1 「外来医療の機能の明確化・連携」について
佐古和廣代議員(北海道)は、現在、社会保障審議会医療部会で議論されている「外来機能の明確化・連携」に関して、それを支える基盤が十分ではないとして、総合診療専攻医を10%程度増枠すること、かかりつけ医機能を強化するための方策として、電子カルテの相互参照システムの構築などの環境整備を求めた。
城守国斗常任理事は、総合診療領域専攻医について、総合診療は新たな領域としてスタートしたばかりであることから、今優先すべきは数の確保ではなく、研修体制をより強固なものとし、学問的な裏付けをもって他の領域と比べても遜色のない、質の高い専門医を養成することであると指摘。
また、他の領域の専攻医採用数を抑制し、恣意(しい)的に総合診療領域の専攻医枠を拡大することについても、極めて慎重であるべきとするとともに、今後は質の高い専門医養成のための努力を継続し、優れた総合診療専門医が徐々に臨床の場で活躍していくことで、若い医師達が自ら総合診療領域を選択するよう行動変容を促すことが重要になるとした。
電子カルテの問題に関しては、医療分野における情報連携を進めることでかかりつけ医機能を強化するためには、相互運用性の確保が非常に重要な課題だとする代議員の考えに賛意を表明。
日本医師会としても、究極的には連携に必要なカルテ情報の規格の統一化も視野に入れつつ、まずは医療情報交換のための標準規格の整備を進めるため、厚生労働省に対して2022年度概算要求要望の中で、そのための財政措置を求めているとした上で、「真に患者・医療関係者に役立つシステムの開発・構築、そして、その成果を医療現場に導入してもらうための環境整備を目指し、今後も引き続き、国への働き掛けを行っていく」と述べ、理解を求めた。
2 不妊治療の保険適用への対応
不妊治療の保険適用に対する日本医師会の考えを問う小泉ひろみ代議員(秋田県)の質問には、渡辺弘司常任理事が回答した。
同常任理事は、不妊治療の保険適用については中医協で議論していくことになるが、議論を進める際には関係学会が中心となって検討が進められている『不妊治療に係る診療ガイドライン』(以下、診療ガイドライン)の内容等も踏まえ、審議していくことが確認されている旨を説明。保険適用する治療法の範囲に関しては、策定される『診療ガイドライン』を踏まえ、有効性・安全性等が確認されたものについて、その可否を検討する必要があるとした。
一方、不妊症については原因不明の患者も多く、自由診療の世界でオーダーメイド治療が主流となっており、保険適用に際して、標準治療を決められるとかえって治療に支障を来すという意見があることを紹介。「その場合は、標準的な治療を超える治療でも、有効性が見込めるものは、先進医療として保険適用される治療との併用によって対応できるのではないか」と述べた。
また、夫婦の5組に1組が不妊の検査や治療をしているという現状を踏まえると、財政面での措置も大きな課題になると指摘。更に不妊が疾病とされることで、さまざまな変化が起きることが想定されるとし、今回の改定で保険適用されたとしても、エビデンスが集積されれば、改定の都度、検討していくことになるとの見方を示した。
最後に、同常任理事は代議員が指摘した五つの課題(①治療の質②混合診療解禁への懸念③保険適用の範囲や点数④保険適用外となった治療法に対する保険外併用療養費としての取り扱い⑤助成金のあり方)に言及し、「いずれも重要な問題であり、今後、十分に検討していく必要がある」と述べ、日本医師会としても、国に対して積極的にその解決を求めていくとした。
3 日本医師会の組織運営等について
日本医師会の組織運営等に関する星北斗代議員(福島県)からの二つの質問には、松本吉郎常任理事が回答した。
同常任理事はまず、全日本病院協会の会長が日本医師会の副会長となっていることに懸念が示されたことについては、「むしろ医療への携わり方が異なるさまざまな立場からの意見を尊重し、会内に等しくくみ入れることができるのは、医師会組織がもつ強みである」と強調。コロナ禍で地域医療を崩壊させないよう、医療機関の機能分化や病床確保を進めていくに当たって、「病院団体とより迅速に意思疎通を図りながら密接に連携してこられたことは、大変大きな成果と考えている」とした。
