個人質問1 梅毒のアウトブレイクへの対策
全国的な梅毒の増加を受けて、①感染源の追跡②国際標準の治療を実施するための国への働き掛け―を求める神﨑寛子代議員(岡山県)からの質問には、釜萢敏常任理事が回答した。
①に関しては、梅毒は現在5類感染症の分類であるため、情報収集に当たっては一定の限界があることを説明。今後は、感染症法の改正時に梅毒に関しては患者の住所、氏名の届出を求めるようにする、あるいは、より詳細な届出が必要となる3類感染症とする等の対応を求めていく考えを示した。
②については、厚労省の「医療上の必要性の高い未承認薬適応外薬検討会議」において、国際的な標準治療薬であるべンジルペニシリンベンザチン水和物の筋注製剤の開発要請がなされていることを説明。厚労省に対して、スピード感のある対応を強く働き掛けていくとした他、厚労省が毎年作成している性感染症の啓発資料を基に、日医としても引き続き医師への啓発に努めていくとした。
個人質問2 安全・安心な予防接種推進のために
足立光平代議員(兵庫県)からは、①国による安定供給のための仕組みづくりの現状と展望②安全接種のための方法改善と環境整備並びにその支援―に関する質問がなされた。
釜萢常任理事は、①について、厚労省が各医療機関に対するワクチン納入実績をほぼリアルタイムで集計する試みを一部のワクチンで開始したことを報告。今後は、「ワクチンを注文しても直ちに納品されない場合、地域で情報を共有する仕組み」や「不測の事態でワクチン需要が増大した場合に備え、備蓄量を更に拡大するとともに、使用期限切れで廃棄される場合に国が何らかの補償をする仕組み」の検討が求められるとした。
また、②に関しては、いわゆるヒューマンエラーをなくすために複数スタッフでの確認など、システム面での取り組みが極めて大切だとした上で、「今後も厚労省と緊密に連携し、更なる情報提供に努めていく」として、理解を求めた。
個人質問3 地域包括診療加算・診療料について
今村孝子代議員(山口県)の「地域包括診療加算・診療料は将来的に登録医制度を容認する方向性なのか」との質問に、松本吉郎常任理事はまず、日医が登録医制度に反対していることを強調。
かかりつけ医機能の診療報酬上の評価として2014年度診療報酬改定で創設された地域包括診療加算・診療料については、2016・2018年度の改定で要件緩和を図ってきたとするとともに、「日医は基本診療料の引き上げを主張し続けてきたが、厳しい財源制約があり、今回は『かかりつけ医機能を有する医療機関に』という名目で、初診料に機能強化加算を新設することになった」と説明した。
その上で、かかりつけ医機能の普及のため、引き続き、研修制度や診療報酬上の対応を進めていくとし、「かかりつけ医の普及には、かかりつけ医と患者との信頼関係が自然に醸成されるような取り組みが重要である。フリーアクセスを制限する諸外国のような登録医制度はわが国にはなじまない」との見解を示した。
個人質問4 医業の継承問題について
長柄均代議員(福岡県)の医業の継承問題に関する質問には、小玉弘之常任理事が回答。
同常任理事は、「医業の継承問題、特に地方での診療所継承問題は、これからの地域づくり、まちづくりにとって大きな課題である」との認識を示した上で、日医が地域に必要な医療を確保するための税制措置を要望していることを説明。長年、地域医療に尽力したべテラン医師の診療所が、これから開業しようという勤務医に適切にバトンタッチされるようにしていくことが必要であるとした。
一方、民間コンサルタントが都市部での新規開業の勧奨を行っているとの指摘には、「日医も同様の危機感を抱いてきた」と述べ、「医師会と行政が連携して、地域の医療需要の見える化や医師のキャリア形成支援を行っていくべきことを提言し、今回の医療法・医師法改正法案につながった」と強調。今後も医業の継承問題について、地域医療の確保、医師偏在対策、税制措置による支援など、さまざまな面から取り組んでいくとした。
