横倉義武会長は5月25日に「緊急事態宣言」が全国で解除されたことを受けて、翌26日に緊急記者会見を行い、日医が4月1日に公表した「医療危機的状況宣言」についても解除するとした上で、今後、新型コロナウイルス感染症の第2波、第3波の襲来に備える医療提供体制の構築に向けた課題等に関する日医の見解を説明した。 |
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横倉会長は、まず、「新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、現在も新型コロナウイルス感染症に罹患して闘病されている方々にお見舞い申し上げる」と述べた上で、現在も感染の危険がある中で奮闘(ふんとう)している医師を始めとした医療従事者に対する感謝の意を示した。
今回の新型コロナウイルス感染症に対する日本の状況については、本感染症が発生した中国・武漢市と地理的関係が近く、経済的な交流も盛んであり、世界で最も高齢化が進んでいるなどの感染のリスクが高い状況であるにもかかわらず、患者数や死亡者数を諸外国に比べて大幅に低く抑えることができたと振り返った。
その上で、その背景には、日本人の清潔好き、律儀さ・公共の精神等の国民性に基づく国民の協力などの社会的要因と、クラスター対策、ICU管理など高い医療水準、国民皆保険制度などの医療的要因があると指摘。「特に国民皆保険制度における医療へのアクセスの良さに関しては世界に誇るべき宝であることを改めて痛感するとともに、今後も守っていく決意を新たにした」と述べ、国民に対して、同制度への理解を求めるとともに、かかりつけ医をもつことを呼び掛けた。
また、反省点として、個人用防護具(PPE)などの医療物資の流通やPCR検査の目詰まりなどを挙げ、その改善が必要だとした。
今後については、約100年前に世界で流行したスペイン風邪も第2波、第3波の流行があったことを例に挙げ、新型コロナウイルス感染症についてもその懸念があるとして、「第2波、第3波の襲来に備え、万全の準備を進めていかなければならない」と指摘。そのためには、緊急事態宣言下の医療体制に関して、医療現場、日医を始めとした医師会組織、病院団体、政府、都道府県等の役割を、国において早急に議論し、構築する場を設ける必要があるとの考えを示した。
更に、横倉会長は、「本感染症による医療現場の崩壊への危惧ばかりが報じられているが、現在、患者の受診抑制による減収や本感染症患者を受け入れたことで経営が苦しくなるなど、医療機関が経営難になることで医療提供体制の崩壊も迫っている」とし、これに対しても国に対して十分な配慮を求めた。
最後に、横倉会長は、新型コロナウイルス感染症の犠牲者を世界でも稀有(けう)なレベルで食い止め、緊急事態宣言の解除へと導いた安倍内閣や関係者の努力に対して改めて感謝と敬意を表するとともに、日医としても、引き続き医療提供体制を守り抜いていくとして、支援と協力を求めた。
緊急事態宣言解除を受け、取り組みの検証を求める―釜萢常任理事
会見に同席した釜萢敏常任理事は、政府の専門家会議及び諮問委員会の委員の立場から、今回の緊急事態宣言解除に対する見解を述べた。
同常任理事は、まず、1月15日に始めて国内で患者が確認されてからの経緯を振り返った上で、「さまざまな立場の方々の努力の結果、今日に至ることができた」として、感謝の意を示した。
その上で、新型コロナウイルス感染症へのこれまでの対応については、「それぞれの時点で最良と考えられる選択を行ってきたが、その判断に工夫が必要だったというようなことがあれば、今後に生かしていかなければならない」として、国に対して今回の対応に関する検証を求めるとともに、今後について、「現時点においては爆発的な感染拡大は回避でき、医療崩壊に至らずに踏みとどまることができたが、今後も感染の再拡大など予測がつかないことが多いことから、常に警戒感をもって対応を検討していく必要がある」とした。
また、新たな感染拡大の兆候が見られた場合には、できるだけ早く察知し、いかに早く対策を講じるかが重要になるとするとともに、その対応策として、唾液を利用したPCR検査や短時間で結果が分かる抗原検査などが活用されることに期待感を示した。
最後に、同常任理事は、医療提供体制は十分な余力のない限られた環境の中で、医療従事者の努力によって保たれていることを改めて強調した上で、今後、新型コロナウイルスと共に生活をしていく時期がしばらく続くことになるが、感染の拡大を最小限に抑えるためには、国民全てが新たな生活様式として、「人との身体的距離を取る」「マスクの着用」「手洗いを行う」などの基本を踏まえて暮らしていくことが重要になるとして、国民に対して引き続きの理解を求めた。
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