「薬剤師によるコロナワクチン接種行為」については、薬剤師はその専門性を生かし、ワクチン接種の際の担い手の一人として、本来の職務の範囲で予診の支援やワクチンの希釈及びシリンジへの充填(じゅうてん)などを行うべきと考えていると説明。厚生労働省の6月4日付事務連絡においても、薬剤師はワクチン注射を行うのではなく、専門性を生かした本来の職務を行うことになっているとした。
更に、同常任理事は、さまざまな職種が関与する集団接種の業務は多岐にわたっているため、それぞれの職種における役割分担の基本的枠組みと地域への周知を目的に、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会と共に「新型コロナワクチン接種合同会議」を5月19日に立ち上げ、更に連携を進めていくことが合意されていることを報告。「医師を始めとする医療関係職種が一丸となって、地域の実情に応じたきめ細かいワクチン接種体制を構築しなければ、この事業を成し得ない。国民の信頼を得るためには、各地の医師会がワクチン接種体制を主導し、各医療従事者の団体と適切な役割分担を行ってもらうことが極めて重要になる」として、理解と支援を求めた。
4 医師会としての情報発信、リスクコミュニケーション、マスコミ対応について
佐々木聡代議員(東京都)からの「医師会としての情報発信、リスクコミュニケーション、マスコミ対応」に関する質問には、城守常任理事が回答した。
同常任理事は、今般の新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの日本医師会の広報活動について説明した上で、日本医師会から国民に向けた情報発信には(1)エビデンスに基づく正確な医学的・疫学的情報発信を行う、(2)各都道府県の医療現場からの情報を正確に発信する―という二つの役割があると指摘。
今後も幅広い情報源を持つ日本医師会として、日本医師会事務局や日医総研の機能を最大限に発揮することで正確な情報発信に努めるだけでなく、各都道府県・郡市区医師会との更なる情報共有体制の整備を検討していくとともに、発信したさまざまな情報を、受け手に最大限正確に伝えられるよう、費用対効果も考慮しつつ、発信ツール・機会の拡大に努め、国民や会員の要望にタイムリーに応えられる広報に取り組んでいく意向を示した。
「メディアを有効活用するための『マスコミとの距離感・情報共有』」については、明らかに誤った報道に対しては粘り強く説明し、理解を求める一方、各社からのさまざまな取材の申し込み時や毎週の記者会見終了後の記者質問の際には丁寧な対応をとるよう、全役員が努めていることなど、日本医師会のマスコミ対応について説明。「マスコミとの適切な距離感を認識しつつ、こうした地道な活動を継続していくことが、マスコミの皆さんと良好な関係を構築していく近道と考えており、今後も継続していきたい」とした。
その上で、同常任理事は、「新型コロナウイルスのワクチン接種が順調に進み、国民の医療に対する期待や信頼感は非常に高まって来ている今こそ、更に積極的な広報を行うことで、医師会への信頼を高めていきたい」と述べ、引き続きの支援と協力を求めた。
5 ポストコロナ時代に向けた社会保険診療報酬制度のあり方―還暦を迎えた国民皆保険制度の未来像―
黒瀨巌代議員(東京都)は社会保険診療報酬制度を次世代ステージへと推し進める前向きな議論が必要だとして、(1)平時におけるかかりつけ医機能の強化・推進に資する出来高制を原則とする診療報酬体系の抜本的な見直し、(2)医療機能分化を推進し入院医療体制を安定・充実させる目的に向けた診療報酬を含めた医療制度改革の検討、(3)有事に備えた医療安全保障の考え方を基軸とする新しい地域医療構想を支える診療報酬体系のあり方―を課題として挙げ、日本医師会の見解を尋ねた。
長島公之常任理事は(1)について、2013年に日本医師会が四病院団体協議会と共に示したかかりつけ医の定義を見直す必要はないとした上で、フリーアクセスを損ねず、出来高払いを原則とするかかりつけ医機能をしっかりと評価するよう求めていくとの考えを示した。
(2)については、今国会で医療法等並びに健康保険法等が改正されたことに触れ、改正が医療機能の分化、連携を推進するために各地域が自主的に医療機能をあるべき姿に収れんしていく「自主的な収れん」を後押しするものでなければならないと指摘。
また、診療報酬については、地域医療を支える医療機関を公平に支えられる診療報酬体系が重要であるとした他、医療機能の分化と連携に当たっては、全国一律のデータ至上主義ではなく、地域の実情を踏まえた議論が必要であるとした。
