日医定例記者会見 5月26日・6月2日
新興感染症等対策の5疾病5事業への追加
中川俊男会長は、日本医師会がこれまで都道府県医療計画に新興感染症等への対策を追加するよう主張してきた経緯から、医療計画(5疾病5事業)の6番目の事業として追加されたことを高く評価。改正法の施行は、2024年から始まる第8次医療計画に合わせるため、2024年4月からとされているが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は依然として予断を許さない状況であるとして、医療計画における新興感染症対策事業の検討、施策の実施を前倒しで進めることを国に要請した。
今後については、平時の対応と有事の対応を整理し、具体的な計画に落とし込んでいく必要があるとして、①マスク、個人防護具、人工呼吸器、ECMOなどの資材の備蓄②医療従事者、特に専門スタッフの確保と病床の確保―が重要であると説明した。
②については、「新興感染症が発生した時に急いで病床を確保するのではなく、重症者病床はどの病院に何ベッド必要か、中等症はどの病院にするか、軽症や後方支援病床はどの医療機関かを、通常医療への対応も踏まえて定め、毎年更新していく。その際に、地域医療構想の病床数の必要量についても、新興感染症への対応いかんによっては見直す必要もある」と指摘。
厚生労働省が具体的対応方針の再検証対象医療機関として発表した医療機関約440病院の中にも、新型コロナウイルス感染症への対応において地域で重要な役割を果たしてきた病院もあることから、新興感染症対策事業を含めて改めて見直す必要があるとした。
病床機能再編支援事業
昨年度創設され、今回の法改正で地域医療介護総合確保基金の事業の一つに位置付けられた病床機能再編支援事業(いわゆるダウンサイジング補助金)に関しては、「地域医療構想調整会議(以下、調整会議)が重要な役割を担うが、議論が停滞しているところがある。財政当局は、地域医療構想を病床削減ツールとして利用しようとしているが、地域医療構想は、自主的な収れんを理念としており、調整会議で関係者が地域の実情を踏まえた議論を行うことが重要である」と強調。地域医療構想の理念を確認し、調整会議の議論を活性化できるよう、日本医師会としても支援を続けていく意向を示した。
外来医療機能
外来医療機能については、外来機能報告を基に、調整会議を活用するなどして、「医療資源を重点的に活用する外来」を基幹的に担う医療機関について協議を行うことになっているが、「医療資源を重点的に活用する外来」は、手挙げを基本に自主的に進める点がポイントであると強調。今後、厚労省に設置予定の検討会で詳細な議論が行われる見通しであるとして、「データ至上主義ではなく、地域の実情を踏まえた血の通った議論が必要であり、それこそが調整会議の役割でもある」とした。
最後に中川会長は、調整会議が地域医師会、医療関係者の負担になりつつあることにも言及し、「国には、調整会議の役割を整理して示し、議論がスムーズに進むよう財政面も含めた支援をして欲しい」と要望。
更に、「今回の医療法等改正法は、医師の働き方改革を適切に行うだけでなく、有事にも強い医療提供体制を構築し、2025年に向け、各地域が"自主的に"医療機能を収れんしていくことを後押しするものでなければならない」と述べるとともに、日本医師会としても、地域医療の現場の声を具体的な制度設計に生かしていくとした。
医師の働き方改革
一方、今村聡副会長は(1)医師の働き方改革、(2)タスクシフト・タスクシェア、(3)医師の養成課程の見直し―の3点に関する日本医師会の見解を説明した。
(1)に関しては、2024年度からスタートする新制度が、地域医療とのバランスを見ながら時間をかけて改革していくことになった点を評価。やむを得ず一定以上の長時間労働の医師に対して、医師による面接指導が義務化されることについては、面接指導実施医師の養成に関する講習プログラム等に日本医師会として積極的に関与していくとした。
その一方で、コロナ禍において、コロナ患者の治療、ワクチン接種への対応などに追われている現状は無視することはできないと強調。2024年4月施行というスケジュールに合わせて拙速に改革を進めれば、地域医療の混乱を招きかねないとし、「現場が医師の働き方改革にしっかりと取り組める状況であるのか」「過剰な労働下におかれている医師の健康への影響はどうであるのか」など、足元をしっかりと確認しながら、慎重に進めていくことを求めた。
更に、同副会長は今後について、成立に当たって付けられた付帯決議の内容や現場の意見を踏まえて、より良い制度となるよう取り組んでいくとするとともに、行政に対して、「2024年度から罰則付きの労働時間の上限規制がスタートするに当たっては、働き方改革が地域医療に及ぼす影響を見つつ、罰則適用については謙抑的かつ慎重に運用して欲しい」と強く要請した。
タスクシフト・タスクシェア
(2)については、いわゆるタスクシフト、タスクシェアとして、医療関係職種の業務の見直しが行われることに関して、安全な医療を守るため、医師による医療統括、すなわち"メディカルコントロール"と、しっかりした教育体制が必須となると強調。特に、救急救命士については、医療機関の中で業務を行うことを前提とせずに養成されてきたことを踏まえ、他の職種との相互理解を深め、チーム医療の一員として活動していくための準備が必要になるとした。
その上で、日本医師会としても、関係学会や団体と共に、事後検証も含めたメディカルコントロールと研修の体制づくりに協力していきたいとした他、「人口変動が起き、少子化が進む現在、日本の将来を考えれば、各職種の養成は需給見通しに基づいて適切に行われることも重要との観点を持ちながら、引き続き、医療関係職種の養成に寄与していく」と述べた。
医師の養成課程の見直し
また、(3)に関しては、いわゆるStudent doctorが制度化されることについて、日本医師会が2018年5月21日、全国医学部長病院長会議と共に、「卒前卒後のシームレスな医学教育を実現するための提言」を取りまとめ、同様の制度改正を主張してきたことを紹介。今回の法改正はこれからの医師養成にとって極めて重要になるとして、医療安全と国民の医療への信頼を守るため、「CBTやOSCEの更なる改善」と、「診療参加型臨床実習の充実」を、国民の理解も得ながら、求めていく考えを表明し、これらの取り組みによって、より早期に基本的診療能力が獲得されることに期待感を示した。