からは、メディカルフィットネスジムや訪問看護ステーション、訪問リハビリテーションを運営するクリニックの取り組みを例に、外来での糖尿病や慢性肝臓病患者への運動指導や、多職種への助言を行っていることが報告された。
長崎県医師会からは、県の委託を受けた「健康・体力相談事業」に県医師会から健康スポーツ医が出務し、運動能力を測定・評価した上で、個々人に適した運動処方を提供していることなどが紹介された。
協議では、健康スポーツ医の活動の場が少ないことなどが指摘されるとともに、診療報酬などのインセンティブを求める意見が出された。
長島公之常任理事は、テキストと運動関連資源マップが、インセンティブを確立するための突破口になり得るとの見方を示した上で、マップを作成する段階において、自治体と顔の見える関係を築くことが重要であるとした。
最後に、今村聡副会長が「生活活動・身体活動は健康に不可欠であり、患者へのきめ細かな指導を推進するために、関係者が連携する具体的な仕組みや医師側のインセンティブが必要である」と総括。積年の課題の実現に向け、歩みを進める姿勢を示した。