(3)については、6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(いわゆる「骨太の方針」)において、「経済安全保障の確保等」の「重要業種」として新たに「医療」が位置付けられたことに加え、日本医師会がこれまで主張してきた新興感染症等への対策が、医療計画の5疾病5事業の6番目の事業として追加されたことを説明。今後は平時の対応と有事の対応を整理して具体的な計画にする必要があるが、2024年4月の医療計画施行に向けた施策の実施を前倒しで進めるよう、引き続き国に要請していくとして、理解を求めた。
6 国民皆保険制度の課題を問う―特に近年増えている高額薬剤について―
高額薬剤に対する医療費のあり方について日本医師会の見解を問う松﨑信夫代議員(茨城県)からの質問には、宮川政昭常任理事が回答した。
同常任理事は、「画期的な新薬の創出は治療に劇的な進歩をもたらす一方で、高額で市場規模の大きい抗体医薬品や再生医療等製品が保険収載されることは医療費全体に影響を及ぼし、国民皆保険の根幹を揺るがしかねない」との認識を示して、代議員の指摘に賛意を表明。
日本医師会の取り組みについては、中医協などで問題提起を行い、新薬創出等加算の適用条件の厳格化や薬価が高止まりしない仕組みを導入するとともに、2019年4月からは薬価収載後に費用対効果評価を行い、薬価調整する仕組みを本格実施するなど、薬価算定の仕組みを根本的に見直すことを提言し、その実現に向けて尽力してきたことを説明した。
その上で、同常任理事は有効性・安全性が確認された新薬が速やかに保険収載されることは、患者のみならず、全ての医療関係者が望んでいることだとし、そのためにも薬価制度のあり方を継続的に見直し、適切な薬価設定を行うとともに、国民負担の軽減と国民皆保険の維持を図り、医療における質の向上を実現していくことが必要になると強調した。
更に、高額医薬品が増え続けることによる小規模な国保組合への財政的影響については、そのようなことで、「組合財政が困窮し、結果的に国民健康保険組合が解散や統廃合となること」、また、「公的医療保険に上乗せする形で高額医薬品を対象とする安易な民間保険の導入」はあってはならないと指摘。今年度から、組合の財政運営安定化を図る高額医療費共同事業への国庫補助が充実されたことを紹介するとともに、「問題解決に向けて更なる新しい取り組みを検討することも必要と考えており、引き続き国と折衝し、諸策を実行していきたい」とした。
7 入院患者が他科受診する場合の点数減額をオンライン診療で回避
須藤英仁代議員(群馬県)からの、入院患者がオンライン診療による他科受診をした場合には点数を減額しないようにするとの提案には、江澤和彦常任理事が回答した。
同常任理事はまず、代議員の提案について、「入院患者」「診療する他の医療機関」「入院医療機関」それぞれにメリットがある仕組みとすることは、臨床現場の観点からの意見として理解できるとする一方で、現行では、入院患者に対するオンライン診療料の算定は認められておらず、診療報酬上の取り扱いに関して検討すべき課題もあると指摘。入院治療は入院医療機関のみで完結させる考え方だけでは十分に対応できない実態があることから、日本医師会では、入院患者の他の医療機関受診における入院基本料減額を診療報酬改定の度に改善する方針で対応してきたと説明するとともに、今後は、高額薬剤や一般的に用いることの少ない他科用薬剤の場合でも、入院患者に必要な専門的医療を効率的に提供するという観点から、減算率の緩和の対象にすることを検討すべきとの考えを示した。
他の医療機関を受診する際に、オンライン診療を利用することに関しては、対面診療した場合との違いの整理の他、利便性のみに着目してオンライン診療を推進することにはさまざまなリスクが伴うこと等にも十分注意すべきであると指摘。「日本医師会は、オンライン診療を解決困難な要因により医療機関へのアクセスが制限されている場合に適切に対面診療を補完するものと位置づけており、対面診療が原則であると考えている。現在、国で検討されている初診からのオンライン診療の恒久的な制度化については、患者と医師の視点において、真の安全性と信頼性の評価に基づき、総合的に判断し、要求していきたい」とした。
また、他の医療機関受診の必要性が増しているとの指摘に対しては、一つの入院医療機関で入院医療を完結できない場合に、入院患者の視点からふさわしい連携と、それに伴う報酬体系について、引き続き厚生労働省と議論していくとするとともに、介護老人保健施設における医療提供のあり方に関しても継続して検討していくとした。
