昭和25年頃は、わが町内のどこの農家の屋敷にも1、2本の渋柿の木はありました。父にその訳を聞いたら「渋柿の木は、剪定(せんてい)は面倒ではないし、消毒は他の果物に比べて少なくて済むし、袋掛けをしなくても良い。更に良いことは、渋柿を買い取り業者が自らもぎ取りして、しかもまとめて買い取ってくれるから手間暇が掛からないので植えているのだ」と教えてくれました。
毎年10月頃になると買い取り業者から「〇~〇日の間に渋柿をもぎ取りに行きますから、よろしくお願いします」との連絡がありました。その期間に業者がはさみ竿で渋柿をほぼ全部もぎ取り、後日もぎ取った量の代金を支払いに来ました。父が言うように各農家の人は何もしなくても業者がもぎ取ってくれて、その分の代金を業者が支払うというやり方は良い方法だと感心しました。しかしこの方法はいつの頃からか行われなくなりました。それは渋柿の消費量が減ってきたのか、それとももぎ取り業者の人手不足なのか分かりません。
そのために自分達で渋柿をもぎ取り、焼酎で渋抜きをして庄内柿として果物店に卸すようになりました。その際、商品にならない渋柿は干し柿にしたり、焼酎で渋抜きにして自家用で消費するようになりました。渋柿をもぎ取るのは子どもの役目だったので、父が2メートルくらいの物干し竿を用意してはさみ竿を作り、渋柿のもぎ取りの方法を教えてくれました。
もぎ取り方法は、渋柿のなっている枝を地上からはさみ竿で挟んで捻(ひね)るのです。そうすると枝が付いたまま、はさみ竿で渋柿を取ることができます。父は渋柿をもぎ取る時の心構えを教えてくれました。一つは渋柿の木は脆(もろ)くて、登ると幹から裂けるために落ちてケガをするから絶対に登ってはいけない。必ず地上からはさみ竿でもぎ取ること。もう一つは高いところの渋柿はもぎ取らなくても良い。その理由は11月の下旬頃になると渋柿は木に付いたまま熟して甘くなるので、その熟柿を目当てにムクドリやスズメなどが集まり食するからです。鳥達にも自然の恵みを与えるべきと言うのが父の教えでした。鳥達が群れをなし、熟柿を食べているのを見ると冬の到来を感じました。
平成の中頃からはどこの家でも積極的に渋柿を収穫しなくなり、そのために雪が降ってからでも渋柿は木に付いたままで、中には熟したままで地上に落ちるのもありました。またどういう訳か木になっている熟柿を鳥達は食べようとはしないように見えました。というより鳥にとって食べきれないほど熟柿があるということなのか、それとも熟柿以上においしい食べ物が見つかったためなのか、その理由は私には分かりません。
いずれにしても、いつまでも熟柿のままで木に付いていることはなく、最後は自然に地表に落下して追肥と成り、翌秋にまた渋柿を実らせることにつながっていくとは思いますが、鳥を含めて自然界の生態系が壊れないことを祈るのみです。
*「はさみ竿」の作り方
2メートルくらいの物干し竿の上端に鉈(なた)で割れ目を入れると節で止まります。節の上部に竹の小枝を挟んで割れ目口を開き、針金できつく固定します。竹の上端は渋柿が付いた枝が入りやすいように、削って割れ目口を広くします。竹の上端はV字型に開き、それが狭すぎれば枝を挟めないし、広すぎると挟み切れず離してしまうので、広げ具合の調節には経験が物を言います。
父が作ってくれたはさみ竿は、渋柿が付いた枝をうまく挟むことができました。父が毎年新しいはさみ竿を作ってくれたことが懐かしく思い出されます。