個人質問5 外国人の保険診療上の課題について
目々澤肇代議員(東京都)から、日本の医療保険の資格を有する在留外国人が、治療を目的に母国から親族を呼び寄せ、扶養家族として医療保険を利用しているとの懸念が示されたことに対しては、松本常任理事が回答。
同常任理事は、実態を表す全国的な数字が公表されていないと前置きし、厚労省が昨年3月に行った国保レセプト調査では、明らかに問題があると考えられる事例はほぼ確認されなかったことを報告。一部週刊誌で報道されている状況とは異なるとした上で、厚労省が現在、在留外国人の受診が多い病院や、多く居住している自治体、加入者が多い保険者にヒアリングを実施し、更なる実態把握に努めているとした。
今後に関しては、「この問題は、外国人の人権の面からも慎重な議論が必要である。外国人労働者を含め、訪日・在留外国人が急増していくことが見込まれることから、7月に日医で『第1回外国人医療対策会議』を開催するとともに、プロジェクト委員会も立ち上げ、幅広く検討していく予定である」と述べた。
個人質問6 定期予防接種広域化、ムンプス・ロタワクチンの定期予防接種化について
酒井良代議員(福岡県)の①県内広域化の延長として同様の手続きで全国等しく予防接種が受けられる体制づくり②ムンプス・ロタワクチンの定期接種化―に向けた日医の見解を問う質問には、釜萢常任理事が回答した。
①については、「安全な予防接種は接種を受ける方の体調を熟知するかかりつけ医が対応することが基本であり、県境付近では地域の医師会と隣県の自治体が契約を結ぶなどの方法もある」とする一方、「広域化に当たっては予診票や接種料金、事務手続きの複雑化等さまざまな課題があり、良好な接種環境整備に向けて引き続き尽力していきたい」と述べた。
②については、既に日医の2019年度政府に対する予算要望の中で要望していること、現在、新たな麻しん、おたふくかぜ、風しんの三種混合MMRワクチンの臨床試験が進められていることを報告。その上で、新たなワクチンの市販までには時間が必要であり、現存のおたふくかぜ単独ワクチンを定期接種に加える選択肢や、ロタワクチンのリスクに対する評価や費用対効果など、解決すべき課題があることを指摘し、安全性を確保した上での定期接種化について、今後も働き掛けを行っていく考えを示した。
個人質問7 HPVワクチンに関して
永山雅之代議員(群馬県)からの現在のHPVワクチンに対する日医の見解及び国への対応を問う質問には、釜萢常任理事が、日医としてはHPVワクチン接種後に見られた症状と接種に因果関係があることの明確な根拠が示されていないことや諸外国を含む知見を総合的に判断し、接種の積極的勧奨を再開すべきであるとの考えに至ったことを説明。厚労省が作成(平成30年1月)したリーフレットを日医ホームページで公表するなど、啓発活動を行うことによって、国が同様の判断に至るよう働き掛けを行っているとした。
その上で、「積極的勧奨の差し控えが続くことにより、諸外国に比べて子宮頸がんの発生が著しく増加することは何としても避けなければならない」との考えを示し、再開に当たっては、科学的なエビデンスを踏まえながらしっかりと議論を積み上げることで、積極的な勧奨に向け国民の更なる合意形成を目指していきたいとした。
個人質問8 医師の勤務環境改善における「医療勤務環境改善支援センター」の在り方について
大輪芳裕代議員(愛知県)からの「医療勤務環境改善支援センター」の在り方に関する日医の見解を問う質問には、松本常任理事が回答した。
同常任理事は、本センターが医師の勤務環境改善に十分取り組めていない原因として、「社会保険労務士が院長等と直接話ができていない」「労務管理に関する予算が少ない」等を挙げた上で、「労務管理など医師の勤務環境改善には本センターの取り組みが不可欠であり、また、地域医療支援センターとの連携が必要」との考えを示すとともに、今国会に提出されている改正医療法においても本センターと地域医療支援センターの連携が義務づけられているとした。