8 令和4年度診療報酬改定について
勝呂衛代議員(静岡県)からの、コロナ禍を踏まえた令和4年度診療報酬改定に対する日本医師会の見解を問う質問には松本常任理事が回答した。
同常任理事は、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響について、(1)医療現場では昼夜の別なく、各医療機関が役割に応じて、懸命に分担・対応することとなっただけではなく、患者の受療行動も大きく変容し、令和2年度改定の効果を十分に検証できる状況にない、(2)日本医師会においても、過去に例のない規模とスピードで危機的状況に陥った医療現場の援助に尽力してきたが、令和2年度の医療費は前年度より約1.3兆円減少し、本来伸びるはずの医療費よりも約2.1兆円の損失となっている―ことを説明。
中医協においても次回改定に向けた検証調査や医業経営調査を実施することを決定したものの、その結果が、前回改定の影響であるのか、コロナの影響であるのか判別が困難であるだけでなく、毎年の薬価改定に加えて、経済が傾いているために改定財源の確保も大きな課題になるとの見通しを示した。
その上で、次回改定に向けては、新型コロナ対応の特例措置の効果に関する検証も踏まえつつ、令和2年度の改定内容をコロナ禍に合わせて手直しすることが重要なミッションになると強調。具体的には、初・再診料の引き上げや、有床診療所を始めとする後方病床の支援の他、感染防止対策実施の評価として基本診療料への加算が認められている時限措置の延長、更には継続的評価とすることを求めていくとした。
また、減収を補填(ほてん)する方式として1点単価を補正して支払う手法や、地域別診療報酬を導入する意見に対しては一貫して反対し、オンライン診療についても対面診療が原則であるというスタンスに変わりないことに言及した上で、次回改定では、これまでのような適正化や大きな見直しは避け、コロナ禍により痛手を被った医療機関を回復させることを主眼とした改定にすべく、重点項目に絞って対応していく姿勢を示した。
9 コロナ禍の地域医療構想について
中村康一代議員(三重県)からは、コロナ禍の地域医療構想について、都道府県の裁量を大幅に取り入れるものとすることを求める提案がなされた。
釜萢敏常任理事は、新型コロナウイルス感染症の流行により、医療現場は新型コロナ以外の病床を閉鎖して重症者の治療に振り向けるなどの対応に追われてきた一方、在宅における健康観察の対応や高齢者施設における医療の提供など、想定していなかった取り組みが必要になったことで、これまでの改革では十分でないことが明らかになったと指摘。
その一方で、人口減少や高齢化の進展により、各地域の医療需要の質及び量が変化する地域医療構想の前提は大きくは変わらないとの見通しも踏まえ、厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」と「地域医療構想に関するワーキンググループ」において、今後の医療提供体制について検討がなされた結果、いわゆる5疾病5事業に新興感染症等対策の追加が提言されるとともに、地域医療構想については「感染拡大時の短期的な医療需要には、各都道府県の『医療計画』に基づき機動的に対応することを前提に、その基本的な枠組み(病床の必要量の推計・考え方など)を維持しつつ、引き続き、着実に取り組みを進めていく必要がある。」とされたことを説明した。
今後に関しては、具体的対応方針の再検証等が求められていた公立・公的医療機関等の中には、新型コロナ患者受け入れにおいて重要な役割を果たしている病院もあることから、これまでどおりの機能を担ってもらうことも含めて見直すべきと強調。地域医療構想については全国一律ではなく、地域性を考慮し、都道府県や構想区域における調整会議の裁量を尊重する必要があるとし、「コロナ禍を通じて、地域の医療資源がどこにどのようにあるのか地域の関係者が情報を共有し、役割の分化と連携を図ってきた今回の経験を生かし、限られた医療資源の中で臨機応変に取り組むことが求められている」との認識を示した。
10 コロナ禍における新興感染症を見据えた医療提供体制の構築について
