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令和元年(2019年)8月20日(火) / 南から北から / 日医ニュース

奇想天外

 「奇想天外」という名の植物(花)を育てて10年以上になります。まだ一度も花を咲かすことができずにいますが、これについて、少し話をしてみたいと思います。
 この植物を知ったのは数十年前のことになります。ある日、本棚にあった1冊の植物図鑑をめくっていた時、鉢を数段継ぎ足して作った背丈のある植木鉢から左右に長く垂れ下がる2枚の葉をつけた、奇妙な姿形の植物を見たのが最初でした。その時多少の好奇心に駆られたのを覚えていますが、これがきっかけとなって栽培を始めることになった次第です。
 書物によると、この「奇想天外」はアフリカの、ナミビアのナミブ砂漠に自生している特異な植物で、この砂漠以外には世界のどこにも見られないと言われます。この種子は、発芽するとすぐに2枚の本葉を出しますが、これ以外の葉はつけません。そして、この2枚の葉が年に10センチメートルほど、終生にわたり伸び続け、幅を広げながら成長し、ねじれたり、裂けたり、重なり合いながら周囲の砂漠に広がります。その姿は"昆布を無造作に積み重ねた"ような格好で、決して美しい容姿とは言えません。
 根については、発芽とともに1本の根(主根)が出て、ほとんど枝分かれせず垂直に、地中深くに伸びる性質があります。成長した株では、その根の先端は地下10メートルほどに達するとも記されています。
 寿命は、2000年以上の樹齢株が見られることから、相当に長く、また雌雄異株(しゆういしゅ)で、10年に1回程度開花します。雌花、雄花ともに松カサのような形を呈し、これがナミビアの切手の図柄にもなっています。
 さて、「奇想天外」を自分の手で育て始めた時、国内では、無論、種子や苗木が手に入りません。また、ワシントン条約による絶滅危惧種に指定され国外から苗木の輸入が禁止されていますので、種子を南アフリカから購入して始めました。
 最初のうちは、播種(はしゅ)しても、発芽しなかったり、芽が出てもすぐに枯れるという失敗を繰り返し、一定の確率で発芽させるのに4~5年を費やしました。
 次に、発芽させた苗木を育てるために、鉢に工夫が必要となりました。植木鉢の形状は、主根が非常にデリケートで、少しの損傷でも枯れるので、伸びていけるスペースがある鉢、すなわち、できるだけ深い鉢が適します。この条件に合うものとして、最終的に、土管とPVC管(塩ビ管、水道の配管に使われる素材)にたどりつきました。直径が十数センチメートルの太い土管を数本継ぎ足して、あるいは、PVC管を切断して、長さ1・5メートルほどの細長い筒を作り、これを植木鉢に使用しました。
 このような植木鉢を林立させて鉢植え育生を続けています。その中の数株は、10年以上前に発芽したもので、数メートルの葉をつけるまでになっていますが、いまだに一度も花芽をつけません。
 砂漠の植物である割には水を欲しがりますので、庭先で潅水(かんすい)していると、路を通る近所の奥様方から「どんな花が咲くの」と聞かれたりします。早く開花しているところを見せたいものです。

滋賀県 滋賀県医師会報 第841号より

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