ある日、車でラジオを聞いていたら、「絶対信じられない一言ランキング」をやっていた。6位「怒らないから言って」、5位「また今度ね」、4位「全米スマッシュヒット」、3位「女子が紹介する"可愛い娘"」、2位「無料」、そして1位は「一生のお願い」ということだった。
聞いていて、結構ウケていたのだが、ふと、少し視点をずらして医療界バージョンを考えてみた。そうするとこれらの「一言」が、わが内科診療、ひいてはわが国の医療の実態と欺瞞(ぎまん)を余すことなく映し出していることに気がついた。
順位もそのままで、一つひとつみていく。
6位「怒らないから言って」。これは、薬のアドヒアランス問題である。この後に、「お薬、余っているでしょ?」と続くわけである。ただ、最近私が思うのは、薬を飲んでいないことに対し、このような上から目線で対応するのはよくない、ということである。確かに、薬は必ず余っているだろう。しかしこれは当たり前なのである。例えば私が誰かに血圧の薬を処方された場合、ちゃんと毎日飲むだろうかと自問してみる。絶対無理(100%はムリ、ということ。立場上)である。生活習慣病の診療においては、「薬を残さず飲むのは結構大変だ」くらいの認識を患者さんと共有していないと、逆に実際のアドヒアランスも上がらないと思っている。
5位「また今度ね」。「また今度」、というのは内科開業医にとってはある意味危険なワードである。定期通院している患者さんに「また今度検査しましょうねー」と言って必要な検査を先送ることもあるからだ。あっという間に1年、いや2年くらいの年月が経過する。そしてそういう人に限って重大な病気が発生する。急に姿を消した時、その方は他の病院であなたの見落とした病気を治療しておられるかも知れないのである。
4位「全米スマッシュヒット」。これは米国でなされている医療が世界最先端だと、つい錯覚して飛びついてしまう、わが国の医療全体を覆う問題、いやむしろ自分の問題を浮き彫りにする警句と捉えよう。そもそも「スマッシュヒット」なる言葉は、映画や音楽などで何も褒めることがない場合に使う表現らしく、よく考えると何も意味がない。
とは言え、サイエンスやいわゆるエビデンスは米国に遅れをとる部分は多く、それは認めざるを得ないと思う。アメリカというブランドでなく、内容を吟味できるリテラシーを持ちたいものである。
3位「女子が紹介する"可愛い娘"が可愛かったためしがない!」。これは「医師の紹介先を患者さんが喜んでいないかも知れない」の件である。これは、いろいろなケースや事情もあることだろうし、何とも言いがたいが。
ちなみに、よく紹介状に「御侍史」と書く。最大の敬称「○○先生サマサマ」くらいの意味かと思っていたが、「先生に直接申すのは恐れ多いので、侍史の方、開封して先生に伝えてください」という意味らしい。「おんじし」と読む。
2位「無料」。これはもちろん医療費の問題である。1錠8万円の肝炎治療薬や何千万円もする免疫抑制剤を健康保険や公費負担で行った場合、患者負担は言わばタダみたいなもの。そんな事例が身近なものになってきた今日、そんな医療制度を今までのやり方で支えられるはずがない! タダほど怖いものはない。
1位「一生のお願い」。なぜかこれが1位だった。自分としてはあまり使わない言葉である。ただ、時に私のような者でも、患者さんから「どうしても治りたい」といった"一生のお願い"を託されていると感じることがある。その願いは本物に思える。そのような願いは真摯(しんし)に受け止めていきたいと思っている。