茂松茂人代議員(大阪府)からは、新型コロナウイルス変異株の蔓延(まんえん)により、特に大阪では医療提供体制が危機的な状況となるとともに、中小民間病院により支えられるわが国の地域医療特有の脆弱性(ぜいじゃくせい)が明らかになったとした上で、(1)コロナ禍の収束後、地域医療構想の着実な推進、診療報酬によるインセンティブ強化、かかりつけ医の制度化、マイナンバーを活用した資格管理システムの構築、といったテーマの議論が深まることが予想されるが、その中で地域医療を守っていく日本医師会のスタンス、(2)コロナ禍により明らかとなった医療提供体制の人的不足について、医師(呼吸器専門医等)を含む医療従事者の確保対策―の2点について日本医師会の見解を問う質問が出された。
釜萢常任理事は(1)について、有事の際には、①医療体制に関する地域の関係者間の合意②規模と機能に応じた医療機関の役割分担③医療機関の減収に対する国による財政的支援―が必要との認識を示すとともに、平時における地域医療構想を着実に進めることの意義を強調。公立・公的医療機関等、民間医療機関の機能分化と連携を更に強化するとともに、限られた医療資源を最大限活用する取り組みを継続することの重要性を指摘した。
また、あるべき医療提供体制の構築のために、「診療報酬を通じた方向付けは一つの手段ではあるものの、これによるひずみを生じさせないための不断の検証が必要」「かかりつけ医の制度化による医療費の抑制には明確に反対」との姿勢を示し、マイナンバーカードを利用した被保険者の資格管理システムについては、それが国民の利便性向上に本当に資するものか、構築に伴う医療機関の負担解消が適切に手当てされているか、注視していくとした。
(2)については、医師の需給は、新型コロナ収束後の医療体制も見据えて考える必要があるとした上で、有事の際に重要になるのは専門医のみならず、専門性を超えて対応できる医師であると強調。今後は卒後研修やかかりつけ医機能研修等を通じ、総合的な診療能力の涵養(かんよう)が重要になるとの認識を示した。
11 医師の氏名変更時に伴う諸問題について
榎本多津子代議員(和歌山県)は、医師、特に女性医師が婚姻時等に直面することの多い姓の変更に伴う諸問題について質問した。
神村裕子常任理事は、日本医師会として、主に働き盛りの女性医師がそのような問題に直面し、対応に忙殺されていることは問題であるとの認識を示した上で、会内の男女共同参画委員会でも平成26・27年度の諮問「輝く女性医師の活躍を実現するための医師会の役割」を受けて議論され、その答申の中で「医籍、保険医登録などにおける旧姓使用について」と項目を立てて言及していることを説明。
更に、女性医師支援センターにおいて、今年新たに『医師の多様な働き方を支えるハンドブック 2021年版』を作成・配布していることも紹介し、「社会人として働く上で必要な制度や基礎知識を50ページ程度にまとめたものであるが、氏名変更に関する手続きには触れていなかったので、2022年版での掲載を目指し、改訂を進めていきたい」との意向を示した。
また、医師の氏名変更や旧姓使用は、「変更時の手間のみならず、その後の勤務先の変更時や諸登録時にも、本人であることを証明するという基本的行為に対して多大な影響がある」とし、日本医師会では、旧姓併記が可能な医師資格証(HPKIカード)を発行していることを紹介。医療機関等が医師の資格を確認する際、厚生労働省医師等資格確認検索では戸籍上の姓(新姓)による検索であるが、医師資格証は旧姓と新姓の同一人であることの証明にも活用できることから、「そういった意味においても医師資格証の普及を図っていきたい」とした。
12 COVID-19への対策について
児玉雅治代議員(広島県)は、COVID-19への対策として、(1)必要病床数の設定、(2)病床確保の方策、(3)マンパワーの確保―の3点に関する日本医師会の方針について質問した。
釜萢常任理事は、まず日本医師会が、「COVID-19への対応は各地域の実情に応じたものであるべきこと」「COVID-19以外の医療との両立を常に目指すべきであること」―を一貫して主張してきたことに触れた上で、(1)に対しては、「都道府県医師会、病院団体及び支部による協議会の立ち上げ」「協議会による情報共有の仕組みの構築・活用等」により、各都道府県における必要病床数が適切に設定されるよう支援するため、協議会の立ち上げの際には、開催費や情報共有ツールの開発と運営費、クラスター発生施設への要員派遣費等の支援を内容とする補助事業を実施していることを説明。
