昨年の4月に晴れて国家試験に合格し、医者としての人生がスタートした。医者になったら新しい趣味を持とうと思っていたが、先輩からトライアスロンの誘いがきた。
私は体格が小さいので、トライアスロンなんて自信がなく、返事を渋っていたのだが、大学で水泳部に所属していたことから、「水泳さえできれば大丈夫じゃけえ」と言われ、先輩と同期との3人で参加することとなった。
しかし、初期研修医1年目は、一から仕事を覚えなければならず、ただでさえ物覚えの悪い私は毎日仕事に追われ、ほとんど練習することなく(自転車に関しては30分も乗ることなく)、大会の日を迎えることになってしまった。
大会当日、快晴に恵まれた鳥取砂丘の会場に集まった約180人の参加者は、何と見た目30~50代の方ばかりで、我々のような20代らしき人の姿はほとんど見当たらなかった。正直私は、「わしらより歳の人がいっぱいおるんじゃけ、大丈夫じゃろ」と思い、少しほっとして大会に臨んだのだった。
ちなみにトライアスロンの距離は、オリンピック・ディスタンス(スイム1・5キロメートル、バイク40キロメートル、ラン10キロメートル)からアイアンマンレース(スイム3・8キロメートル、バイク180キロメートル、ラン42・195キロメートル)まで何種類かあるが、さすがに今回トライするのはオリンピック・ディスタンスだ。
まずはスイム。漁港近辺を3周して計1・5キロメートル泳ぐコースだ。スタートこそ人が溢れており、顔面を蹴られないように気をつけていたが、やがて人混みが消えて波が落ち着いてくると、海底がだんだんはっきり見えるようになってきた。
そこには鳥取砂丘のような美しいうねりを伴った壮大な砂が広がっていた。この辺りは、海底まで砂丘の続きをなしていたのだ。私は、美しい景色に気分を高揚させながら、比較的楽にスイムを突破し、記録は31分で43位であった。
次のバイクが一番つらかった。操作に慣れていない私は、ギアチェンジを素早くできなかったり、サドルの高さが低めで途中からお尻が痛くなってきたりで次々と抜かれていき、記録は108分、何と最下位であった。やはりせめて2時間は練習しておくべきだったか。
しかし、海抜の高いところから風を切って駆け抜ける際には日本海を眺めることができ、周りに他の選手の姿が見えなくなっていても、それほど気にならなかった。
最後のランでは、らっきょう畑や民家の間を駆け抜け、地元民の励ましの声を受けながら、給水所のぺットボトルの水をマラソン選手のごとく頭にかけたりなんかして、非常に爽快だった。記録は59分。トータルで3時間18分。全体での順位はもう忘れてしまったが、150位くらいだったと思う。
ここで驚くべきことは、表彰された方はみな40代くらいの方であったということだ。なぜ、自分達より10年以上も長く生きておられる方々に、体力勝負で負けてしまったのか。
それは驚きであるとともに希望であった。自分がより歳をとっても、彼らのごとくトライアスロンというハードなスポーツをこなし得るということに、私は大いに感銘を受けた。
もう一つトライアスロンで発見したことは、景色の良さだ。当たり前のことかも知れないが、雄大な自然の中で汗水垂らして、自分の身一つでコースをこなしていくこと、そしてそれを完走した時の気持ちよさはこの上ないものであった。
これから長い医者人生。忙しいだろうが時間を見つけてはトレーニングし、トライアスロンを続けていきたいと思う。