平成29年度日本医師会医療情報システム協議会が2月3、4の両日、445名の参加者の下、「未来につながる日医IT戦略」をメインテーマとして日医会館で開催され、熱心な議論が行われた。
石川広己常任理事の総合司会で開会。あいさつを行った横倉義武会長は、「日医は、平成28年6月に『日医IT化宣言2016』を策定し、安全なネットワークを構築するとともに、個人のプライバシーを守ると宣言した。平成29年5月、改正個人情報保護法が全面施行されたが、地域医療連携、特に医療と介護の連携の現場においては、法改正を受けて、どのように運用すればいいのか迷っている現実がある。ぜひ、本協議会で議論を深めて欲しい」と述べた。
続いてあいさつした運営委員長の長瀬清北海道医師会長は、「昨今の地域医療連携においては、地域包括ケアシステムの有力なツールとして、地域医療再生基金を活用した医療介護ネットワークが構築されているが、導入時の初期費用は補助金で賄えるものの、運営費の捻出ができず、持続が困難となっているところが多いと聞いている。今後、ICTの活用はますます重要になることから、現場目線での議論も深めて頂きたい」とした。
機微情報を扱う医師はセキュリティに関して最大限の努力をすべき
1日目
1日目に行われた「Ⅰ.改正個人情報保護法の医療現場への影響について―特に医療・介護連携において」では、山本和徳個人情報保護委員会事務局参事官が、改正個人情報保護法のポイントと「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の内容を詳細に解説。
山本隆一医療情報システム開発センター理事長は、ITを使った医療連携における個人情報保護の現状と課題について報告した。
また、自見はなこ参議院議員は、医療界にもシステムの安全に関わる情報を共有するセプターの設立が必要であると指摘した。
その後の指定発言では、BYOD(Bring your own device)の利用について問題提起がなされたが、「ガイドラインでは、原則、BYODは使うべきではないとしており、医療情報と同様に介護情報の中にも流出すると差別に至るような身体的な情報が含まれている。介護情報は外に漏れても良いという考え方は間違っており、医師は医療と介護のプロフェッショナルとして、セキュリティに関して、最大限の努力をすべき」とされた。
2日目
2日目の「Ⅱ.日医IT戦略セッション」では、日医のIT戦略全般について、石川常任理事が報告。「Ⅲ.事例報告セッション」では、地域医療連携ネットワークの相互接続モデル中間報告3題と都道府県・郡市区医師会単位の取り組み事例4題の報告があった。
中間報告では、小阪真二島根県立中央病院長が、医療等IDなどいくつかの前提をつけた上で、異なる地域間(晴れやかネット・まめネット)での診療情報連携(IHE準拠)を行うための実証実験の概要と課題について報告した。
浅尾高行群馬大学未来先端研究機構/ビッグデータ統合解析センター教授は、患者個人の特定と参加同意はマイナンバーカードを、情報を送る側・受け取る側双方の医師の認証はHPKIカードをそれぞれ用いて、群馬大学からアップロードした画像情報を日本海総合病院が受け取ることで、互いに画像が見えるか否かを検証する事業や、より安価な契約形態による地域画像連携ネットワークの構築に向けた取り組みについて説明した。
比嘉靖沖縄県医師会理事は、「おきなわ津梁ネットワーク」へ接続することによる「在宅現場からのカルテやPACS(画像保存通信システム)の閲覧」「診療報酬のオンライン請求サービスの利用」「電子紹介状の作成」の他、臨床検査依頼・検査結果報告データ交換サービスなどを利用した実証事業について報告した。
医師会単位の取り組み報告では、西見幸英浮羽医師会副会長が福岡県とびうめネット事業の一環として行っている、iPadを利用した多職種連携による地域医療介護連携事例を紹介。「iPadを使用すると垣根を越えた意見交換ができる」とその有用性を強調した。
佐藤弥山梨県医師会理事は、個人のスマートフォン内に日医の「かかりつけ連携手帳」を電子化し、PHR(Personal Health Records)として導入した医療・介護連携について報告した。
足立光平兵庫県医師会副会長は、「勤務医も含めて医師資格証を使ったHPKIによるセキュリティが高い医療情報交換が進んでいくだろう」との認識を示した上で、医師資格証の更なる普及に向けた工夫として、日医生涯教育等の受講予約の際に兵庫県医師会のホームページから医師資格証を用いてアクセスすることで、本人確認と医籍登録番号等の入力の手間を省き、当日は会場での受付から単位取得まで可能とした取り組みなどを紹介した。
南野哲男香川大学医学部循環器・腎臓・脳卒中内科学教授は、かがわ医療情報ネットワーク(K-MIX+)を活用した臨床試験の実施について説明。「この取り組みを通じて県民に最新医療の選択肢を提供し、治験促進により若手医師が定着する方策にしたい」とした。
午後からは、「Ⅳ.AIによって変わる医療の未来」が行われた。
佐原康之厚生労働省大臣官房審議官(科学技術・イノベーション)は、AI活用に向けての厚労省の取り組みの概要を報告。「AIは人類の未来にとっても非常に可能性のある技術で、期待も大きい。厚労省では『保健医療分野におけるAI活用推進懇談会』を設置し、平成29年6月に報告書を取りまとめた。今後は、AIの開発を進めるべき重点6領域(ゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援)を中心に政府全体で取り組んでいく」と述べた。
また、保健医療分野AI開発加速コンソーシアムを立ち上げる意向を示し、日医の参加を求めた。
溝上敏文日本IBM株式会社Watson Health Solutions部長は、IBM Watson Health事業の状況と米国メモリアルスローンケタリングがんセンターと共同で開発したがん診断支援のソリューション"Watson for Oncology"を、デモを交えて紹介した。
吉川健啓東京大学医学部附属病院22世紀医療センターコンピュータ画像診断学/予防医学講座特任准教授は、CAD(computer aided/assisted detection/diagnosis:コンピュータ支援検出/診断)を軸に、画像を交えながら具体例を提示。CADの問題点を解決し、臨床応用の促進を目指すプラットフォームとして開発されたCIRCUS(Clinical Infrastructure for Radiologic Computation of United Solutions)についても解説した。
佐藤寿彦株式会社プレシジョン代表取締役社長/CEOは、「10年以上前からAIの基礎技術である機械学習の臨床利用を試みている」とした上で、医療現場において、AIがどのように利用されていくのかユースケースを基に説明。更に、全ての医療従事者が記憶に頼らず医療を提供することが可能となる疾患辞書付きの「今日の問診票」の作成にも取り組んでいることを紹介した。
閉会式では、次回担当県の諸岡信裕茨城県医師会長が、次の協議会に向けた抱負を述べた後、運営委員会副委員長の藤原秀俊北海道医師会副会長が、2日間の協議会を総括し、閉会となった。
なお、本協議会では、「医師資格証」を使った出欠管理を行い、173名の利用があった。