また、日医の主催で設置した「医師の働き方検討会議」において、医師と医療機関の多様性を踏まえ、柔軟に対応するための相談・支援を担う「第三者機関」の設置が提案されていることを報告。本センターがその第三者機関の中心を担うべきとの考えを示し、「その運営に関しては各都道府県医師会が深く関わることが重要である」として、都道府県医師会に対して積極的な関与を求めた。
個人質問9 「骨太の方針2018」に対する日医の見解を
濱島高志代議員(京都府)からの「骨太の方針2018」に対する日医の見解を問う質問には、石川広己常任理事が、政府・与党に対し、社会保障を持続可能とするための提言や過度な社会保障財源抑制施策への懸念について理解を求めてきた結果、最も大きな懸念事項であった「いわゆる医療版マクロ経済スライドの導入」は、今回盛り込まれず、社会保障費の具体的な数値目標も設定されなかったとした。
また、受診時定額負担については、昨年の「2017年末までに結論を得る」から「検討する」という表現に後退したこと、後期高齢者の窓口負担、薬剤自己負担については、記載がある一方、金融資産に応じた応能負担を推進すべきとの日医の主張が取り入れられたことなどを説明した他、国民的議論の醸成については5月30日の定例記者会見(別記事参照)で日医の主張を説明したことを紹介。「社会保障の充実が国民不安を解消し、経済の好循環をもたらすことへの理解を引き続き求めていく」とした。
個人質問10 診療報酬における算定要件に関わる研修会の在り方について
伊藤伸一代議員(秋田県)からの診療報酬における算定要件に関わる研修会の在り方についての質問には、松本常任理事が回答した。
同常任理事は、今回の診療報酬改定において創設された小児運動器疾患指導管理料は、小児の運動器疾患に係る適切な研修を修了している常勤医師が要件として規定され、この研修が日本整形外科学会が主催する「小児運動器疾患指導管理医師セミナー」である旨が明確にされていることについて、「整形外科医が不在の地域もあり、学会員や整形外科医以外でも研修できるよう、厚労省等に働き掛けを行っていく」と述べた。
また、中医協では、改定の影響を検証した上で次回改定で修正する流れが確立していることを説明。今回の改定で新設された診療報酬項目については、今後、医療現場への影響を注視して対応していくとするとともに、「会内の社会保険診療報酬検討委員会においても、改定の評価や次回改定の要望をまとめていることから、同委員会でも対応していきたい」と述べた。
個人質問11 健康寿命算定方法統一化について
健康寿命の算定方法の統一化を求める竹重王仁代議員(長野県)からの質問には、羽鳥裕常任理事が回答した。
「健康」の定義については、疾病の有無、自立度、障害の程度、社会参加の有無など、さまざまな切り口があり、それらの要素を総合的に判断して「健康寿命」を算定すべきであると指摘。現在示されている健康寿命の算定方法で健康寿命の分析を行うのは不十分であるとした。
また、前期の公衆衛生委員会答申では、新たな健康の定義に基づく健康寿命の算定方法として、①介護認定調査のデータを基にした65歳時の平均自立余命という考え方を示している②6月15日に都道府県医師会予防・健康づくり(公衆衛生)担当理事連絡協議会を開催し、都道府県版健康会議の設置等、更なる予防・健康づくりの推進に対して協力を依頼した(別記事参照)―こと等を報告。
その上で、同常任理事は、「健康、健康寿命の捉え方から今後の予防・健康づくりの取り組みとその評価方法に至るまで、国民はもちろんのこと、国や関係団体の共通の理解の下で実施されるよう、さまざまな場を通じて主張していきたい」と述べ、更なる理解と協力を求めた。