(2)については、後方支援医療機関の病床確保を重視することで、結果的に重症病床の確保や負担軽減を目指してきたことを説明。また、転院調整本部(協議会や地域医療構想調整会議等の合意により設置)が、転出希望病院と受入可能医療機関のマッチングをすることを提案し、厚生労働省事務連絡にも取り入れられたことを紹介するとともに、COVID-19患者の退院基準の周知徹底及び理解促進にも力を入れているとした。
また、(3)については、地域の医師・看護師等の派遣を行い、地域の実情に応じてJMAT等の活用ができることを示していることを報告。更に、「COVID-19 JMAT保険」が、後方支援医療機関や自宅療養先も対象とすることを明確化した他、感染一時金支払い特約を付加することで、派遣隊員が安心して業務に従事できるよう努めているとした。
最後に、同常任理事は、2024年度からスタートする第8次医療計画から「5疾病5事業」に追加される新興感染症への対策の実施前倒しを国に強く要請するとともに、病床の整備やマンパワーの確保計画の策定と更新の仕組み構築を求めていくとして、理解を求めた。
13 国家資格保有者のマイナンバーを活用した管理と医師資格証の今後について
沖中芳彦代議員(山口県)からの、マイナンバーカードで医師資格を確認できることになった場合の、日本医師会発行の医師資格証の取り扱いに関する考えなどを問う質問には、長島常任理事が回答した。
同常任理事はまず、「今後、医療のICT化が急速に進む中では、電子文書に医師の資格情報入りの電子署名をする機能や、システムにログインする際の電子的資格証明が必要になるが、これらの機能はマイナンバーカードにはなく、HPKIカード(医師資格証)がもっている」として、医師資格証の利点を強調。
この件は、日本医師会も構成員として参加した厚生労働省「社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会」の報告書においても、HPKIカードとの機能の違いを明確にすべきという日本医師会の意見が反映され、マイナンバーカードによる医師資格確認の具体的な利用場面は限定的とされていることを説明し、今後も医師資格証の普及をしっかりと進めていく方針を示した。
また、今後、マイナンバーカードが医師免許更新制に結び付けられることへの懸念に対しては、「HPKIカードを広く普及させ、マイナンバーカードを利用する必要性を無くすことが大いに有効」と述べ、日本医師会が進める医師資格証の全会員及び新規医師免許取得者への無料提供、非会員の年間利用料無料化による普及活動に理解と協力を求めた。
その他、マイナンバー制度を潜在看護師の所在確認と職場復帰に活用するとされていることについては、都道府県のナースセンターが実施している復職支援等をより効率的に行うことを目的としたものだと説明。「日本医師会の『他の資格への展開は慎重であるべき』という意見も踏まえ、医師に対して看護職と同様の管理が行われることには歯止めが掛かっているが、今後も状況を注視し、必要な働き掛けをしていきたい」とした。
14 診療報酬本体と薬価・材料費財源は不可分一体であり、薬価・材料費財源の引き下げ分は診療報酬本体に充当するべきである
寺澤正壽代議員(福岡県)からの、日本医師会の次期診療報酬改定に向けての薬価・材料費引き下げ財源の診療報酬本体への充当に関する対策と考えを問う質問には、橋本省常任理事が回答した。
同常任理事は、薬価引き下げ財源の診療報酬改定への振り替えに関する歴史的な経緯を紹介した上で、「財源を切り分けることは不適当であり、薬価・材料費の引き下げ分は、診療報酬本体の改定財源に充当すべき」との代議員の主張に賛意を表明。直近4回の改定において、薬価・材料引き下げ分が、そのまま診療報酬本体の引き上げに活用されていない現状に遺憾の意を示すとともに、「本年の薬価改定で得られる財源についても、コロナ禍に立ち向かっている医療機関支援の原資とするなど、診療報酬上で中間年に加算すべき」とした。
診療報酬改定に向けた対策については、予算が成立する1年前から始まる次年度予算の概算要求の時点から、さまざまな医政活動を展開するとともに、財務省を中心とした歳出抑制圧力が強まる状況を打開するため、国の審議会・協議会、定例記者会見、主要な国会議員への働き掛け等を通じて、財政審の意見に反論し、社会保障制度の重要性や医療の充実が経済の活性化にもつながることなどを、データとともに丁寧に説明していることを説明。
その上で、同常任理事は全国各地の医療現場の声を政府与党に届けることも重要であり、そのためには、都道府県医師会による地元選出国会議員への強力な働き掛けなど、医政活動が不可欠だとして、令和4年度改定における予算編成に向けた協力を呼び掛けた。
その他、同常任理事は新型コロナウイルス感染症を踏まえた医療機関等の経営の観点から、薬価引き下げ財源の一部を活用して、本年4月から初・再診料5点、入院10点を加算するなどの時限的・特例的対応が実現できたことを報告。今後も粘り強く活動していくとして、その支援と協力を求めた。
15 コロナ禍における医師会立看護学校への各種補助金について
藤原繁代議員(福岡県)は、日本医師会に対して、コロナ禍においても看護学生に安全で適切な教育手段を講じるとともに、医師会立看護学校が安定した学校経営ができるよう、国に対して各種補助金の交付を申し入れるよう要望した。
羽鳥裕常任理事はまず、コロナ禍において医療の人的資本は社会的共通資本の一つとしてその重要性が国民に理解され、引き続きその養成・確保に努めなければならない中で、医師会立看護師等養成所の存続が危ぶまれる状況にあることは「社会的矛盾」であると指摘。
その改善に向けて(1)日本医師会から厚生労働省に対応を求めた結果、厚労省では実習補完事業としてシミュレーター等を貸し出す事業が実施された、(2)学生等へのPCR検査の実施に対しては、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」の活用が可能になっている―ことなどを説明。同交付金については、「都道府県・市町村が策定する実施計画に盛り込む必要があるため、行政へ要望して欲しい」と述べるとともに、引き続き、実習前の感染防止対策の徹底を図るなど、実習施設側に理解を求める働き掛けをお願いしたいとした。
遠隔授業に関しては、文部科学省が必要な設備やモバイル通信装置の補助授業を実施したが、対象が学校法人・準学校法人に限定されていたため、令和2年6月に文部科学大臣及び厚生労働大臣に、医師会立・医療機関立学校養成所への支援を要望した結果、令和2年度第三次補正予算において、「地域医療提供体制確保のための看護師等養成所におけるICT等の整備事業」が創設され、令和3年度にも予算が繰り越されていることを紹介。その活用を呼び掛けた。
同常任理事は最後に、「引き続き、地域に根差した看護師等養成所の重要性を訴え、ICTの整備を含め、養成所及び看護学生への支援を強く求めていく」との意向を改めて強調し、理解と協力を求めた。
16 地域医療構想調整会議のあり方の再検討~少子高齢人口減社会での地域医療構想~
牧角寛郎代議員(鹿児島県)は、少子高齢人口減社会における地域医療構想を考える時、医療と介護の一体的な運用が望まれ、そのためには地域医療構想調整会議(以下、調整会議)の専門部会を活用した議論の活性化や日常生活圏域を考慮した二次医療圏の検討などが必要になるとして、日本医師会の見解を求めた。
橋本常任理事は、代議員の指摘に賛意を示した上で、人口変動による将来の医療需要の変化に伴い、現在と同様の医療提供体制の維持が困難な地域では、医療機能が収れんされていくため、介護が担える部分は介護が担い、必要に応じて医療が提供されるといった高い連携体制を構築することが必要だと指摘。日本医師会においても、調整会議の活性化のため、外来・介護連携等の作業部会を設置するための経費を補助するよう国に要請していることを報告した。
「日常生活圏域を考慮した二次医療圏の検討」を求める意見に対しては、日本医師会においても策定段階から構想区域は二次医療圏と異なり、地域の事情に応じて設定することができることを繰り返し主張し、第7次医療計画では構想区域に二次医療圏を合わせていくことになったこと等を説明。また、前回の医療計画・介護保険事業(支援)計画の作成の際に、日本医師会の主張により「関係自治体が地域医師会等の有識者を交えて、医療計画や介護保険事業(支援)計画を作成する上で必要な整合性の確保に関する協議の場」がつくられたことに触れ、次の計画作成に当たっても実効性が必要であるとの考えを示した。
その上で、同常任理事は「2040年に向けては、人口減少社会の進展に対応した、よりきめ細かい医療と介護の連携、地域包括ケアシステムの構築、充実を果たし、これに診療報酬・介護報酬が寄り添い、更に健康寿命の延伸対策等を関連付けていかなければ、わが国の持続的発展はない」と主張。国の基本方針等を審議する場においても、それらの考えを基に日本医師会として議論に臨んでいくとした。